宣伝からコミュニケーションへ、米Enplugが仕掛けるデジタルサイネージの新用途

2017.08.08
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大きな駅や大型ショッピングモールの通路や壁には最近、大型モニターが埋め込まれ、動画や自動的に切り替わる広告が表示されるようになりました。電車内の液晶モニターに流れる動画は、もう珍しくなくなりました。こうしたプロモーションは「デジタルサイネージ」と呼ばれますが、海外では既に“宣伝”のための媒体から“コミュニケーションツール”としての利用が始まっています。米Enplugは、そうしたサイネージを手がけるベンチャー企業。サイネージがコミュニケーションに、どのように利用できるというのでしょうか。

Enplugは、専用デバイスを接続したHDディスプレイに対し、種々のコンテンツをフィルタリングしながら必要な情報を配信できる仕組みを開発するベンチャー企業です。ナンシー・リュー氏が2012年に創業しました。そのリュー氏からデジタルサイネージの新たな使い方を聞く機会がありました。2017年6月に開かれた「デジタルサイネージ ジャパン(DSJ)2017」(主催デジタルサイネージ ジャパン実行委員会)の基調講演です(写真1)。同講演から概要を紹介します。


写真1:米Enplugの創業者であるナンシー・リュー氏

サイネージが離れたオフィスに一体感を生む

Enplugは2015年、米国のデジタル製品の見本市であるCES(シー・イー・エス)の「Showstoppers」というプレゼン大会で勝者になるなど注目を集めました(動画1)。既に世界42カ国で販売し、12の言語に対応しているといいます。リュー氏によれば、「シリコンバレーの大企業で、オフィスにディスプレイが設置されていれば、そこではEnplugがコンテンツを配信している」ほど利用されています。

動画1:Enplugの紹介ビデオ(1分35秒)

その一例が米Meltwater。ノルウェー発でネット上のコメントなどから会社の評判などの分析サービスを手がけるベンチャー企業です。同社では、社内コミュニケーションの活性化を図るために、Enplugを使って各種ニュースや、営業活動の進捗状況などを表示しています(写真2)。これにより「米本社と例えば日本チームのオフィスがつながっているように感じられ、一体感をもって仕事に取り組めるようになった」(同)のだそうです。


写真2:米Meltwaterにおけるオフィスでのサイネージの利用例(Enplugのホームページより)

Enplugが米国企業などに受け入れられている理由の1つが「社内コミュニケーションを改善するためのコンテンツの配信設定が容易なこと」(リュー氏)があります。表示先であるディスプレイのサイズや解像度を問わないほか、種々の設定はすべてWebブラウザから操作できると言います。さらにSDK(ソフトウェア開発キット)を利用すれば、各種のカスタマイズも可能です。

リュー氏は、「YouTubeやSNSなどのほか、例えばレストランならメニューなども簡単に表示できる。モバイル端末と統合したケースでは、モバイル端末をリモコンのように使って操作するゲームを開発した」と話します。

InstagramやTwitterのコンテンツをリアルタイムに表示

設定が容易なことをリュー氏は、講演会場で実演して見せました。Webブラウザから簡単な設定をしたのち、会場に「準備ができました。それでは皆さん、このハッシュタグで、この会場内の写真を撮影しInstagramに投稿してみてください」と呼び掛けたのです。

リュー氏の呼び掛けに従って聴講者が自身のスマホを取り出し、会場の撮影を始めました。すると、ほどなくして講演用のスクリーンに各人が撮影しInstagramに投稿した写真が次々と表示されました。同様のデモは、Twitterでも実施され、ハッシュタグがついたツイート(つぶやき)が次々と表示されました(写真2)。


写真3:会場内でリアルタイムにInstagramとTwitterの投稿を表示した

Twitterなどに対しては「スマートコンテンツフィルター」と呼ぶ機能が用意されているそうです。不適切な表現を含むツイートをスクリーンには表示しないための仕組みです。表示対象を人が判断する「マニュアルフィルタリング」という機能もあります。「手動で承認しない限り表示できない」(リュー氏)ようになります。

ディスプレイのコストは、どんどん下がる

リュー氏がEnplugを立ち上げた背景には、「液晶ディスプレイ自体の価格はどんどん下がる」という読みがあります。ディスプレイは今、4Kから8Kへと解像度を高める開発が続いていますが、それでもディスプレイの価格は買い求めやすい価格帯にすぐに収れんしていきます。「ディスプレイの価格が下がり、企業が設置するディスプレイの数を増やせば増やすほど、コンテンツ表示を容易にするソフトウェアが必要になる」(同)。ここを狙ったのがEnplugだというわけです。

2020年のオリンピック/パラリンピック開催を控え、デジタルサイネージを使った観光案内などへの期待が高まっています。その市場規模は、2017年度に前年度比16.2%増の1487億7500万円、2020年度は3361億7000万円になると予測されています(矢野経済研究所調べ)。

しかし、Enplugの利用例が示すように、ディスプレイの設置場所は屋外だけとは限りません。広告ではないツイートや投稿写真などを表示できるサイネージは、オフィス内のコミュニケーションスタイルにも一石を投じるかもしれません。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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