“いいね!”で預金金利が変動、ドイツFidor BankがFinTechで仕掛ける新サービス

2017.12.21
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金融業界では、デジタルテクノロジーによる変革を目指すFinTech(FinacialとTechnologiesによる造語)”が話題ですが、一般の消費者にすれば、「ブロックチェーン」や「仮想通貨」といったキーワードは、まだまだ身近に感じられないかもしれません。そうした中、ドイツでは、ではソーシャルメディアのFacebookの“いいね!”で金利が変動する預金口座を提供する銀行が登場しています。どんなサービスを、どんな仕組みで提供しているのでしょうか。

2009年に創業した“世界で最も古いFinTechの銀行”

日本でも、預金口座の開設をうながすために、金融とは全く関係がない指標で金利が変わる企画があります。たとえば、横浜銀行が地元のプロ野球球団の戦績を金利に反映させる「横浜ベイスターズ優勝応援定期」などあります。口座を開設すれば、宝くじを受け取れるという企画もありました。

これに対し、ドイツで今、提供されているのが、ソーシャルメディアのFacebookと連動し、“いいね!”の数によって預金金利が変わる口座です。Fidor Bank(フィドール銀行)が提供する「Smart Current Account」と呼ぶ当座預金口座です。

Smart Current Accountは、クレジットカード大手のMasterCardが発行するデビットカードのための口座です。口座開設者は、FecebookのアカウントとSmart Current Accountを紐付けることで、Fidor BankのFacebookページに投稿されたコンテンツに“いいね!”を押すと、その合計数に応じて口座残高に対する金利が上昇していきます。

2017年10月時点で、口座開設時の利息は0.3%ですが、“いいね!”を押した合計数が2000を超えるたびに0.05%上昇し、最大0.5%まで金利が高まります。同口座には、100ユーロまでなら融資審査を60秒で完了させ緊急融資するサービスも付与されています。

Smart Current Accountを提供するFidor Bankは2009年にドイツで誕生したオンライン専業銀行で、物理的な支店は持っていません。創業直後の2010年には、リーマンショックに端を発した世界的な金融危機に見舞われますが、既存の銀行が信用を失うなかで、消費者にフォーカスしたサービスを展開することで、地道に事業を拡大してきました。創業時から新たな取り組みを打ち出し続けていることから「世界で最も古いFinTechの銀行」とも呼ばれています。

2015年には、銀行におけるテクノロジーの有効利用に対して贈られる「Celent Model Bank of the Year」を受賞。2016年7月には、フランスの大手銀行であるBPCEグループ傘下に入り、EU(欧州連合)圏の銀行業務を担うFidor Bankと、デジタルテクノロジーに特化したFidor Solutionsに別れ、それぞれが事業展開しています。

顧客が求めない商品は売り込まない

Facebookと連携する口座を提供するFidor Bankのコンセプトは「The Banking with Friends(仲間と共にある銀行)」です(動画)。そのため、金融商品に対してアドバイスするファイナンシャルアドバイザー(FP)を置かず、顧客が必要としていない商品を売り込むことはないと言います。

動画1:Fidor Bankのコンセプト「The Banking with Friends(仲間と共にある銀行)」の紹介ビデオ(2分20秒)

同行にとっての最重要課題は、「アクティブな顧客獲得」です。利用者同士のコミュニティを中心にすえた金融サービスを提供し、ネットワークトラフィックを自行に集めるエンゲージメントモデルの構築を目指します。ソーシャルメディアと連携することで、たとえば送金時には、相手の口座番号が分からなくても、メールアドレスやSNSアカウントさえ分かれば送金できます。

銀行と顧客の間でも、Facebookのほか、TwitterやLinkedIn、YouTubeといった各種ソーシャルメディアを通じて対話でき、「銀行の意思決定プロセスに顧客が参加できる」とうたっています。

Fidor Bankと顧客が形成するコミュニティは、「Smart Community」と呼ばれています。同コミュニティでは、活性化を図るために「Fidor Bonus Programme」というインセンティブが用意されています。コミュニティに投稿した記事が、他のメンバーにとって、どれほど有益だったかに応じてボーナスが毎月、Smart Current Accountに支払われるのです。

さらにSmart Communityでは、貢献度や相互作用から顧客の活動を「Community Karma」として、4段階にランク付けします。表1が、その基準です。

ランク 評価基準 加点される行動の例
Idea Generator どれだけアイデアを発信したか ・個人の貯蓄に関する質問をする、または他のユーザの質問に回答する
・商品の提案や貯蓄のヒントの提供する
・ 製品や専門家をレビューする
Networker どれだけ他のユーザとコミュニケーションをとっているか ・他のメンバーとメッセージをやり取りする
・連絡先のリストを増やす
Social Media ソーシャルメディアでの活動内容 ・次の6つのSNS( Twitter、 Facebook、YouTube、Google+、LinkedIn、Instagram)におけるFidorのアカウントにつながる
Opinion Maker コミュニティ活動の活性化への貢献しているか ・コメントやフォーラムの投稿を書く
・コミュニティの投稿を評価する
・グループを作成および/またはグループに参加する
表1:「Community Karma」の4つのランクと評価基準

Community Karmaで高ランクの顧客には、用者は一定の報酬を与えたり、銀行が新しいサービスを提供する際の意見交換会に招待されたりします。ランクが高い顧客だけが参加できるイベントも開かれ、そこで優勝すると賞金やサッカーのチケットが獲得できるようです。

こうした仕組みにより、 Fidor Bankとしても、銀行にロイヤルティを感じている顧客の声をフィードバックした商品を一般に提供することで、顧客満足度の低下を防げますし、コールセンターに対する問い合わせの削減も図れるといいうわけです。

コンセプトを実現するデジタル基盤を自社開発

Smart Current AccountやCommunity Karmaを実現するために、Fidor Bankは独自のデジタルプラットフォームも構築しています。「Fidor OS」が、それです。分社したFidor Solutionsが開発した、銀行業務を遂行するためのプラットフォームで、第三者が利用するためのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)も公開しています。

APIとして交際されている機能には、以下のようなものがあります。

・決済
・口座管理
・P2P送金(SNSアカウントやメールアドレス、電話番号を使った送金)
・顧客管理
・カード管理
・顧客分析
・コミュニティ
・報酬

Fidor OSのAPIを利用したサービスとしては、ドイツの大手通信会社であるテレフォニカドイツの「O2バンキング」があります(動画2)。これは、ドイツ初のモバイルバンキングのサービスです。

動画2:「O2バンキング」の紹介ビデオ(1分02秒、ドイツ語)

金融サービスのオープン化が急がれている

EUでは2016年に「PSD2(Payment Service Directive 2:決済サービス指令)」が発行され、金融サービスのオープン化が急がれています。そうしたなかでFidor Bankは、APIを公開し、顧客視点に立ったサービスの提供に注力しています。最新のデジタルテクノロジーを活用して変革を起こせる対象は広範囲にわたることは確かですが、Fidor Bankのように、顧客視点を忘れないことは最も重要なことではないでしょうか。

執筆者:西田 祐規(Digital Innovation Lab)、奥野 大児(ライター/ブロガー https://twitter.com/odaiji

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