「止まらない工場」に挑むファナック、AIとIoTで“見て・感じて・考える”ロボットに

2017.06.27
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産業用ロボットメーカーのファナック(FANUC)がデジタル技術を核にした新製品の開発に取り組んでいます。目指すのは「止まらない工場」の実現。主な顧客である製造業の生産性をこれまで以上に高められるようにします。そのカギを握るのがAI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)プラットフォームです。製造業の事業改革は日本の成長戦略にとっても大きな意味を占めます。ファナックはAIとIoTを使って、どんなロボットを開発しようとしているのでしょうか。

工場に黄色いロボットアームがずらりと並ぶ写真を見たことがある読者は少なくないでしょう。この黄色をイメージカラーに持つファナックの原点は、NC(数値制御)とサーボモーターです。1956年に日本の民間企業として初めて開発に成功しました。これら2つの技術を生かしてロボット事業を展開しています。これまでに累計で1700万台のサーボモーター、359万台のCNC(コンピュータNC)、44万台のロボットを出荷したといいます。そのファナックが取り組むのが「止まらない工場(ZDT:Zero Down Time)」の実現です。そのために何を開発するのかについて、同社取締役専務執行役員でロボット事業本部長の稲葉 清典 氏が東京ビッグサイトで2017年5月に開かれた「IoT/M2M展」(主催リードエグジビション ジャパン)で説明しました(写真1)。


写真1:ファナック取締役専務執行役員でロボット事業本部長を務める稲葉 清典 氏

次世代ロボットは人と協働する

「止まらない工場(ZDT)」すなわち「工場の稼働率向上」に向けてファナックが取り組んでいるのが知能ロボットの開発です。知能ロボットとは「見て、感じて、考える」(稲葉氏)ことができるロボットのこと。ロボットに知能を与えられれば「用途や作業内容を拡張でき、それが生産性の向上を後押しできる。ロボット自身が故障を予測できれば故障が生じる前に保守担当者にアラームを発し部品交換を促す『予知保全』が導入できる」(同)ことになります。知能ロボットの開発は「止まらない工場」を実現するための重要な要素だと言えます。

「見て、感じて、考える」の3つの知能は、人とロボットが工場内で協働して作業することを意識しています。中でも、見たものを「感じ」、さらに「考える」ことが重要になります。これを実現した第1弾とも言えるのが、2015年に発表した人と協働で作業できる「協働ロボット」です。なぜ“協働”が重要なのか。一般にロボットアームなど作業現場は周囲を安全柵で囲まれています。重量があり、それなりの速度で動くため、人にとっては危険な道具だったからです。

これに対し協働ロボットは、人に触れたことを“感じ”て自動的に停止するため安全柵は不要になります(動画1)。ロボット化が進むと、ロボットしか存在しない工場の生産ラインがイメージされますが、協働ロボットは、人とロボットの共存を前提にしているのです。

動画1:協調ロボットを使った教育プログラムの提供を始めている(米FANUCより、1分1秒)

「考える」ロボットはロボット同士で改善に取り組む

ロボットに高い動作精度を求める場合、ロボットに作業内容を覚え込ませるチューニングが必要になります。複数の部品が入った箱から1つずつ部品を取り出して仕分けするといった、ばら積み作業などです。ティーチングはベテラン技術者が人手で行ってきましたが、ファナックは今、ここに深層学習(Deep Learning)技術を適用し始めています。

例えば、部品のばら積み作業では、ロボットに同作業を1万回学習させることで、部品の取り出しやすさの定量化に成功。これにより「ベテラン技術者が2日間かけていたティーチング作業を8時間で終えられるようになった」(稲葉氏)のです。学習時間のさらなる短縮に向け、ロボットのネットワーク接続にも取り組んでいます。「1台のロボットなら学習に8時間かかるが、4台のロボットをネットワークでつないで学習させれば学習は2時間で終わる」(同)からです。ロボットのネットワーク接続では、複数台のロボットによる協調作業も期待できます。ロボットの活用領域が拡大できるとして現在、「実用化に向けたシミュレーションを繰り返している」(同)ところです。

学習したロボットが「考える」ようになれば、「品質改善にもつながる」(稲葉氏)とファナックは考えています。一例として稲葉氏が挙げるのが、製造過程で発生する製品のキズの防止です。具体的には、検査工程に配置したロボットが得た知見を、検査工程より前の段階にある加工用ロボットにフィードバックすることで、ロボットが自ら「キズが生じないようにするための加工条件を整える」(同)ことを狙います。検査工程と、品質改善に向けた加工条件の設定までをロボットが担うようになれば、生産管理部門や品質管理部門といった境界すら消えていくのかもしれません。

IoTプラットフォームで複数の工場を結ぶ

ロボット同士が連携するための基盤の開発もファナックは取り組んでいます。IoTプラットフォーム「FIELD system」がそれで、工場内の生産機器を結ぶ役割を担います。 FIELD systemは、工場内にあるロボットやCNCなどの機器を束ねると共に、それらをクラウド上で稼働する「ZDT(Zero Down Time)システム」に接続します。ZDTシステムは、ロボットなどの生産機器から吸い上げた稼働データをチェックすることで、「故障の予兆をとらえ、機器が停止する前に部品を交換するといった予知保全を可能にする」(稲葉氏)のです(動画2)。さらに「複数の工場を結ぶことで、工場をまたいだ生産性の改善にもつなげられる」(同)としています。

動画2:「FIELD system」の紹介ビデオ(米FANUCより、2分8秒)

FIELD systemはオープンな仕組みで、ファナック製ではない製品やアプリケーションも接続できます。具体的には、FIELD systemが持つ「FIELD API」と「コンバータAPI」を利用して接続します。これにより、既設の機器に最新のプログラムをダウンロードしたり、他社機器を一元的に管理したりが可能になります。稲葉氏は「古くなった機器でも最新の機能や操作性を得られるようになる」と、FIELD Systemのメリットを話します。

ロボットとAI/IoTといえば、自動化/無人化がどんどん進み、人が介在する余地がなくなる一方といったイメージが強いかもしれません。ですが、ファナックの協調ロボットのように、逆に人間の側にいて働くロボットも考えられています。いずれにしても、デジタル化は、私たち人間は、どんな働き方、人生の過ごし方を求めるのかを考えることを迫っているようです。

執筆者:小林 秀雄(ITジャーナリスト)

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