Eコマースに広がるチャットボット+AI、実店舗のような対面販売を可能に

2016.12.13
リスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

「ほしい」と思ったら、その場で商品を検索し注文、早ければ1時間後には手にできるEコマース(電子商取引)。“検索して発注する”というEコマースの分野で、じわじわと広がっているのが対話型のEコマースです。これを可能にしているのが「チャットボット」というテクノロジー。最近は、AI(人工知能)を使って対話するサービスも登場しています。

PCやスマートフォンを使ったコミュニケーションツールに、みなさんは何を使っていますか。以前なら「電子メール」が一般的でしたが、ここ最近は「チャット」をメインに使っている方も多いのではないでしょうか。国内では「LINE」がチャットの代表格ですが、「Facebook」や「Skype」といったSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などもチャット機能を追加提供しています。このチャット機能を使って希望する商品を絞り込みながら買い物や予約ができるのが対話型のEコマース。24時間サービスを提供するために、人が対応するだけでなくチャットボットを利用しています。まずは対話型Eコマースをイメージしていただくために、いくつかのサービスを紹介しましょう。

米Operator:専門家との商品選びを楽しむ

Operator」は、対話しながら欲しいものを探し出すためのサービスです(動画1)。専用のスマホアプリを使って、服や家具、靴といった分野ごとにいる専門家あるいはチャットボットと対話しながら、イメージに最も近い商品を探し出していきます。対話の流れに応じて、実際の人とチャットボットが入れ替わったりもするようです。チケットやホテルの予約なども可能で、Operatorからのレコメンドもあれば、プレゼントを贈る際の相談にも乗ってもらえます。提案内容が気に入れば、Operatorが発注を代行。最安値が保証され、他で安価に売られていれば差額を返金してくれます。

Operator Conversational UI from Operator on Vimeo.
動画1:「Operator」での“対話”の紹介ビデオ

同サービスを展開する米Operatorは、タクシーの配車サービスで有名な米Uber Technologiesの共同創業者でもあるGarrett Camp氏が2014年に立ち上げました。2015年末からは、数分で商品を届ける宅配サービス「Uber RUSH」と提携し、相談から商品の発注、宅配までをワンストップで提供するサービスを米サンフランシスコで開始。同サービスの提供範囲を拡げています。

Booking.comの「Booking Message」:宿泊施設とチャット

「Booking Message」は、世界最大級の旅行検索サイト「Booking.com」が2016年5月に発表した、宿泊先との対話機能です。宿泊先に尋ねたい「チェックイン/チェックアウト時間」「駐車場の手配」「希望のベッドタイプ」などについては、あらかじめ定型文が用意されており、それらを選ぶだけで質問ができます。日本語を含む42カ国語に対応しており、利用者と宿泊施設の双方が使用する言語に合わせてBooking.comが自動で翻訳します(図1)。定型文以外のメッセージの翻訳や、滞在中のコミュニケーションなども試験的な運用が始まっています。

ec%e2%88%92chatbot_1
図1:翻訳機能を使った「Booking Message」での対話の例(出所:Booking.com)

こうしたサービスは海外企業だけが実施しているわけではありません。日本企業からも同様のサービスが登場しています。

mybox AIチャット機能:不動産情報を対話で確認

mybox」は、大東建託グループで賃貸物件の仲介を手がけるハウスコムが顧客1人ひとりに用意する専用ページのサービスです。チャット機能や物件の近隣店舗を検索する機能なども備え、同社に問い合わせた顧客の5割超が利用しています。2016年7月からは、同年2月に開始したAIによる物件検索機能を組み合わせた「mybox AIチャット機能」を開始し、営業時間外の問い合わせにも対応できるようにしました(動画2)。AI機能をもつチャットボットには「コムるくん」の愛称が付いています。利用者はコムるくんと対話しながら、物件を探したり条件を交渉したりが可能です。

動画2:「mybox AIチャット機能」による対話の様子

AIチャット機能を提供するにあたりハウスコムは、賃貸不動産会社に不動産取引のためのインフラ機能を提供しているイタンジと提携。イタンジが持つディープラーニング(深層学習)機能である「nomad」を利用しています。nomadが現在、自動で返答できるのは質問の60%まで。ただ返答率を毎月10%改善されており、今後さらに返答率を高めたいとしています。

実店舗の対面販売に近い感覚を実現

これらサービスに利用されているチャットボットとは、コミュニケーション手段の「チャット」に「ロボット=自動化」の技術を組み合わせたもの。その起源は、計算機科学者のJoseph Weizenbaum(ジョセフ・ワイゼンバウム)氏が1966年に開発した「ELIZA」だと言われています。AIが不可欠な仕組みに見えますが、基本的に事前にプログラミングされたルールに沿って回答を返す仕組みです。ただ最近は、AI技術の取り込みが進んでおり、ディープラーニングにより、より自然な対話や、より確からしい回答を返せるように進化しています。

チャットボットをEコマースに適用したのが対話型Eコマースです。利用者にすれば、電話や電子メールよりも比較的気軽に問合せができ、“相談”というスタイルで必要な情報を得られるため、検索の手間が減るというメリットがあります。返信が早いうえに、チャットの履歴が残るため「言った/言わない」で後々もめることも回避できそうです。

サービス提供者にしても、実店舗での対面販売に近い感覚でのコミュニケーションが可能になり、顧客満足度や成約率の向上が期待できます。メールやWebサイトの検索履歴よりも顧客の反応を容易に取得できますし、リアルタイムに応答していることで“お薦め”に対する反応をみながらレコメンデーションの方向を調整することも可能です。

ただ、利用者にとって問い合わせの敷居が低くなることは、いわゆる“冷やかし”や“いたずら”が増える可能性は否定できません。またチャットボットが対応できる範囲にも限界があるだけに、複雑な問い合わせに対応できる実スタッフの体制も整える必要があります。

サービス各社がチャットボットの開発環境を提供

対話型サービスは今後も増えると予想されます。2015年ごろから、FacebookやLINEなど主なチャットサービスが、ボットを開発するためのAPIを公開しており、企業や個人がチャットボットを開発しやすくなっているからです。例えばFacebookは開発者向けの「Messenger Platform」に2015年4月に「bots for the Messenger Platform」を追加し、同社のチャット機能「Messenger」上でのチャットボットの開発を可能にしました。LINEは2016年9月に「Messaging API」を公開。優勝賞金1000万円というチャットボットの開発コンテスト「LINE BOT AWARD」も開催しています。

米Googleも2016年5月にメッセージアプリ「Google Allo」のiOS版とAndroid版を正式に公開しました。MessengerやLINEと同様に、スタンプやファイル、画像、写真などをやり取りできます。AI技術も搭載し、友人とチャットしている際に、Alloが返信内容を自動で生成・提案します。例えば、「OK」や「了解」など、よく使う言葉は自動で返信するほか、利用者が良く使う言葉やメッセージのやり取りを学習し、より利用者の嗜好に合うようにカスタマイズされていきます。

AI技術を使ったチャットボットの一例が、求人情報サイト「FromA navi」のLINE公式アカウントの「パン田一郎」です。2014年から始まった公式アカウントですが、2016年9月にAI技術が導入されています。利用者の発言における言葉遣いの間違いや誤字などが理解できるほか、会話から利用者個人の関心が高い話題を記憶し、それに即した話題を提供できるようになりました(図2)。パン田一郎との対話は、チャットボットだということを忘れるくらいストレスなく会話を楽しめ、「ユーモアのある友人と会話しているような錯覚をおこすほど」と評価されています。

ec%e2%88%92chatbot_2
図2:「パン田一郎」との対話の例(「パン田一郎」の紹介ページhttp://line.froma.com/より作成)

個人間のコミュニケーション手段として登場したチャットですが、自動化やAI技術の取り込みで、Eコマースにおける“対面販売”手段としての役割が与えられるようになりました。これまでのEコマースでは自社サイトへ誘導するために専用のスマホアプリを提供することが重要視されてきました。今後はLINEやFacebookのチャット画面から、商品の発注や各種の予約、デリバリーの手配など、あらゆるサービスを完結できるようになるのかもしれません。チャットボットを新たな顧客接点として考える必要がありそうです。

執筆者:中村 悦郎(Digital Innovation Lab)、高橋ちさ(ジャーナリスト)

EVENTイベント

PARTNERパートナー