おつりを投資する「トラノコ」と家計簿アプリ「Zaim」の共通項、FinTechが描く未来

2017.10.24
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「FinTech」は、テクノロジーで新たな金融サービスを生みだそうとする動きを指す言葉です。多くの人は「大手金融機関が考えること」「自分たちには縁がないもの」と考えるかもしれません。ですがFinTechで生まれているのは、むしろ金融サービスをより多くの人たちに利用してもらおうとするサービスが中心です。買い物時のお釣り相当額を投資に回せる「トラノコ」と家計簿アプリの「Zaim」もそうしたサービス。トラノコを提供するTORANOTEC社長のジャスティン・バロック氏と、Zaimを提供するZaim社長の閑歳 孝子 氏にサービスに込めた思いを聞きました。

−−トラノコとZaimのスマートフォン用アプリを使ってみましたが、いずれも操作が分かりやすくできていますね。

バロック:ありがとうございます。投資に馴染みがない初心者の方でも、簡単に利用できるよう工夫しています。実際、トラノコのユーザーの半数以上は、投資経験が全くない方です。年齢層では20代と30代が70%を占め、40代を含めると88%になります。保有する金融資産も300万円以下という方が70%に上り、まさに今まで資産運用を検討するゆとりがなかった方々にご利用いただいていることを嬉しく思います。一方で、ユーザーの20%は5年以上の投資経験を有する方々で、投資経験者が豊富な方々にもご利用いただいています。


写真1:TORANOTEC 代表取締役社長のジャスティン・バロック氏

投資が買物と同じく人々の日々の営みに

投資はお金にゆとりがある人、知識がある人がやるものと思っている人はまだまだ多いです。しかし、自分や家族の将来の経済状態については、だれもが自ら考えなくてはいけない時代が来ていると思います。まとまった資金がなくて投資できなければ、いつまでたってもお金が貯まらず投資もできないという状況になってしまいます。

TORANOTECでは、すべての人が投資家になれる世界を作りたいと考えています。投資が買い物と同じように、誰もが日々行う“当たり前”のことになってほしいと思います。そこで500円貯金をする感覚で日々のお買い物の「おつり」相当分を積み上げ、毎月5円から簡単に投資ができるトラノコを開発しました。新しいことをするときは誰でも不安に感じたり面倒になったりするもの。そこで誰にとっても使いやすいようにシンプルに投資ができる楽しいサービスを目指しました。


写真2:Zaim 代表取締役社長の閑歳 孝子 氏

−−トラノコが提供するシンプルな投資とは具体的には、どんなサービスですか。

バロック:トラノコでは3種類のファンドしか用意していません。安定重視の「小トラ」、バランス重視の 「中トラ」、リターン重視の 「大トラ」です。

閑歳:3つというのが良いですね。だいたいみなさん真ん中を選ぶのでしょうか?

バロック:それが、リスクが最も高い「大トラ」が一番人気なのです。金額でみると70%、利用者数でみても約60%が「大トラ」を選んでいますね。

ーーそれは意外ですね。大・中・小の違いは何でしょうか?

バロック:これは投資の“基本のき”になりますが、大・中・小のいずれも様々な資産に分散して投資しています。日本・アメリカ・ヨーロッパといった地域と株・債券・不動産・マテリアル(金・石油など)といった様々な種類の資産に分散させるのですが、各投資先に投資する比率(アロケーション)を各ファンドで変えています。大トラは株の比率が高め、小トラは債券の比率が高めという感じです。

閑歳:男女比はどれくらいなのでしょうか?

バロック:8割が男性ですね。

閑歳:普通はもっと男性の比率が高いように思いますが。

バロック:投資の世界ではそうです。ですがTORANOTECとしては、もっと多くの女性にも投資やトラノコに興味をもってほしいと思います。そのためには、安心感を持ってもらえることが大事だと考えています。

Zaimは「自分のサービス」だと思ってほしい

閑歳:そこはZaimと考え方が近いですね。専門用語が怖く、聞いたことがない言葉が出てくると、そこでもう逃げ出してしまう。ですのでユーザーへのヒアリングを大切にしています。

バロック:我々はトラノコが投資の初心者にも使っていただくサービスだからこそ、長期的に投資できる本質的なファンドを提供しなければならないと考えています。見た目だけ良いもの、一時的にはパフォーマンスが非常に魅力的でもリスクが高く偏っているものを提供しては、マイナスになった時に「また騙された」という“負の印象”だけが残り、投資が習慣となる文化が広まらないですから。

−−ヒアリング以外に、初心者に向けてZaimが大切にしていることはありますか?

閑歳:手触り感です。どの性別、年代にとっても自分事になる存在であるよう、身近に感じられるデザインにしています。Zaimでは起動すると、いきなり自分のアイコンが出てきます。背景にも自分の写真を入れることができます。SNSのようにアプリを開いた時に「自分のサービスなんだ」「自分のデータを預かっているサービスなんだ」と思ってほしいのです。

トラノコの画面構成を見ると、数字そのものを追い過ぎないようにされているので、そこはZaimの考え方に近いのかなと感じます。これもユーザーにヒアリングした結果ですが、画面に数字がバンバンって出てくると、リテラシーが高い方は便利に感じても、初心者は引いてしまうんですね。彼らは画面を見た時に自分の状況が「Good」なのか「Bad」なのかを知って安心したいという気持ちが強いんです。

バロック:簡単でシンプルな画面は、次世代のユーザーをキャッチするためにはキーになるポイントですね。

ITリテラシーがあっても金融に関するリテラシーが低い

−−初心者向けにしたい、分かりやすくしたい考える理由は何でしょうか。

閑歳:例えばヒアリングで、意識しないままクレジットカードの支払いをずっとリボ払いにしていたというケースもありました。リボ払いは、利用額にかかわらず毎月、予め設定した一定額を返済する仕組みですが、利息などを理解したうえで選択するのなら問題はないかと考えています。しかし、リボがどういうものかが分かっていないのに、いつの間にか選んでいる状態になっているというのは問題だと感じました。

ーーカード会社によってはリボ払いがデフォルトになっていることもあります。

閑歳:ですので、どうすれば、もっと分かりやすくなるのか、どうサポートできるのか、ということを強く考えています。

バロック:たとえば10万円のものを買って、年率14%で5年分割した時に実際には13万円以上払っているという感覚を持っていない人が多いですね。今月は、いくら引き落としになるかということだけではなく、金利や手数料を含めて実際にいくら払っているのかということを意識することも重要だと思います。

閑歳:金融や投資については、もう少し学校教育でも取り上げた方が良いですね。

バロック:そうですね。豊かな老後のための資産づくりはもちろんのこと、教育資金や数年後にやりたい趣味のためなど、将来のために資金計画を立てる、そのために投資をするといったことを若いうちから学ぶ機会を増やすことが大事だと思います。トラノコではユーザーの方々が金融や投資について自然に楽しく身につけられればと思い、初心者にもわかりやすいウィークリー解説や資産のシミュレーションを提供しています。

閑歳:Zaimでは家族で使うことをプッシュしています。「うちの家計はこうなっていたのか」「家族4人で暮らすには、これだけ稼がないといけないのか」「大学に入るのって、お金がめちゃくちゃかかるんだ」といったことを家族と話す機会は、あまりないんですよね。そういう思いもあって、最近は子供向けに金融に関するワークショップを開催しています。

共創により、お金をもっと身近な存在にしていきたい

−−ところでトラノコを起動すると最初に「どこと連携していますか?」と聞かれます。その中にZaimもありますが、サービスを連携させるメリットは何でしょうか。

バロック:FinTechではコラボレーションが非常に大事だと考えています。特にトラノコのコンセプトは「おつりで投資」です。その「おつり」は「お買い物データ」から算出するのですから、そのデータを家計簿として持つZaimはトラノコにとてもフィットしています。ZaimはAPIで連携するための技術をいくつも保有しています。同じサービスを我々自身が一から作るのは無駄だと思います。

閑歳:同感です。私たちが投資のサービスを一から作ることはあり得ません。投資の免許もありませんが、全部の会社が同じようなアプリケーションを何度も何度も作るというのは、もう無理な時代になっていると思います。しかし、Zaimのユーザーには投資に興味がある人もいます。連携により情報を補い合い、盛り上げていけるのは大きなメリットです。

−−ユーザーにしても同じようなデータを複数のアプリに登録するのは面倒です。

閑歳:そうですね。ただ、ユーザーが「情報が漏れている」「怖い」と思うようでは受け入れられません。データが自動的につながるのではなく、「このデータは送っていい、このデータは送りたくない」ということをユーザーが能動的に選べるようにしたいですね。


写真3:左から聞き手の宍戸 隆一氏、Zaim社長の閑歳 孝子氏、TORANOTEC社長のジャスティン・バロック氏

バロック:先日取材を受けた記者の方が、「Zaimのユーザーだったけれど最近はあまりログインしていなかった。それがトラノコを使ってみて、その流れからZaimに久しぶりにログインしてみたら、バージョンアップしていて、とても便利になっていた。それでZaimをもう一度使うようになった」とおっしゃっていました。

閑歳:その話を聞いて嬉しかったですね。かつて「そうなればいいな」と思っていたことが現実になっています。

バロック:コラボレーションはとても大事なポイントです。閑歳さんはすごく成功されているので我々も勉強したいです。

閑歳:いえいえ。ただ今って、1人ひとり幸せの形が違いますよね。結婚して子供を産んで、マイホームを持つことだけが幸せではありません。Zaimを使ってみて「1年くらいなら遊んで暮らせるお金があるから、好きなことをやってみよう」といった選択肢を与えたいのです。そんな選択肢を増やすためにも、トラノコなど多くのサービスと連携していきたいと考えています。

バロック:Zaimやトラノコを使うことでお金に対するリテラシーをより高め、より良く生きていただきたいですね。

ーーいろいろなサービスが連携することで新たなエコシステムができてきます。FinTechのサービスにより、生活をハッピーにするためにお金も使うし投資もするといった選択肢が増えれば良いですね。本日はありがとうございました。

<プロフィール>
ジャスティン・バロック氏
TORANOTEC 代表取締役社長
米ステート・ストリート・グループで18年にわたり証券、投資顧問、銀行業務を担当。2004年から2015年までステート・ストリート・グローバル・マーケッツ証券の代表取締役、ステート・ストリート銀行の在日代表、ならびにステート・ストリート・グループの証券部門のアジア環太平洋地域のトップとして、グローバルでビジネスの展開を主導。2016年8月にTORANOTECを設立し代表取締役社長に就任。豪ニューサウスウェールズ大学商学部卒業、同大学経済修士課程修了

閑歳 孝子 氏
Zaim 代表取締役社長
1979 年生まれ、慶應義塾大学環境情報学部卒業。日経BP社にて専門誌の記者・編集に携わった後、Web系ベンチャー2社にて自社パッケージの企画・開発を手がける。独学でサービスやアプリ開発の技術を学び、2011年に家計簿アプリ「Zaim」を個人サービスとして公開。2012年に法人化し、クチコミにより650万人以上が使う国内最大級のサービスに成長させる。App Store・Google Play・Windowsストアアプリの部門別国内一位の三冠、およびグッドデザイン賞ベスト100やライオンズのショートリストノミネートなど数々の賞を受賞。

インタビュアー:宍戸 隆一(Digital Innovation Lab)、角 勝(フィラメント)

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