農産物輸出額世界第2位のオランダ、農業支えるテクノロジー企業もトップクラスに

2017.06.29
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オランダといえば、風車とチューリップといったイメージが強いかもしれませんが、同国は米国に次ぐ農産物の輸出大国です。FAO(国際連合食糧農業機関)によれば2013年にトップの米国(16兆6000億円弱)に次ぐ10兆2000億円弱)を輸出しました。同年の日本の輸出額は3520億円弱で世界60位、オランダの約30分の1しかありません。九州とほぼ同じ国土面積しかもたないオランダがなぜ世界トップクラスの農産物の輸出国なのでしょうか。

生産地も生産施設も集約しデジタル化で効率を高める

オランダでは、国土のおよそ45%が農地です。そこでジャガイモ、タマネギ、トマト、ニンジンの4品目を中心に野菜を育てています。FAOの2014年の調査では、これら4品目だけで総生産量の77%強を占めています。日本の場合、総生産量で70%を超えるには、上位10位の生産量を合計(73%強)する必要があります。日本に比べ、限られた品種に注力し大量に生産していることが分かります。

オランダの少品種大量生産を可能にしているのが、同国政府が2004年から取り組んでいる園芸農業の集積地「グリーンポート」の存在です。このグリーンポートからヨーロッパ最大の貿易港であるロッテルダム港までは、「Fresh Corridor」プロジェクトによって構築された物流ルートが走っています。ロッテルダム港は“長さ”を特徴にもつ港で、ライン川の42kmにわたって港湾施設が続いています。Fresh Corridorでは、「AGFコンテナ」という統一規格のコンテナを使い、必要に応じて陸路や鉄道、そして水路を自在に載せ替えながら、大量の作物を輸出拠点に送り届けます。

グリーンポートでの栽培方法の特徴に温室栽培があります。現在はオランダ国内に6カ所にあるグリーンポートでは、巨大な温室が建ち並んでいます。温室内の環境をセンサーで監視し、コンピューターで制御します。一大集積地に大規模な施設を設け、それらの環境を一定に保つことで、なるべく均質な作物を大量に収穫できるようにしているわけです。

オランダ農業の成長とともに世界的な企業も誕生

農業国家オランダには、同分野で世界的な強みを持つ企業が誕生しています。その1社が、種苗会社のRijk Zwaan(ライク・ズワーン)です。1924年、小さな個人商店として創業した同社は、第二次世界大戦後にオランダで園芸農業が急速に普及するなかで、野菜の種子の供給で大きく成長し、今では野菜類の種子では世界でトップ5に入っています。一度は外国企業による買収や会社売却などを経験しましたが、1990年代に経営陣が株を買い戻し、同族経営のような形に戻りました。

その後は研究開発に力を入れ、狭い土地面積でも多くの収穫を期待できる種子や害虫に強い種子などを開発し、オランダの農業政策の期待に応えてきたのです。現在は、世界中に研究開発拠点と販売拠点を置き、オランダ国内にとどまらず世界中で事業を展開しています。ちなみに、Rijk Zwaanの種子は日本では販売代理店の高田種苗が20年以上にわたって販売しています。

グリーンポートの温室栽培を支えるテクノロジーを提供する企業の中にも世界的なシェアを持つ会社が誕生しています。Priva(プリヴァ)がその1社で、温室管理用システムで大きなシェアを持っています。同社の主力製品「Maximizer」は、温室管理に必要なソフトウェアがインストールされており、各種センサーと設備を制御するためのケーブルを接続すれば直ぐに稼働します(動画1)。センサーでは、温室内外の温度・湿度のほか、温室内のCO2濃度、日光の照度、灌漑用水のpH値などを取得。これらデータを元に、暖房機器や電動窓、日よけ、灌漑用水のバルブなどを制御することで、温室の環境を一定に保ちます。「Priva Office」というPC用ソフトウェアを利用すると、Maximizerを遠隔地から監視したり制御したりが可能になります。

動画1:トマト生産企業CombiVlietでの「Maximizer」の利用例

Maximizer同様のシステムを持つ温室を開発し販売するのがVan der Hoeven(ファンデルフーベン)です。同社の「ModulAIR」は、天窓や配管、空調機器などを自動制御する機能を備え、温室内の環境の変化に応じて自動的に動作することで、農作物にとって最適な環境を保とうとします。フランスやロシア、オーストラリア、北米でも販売しています。

野菜工場や乳牛管理のIoTシステムなども

ヨーロッパを代表する家電メーカーであるRoyal Philips(オランダ語表記はKoninklijke Philips N.V.:コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ)も農業分野で大きなビジネスを展開しています。自社開発する照明器具を作物の成長を促進させる“光源”として販売しています。オランダの温室では、光源にLED照明や高圧ナトリウム(HPS:High-pressure sodium)ランプを使う例が増えています。これをうながしたのがPhilipsです。

同社は何年もかけて何百もの農場にLED照明を据え付け、農業に活かす道を研究することで、作物によって最適な明るさ「Light Recipe」が異なることを発見しました。同じ作物でも光の強さや、波長、均一さ、当てる角度、当てる時間などによって、育ち方が変わるというのです。逆に見れば、作物に最適な「Light Recipe」の光を当ててやれば、消費電力を抑えながら作物を大きく育てることが可能になります。生鮮食品メーカーであるオランダStaay Food GroupがLED照明でレタスを育てたところ、レタスの味は良くなり栄養価も高くなったそうです。出荷までにかかる育成時間も、従来の10〜14週間よりも短くできるとしています。

成功しているのは既存企業だけではありません。スタートアップ企業も育っています。2014年12月に創業したConnecterra(コネクテラ)が、その1社。同社は、乳牛の活動を管理するシステムを開発・販売しています。オランダは農作物だけでなく、乳製品の生産が盛んな国でもあるからです。ゴーダチーズやエダムチーズなどがオランダの名産品です。

Connecterraのシステムは、乳牛の健康状態を管理するためのものです。「Cube」というセンサーを乳牛につけることで、乳牛の動きや牧場内の位置などをクラウド上に収集します。そのデータを機械学習で分析することで、乳牛の状態の変化や健康を損なう兆候などを検出します。病気にかかりそうといった兆候をつかむことで適切な対策を打ち、乳牛を健全な状態に保とうとします。蓄積したデータや機械学習の分析結果はPCやスマートフォンから確認できます。同社は既にベルギーやドイツ、デンマーク、スペイン、カナダにも拠点を置いており、近く英国と米国にも拠点を開設する予定です。

動画2:Connecterra社の紹介ビデオ

テクノロジーで農業を継続可能なビジネスに

今、日本の農業は岐路に立たされています。政府がTPP(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement:環太平洋戦略的経済連携協定)参加を決めたことから、いずれは海外から安価な農作物が日本に入ってくることでしょう。今後は、世界各国の農作物とほぼ同等の条件で勝負しなければならなくなります。並行して、少子高齢化の流れは農業にも大きな課題を投げかけています。日本の農業では、肥料を与える時期や収穫のタイミングなど、ベテランの経験と勘に頼ってきた部分が少なくありませんし、技術を後継者に伝えることが難しいのも事実です。

日本とオランダでは、地理的に置かれている環境が大きく異なります。食料自給率なども考えれば、特定の作物だけに集中するという戦略も取れませんし、輸送費などを含めれば価格競争力を保つのも難しいかもしれません。しかし、オランダの農業が、グリーンポートの設定といった政府の施策に加え、農作物が育ちやすい環境を保つためのテクノロジーの数々によって支えられていることは間違いありません。日本の農業を絶やさないためには、センサーや制御装置を含めたデジタルテクノロジーの活用し、より高品質な作物をより効率良く作る仕組みを考える必要がありそうです。

執筆者:谷村 大佑(Digital Innovation Lab)、笹田 仁(ITジャーナリスト)

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