ウェアラブルデータ活用の黒子、フィンランドFirstbeatが明かす心拍数から分かること

2019.04.25
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スマートウォッチやスマートブレスレットなどウェアラブルデバイスを身に付ける人は珍しくなくなってきました。最近はイヤフォンにも心拍数などが測れる製品が登場しています(関連記事『注目高まるヒアラブルデバイス、デジタル化でイヤホンと補聴器の境界もあいまいに?!』)。

そんなウェアラブルデバイスで収集した心拍数などの解析に特化するベンチャー企業がフィンランドのFirstbeat Technologies。著名なウェアラブルデバイスベンダーに、その技術を提供する、いわば“黒子”のテクノロジー企業です。Firstbeatは、心拍数から何を導き出しているのでしょうか。

心拍数の分析技術をデバイスベンダーに提供

Firstbeatが提供するのは、心拍データをヘルスケアやスポーツ分野で有用な個人情報に変換するための技術です。どのようなときに心拍数が変動するのかを20年も研究してきました。

その技術や知見をウェアラブルデバイス業界に提供することで、デバイスベンダー各社がヘルスケアやフィットネス、スポーツ選手の身体管理などのアプリケーションを開発しているのです。Firstbeatの技術を使っているベンダーとしては、スマートウォッチ分野では、米ガーミンやフィンランドのスント、中国のファーウェイなどがあります。他にも日本のソニーや独ボッシュも同社の顧客です。

心拍データから私たちの身体について何が分かるのでしょうか。FirstbeatのCEO(最高経営責任者)であるJoni Kettunen氏自らが、心拍データついて話しました。東京ビッグサイトで2019年1月に開催された『第5回ウェアラブルエキスポ』(主催:リード エグジビション ジャパン)でのことです(写真1)。同氏の講演から、心拍データが持つ価値を紹介します。


写真1:心拍データついて語るFirstbeatのJoni Kettunen CEO(最高経営責任者)

Kettunen氏は、「私たちの自律神経は心臓や呼吸・酸素の吸入・ストレスへの対応・睡眠・回復・消化をコントロールしている。多くの臓器が総合的に関係しているが、心拍数から、それらの仕組みが分かってくる」と話します。

Firstbeatは、心拍数を他の臓器や活動のデータと連係させる研究にはこの20年、約80の研究機関と共同でも取り組んできました。現在は「生理学上のモデルに数学と物理を応用し、さまざまな測定データと比較・評価している」(Kettunen氏)といいます。

ストレスを貯めると怪我をしやすいことも判明

心電図から分かることの1つにストレスがあります。Firstbeatの技術では、心拍数の変動からストレスが発生している箇所とストレスから回復している箇所がグラフ化され視覚的に分かります(動画1)。

動画1:ストレスの可視化が重要なことを説明するビデオ(1分1秒)

なぜなら「人間はストレスによってリソースが低下する。低下したリソースは夜、睡眠を取ることで回復するようになっている。生理学的なストレスの反応を測定し、それを心拍数の変動で評価する。現時点では標準的な判断基準は定まっていないが、総合的に判断することで実現している」(Kettunen氏)からです。

実験では、被験者に何か作業をしてもらい、それによってどんなストレスが発生し、どのようにしてストレスから回復するかを確認しています。たとえば、被験者にとって理解度が低いテーマについてスピーチの準備をしてもらうなどです。

Kettunen氏は「スピーチの準備をするだけでストレスが溜まる。そして実際にスピーチをしてもらうと、さらに大きなストレスが発生する。その合間に休息を取ると、ストレスから回復している様子も分かる」と言います。暗算をする程度の簡単なタスクの場合のストレスは小さいことも分かっています。

Firstbeatの技術を早くから利用している業界にスポーツがあります。米国のNHL(ナショナルホッケーリーグ)やNBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)、欧州のサッカーリーグなどに属するプロのチームも使用しています。

その最大の目的は、「怪我の回避」(Kettunen氏)です。そのためにコーチは、Firstbeatが提供するデータに基づき、選手への負荷を調節したり、回復の手助けをしたりするのです。同氏によれば、「ストレスを示す数値が、ある値を超えると怪我をしやすくなるという統計データもある。ストレスから十分に回復できていないアスリートは怪我のリスクが高まることも分かってきた」のです。

ストレスの共有が組織のパフォーマンスを改善する

心拍数などの分析からストレスに関心を強めてきたKettunen氏ですが、そのストレスに対し「人間にとってストレスは、すべてがダメということではない。高いパフォーマンスを発揮するにストレスも必要になる。だからこそ、ストレスから回復できるかどうかが重要になる」とも指摘します。

そこでKettunen氏が現在、取り組んでいるのが自身のストレスを他者に適切に伝える仕組みの開発です。「ストレスが高ければ色々な問題が生じる。大きなストレスを感じている日などは、それを理解してほしいこともある」(同氏)からです。ストレスの大きさを適切に伝えられれば、「組織として最大のパフォーマンスを発揮できるように工夫できるようになる」(同氏)とも期待します(動画)。

動画2:組織のパフォーマンスとストレスの関係を説明するビデオ(1分41秒)

Kettunen氏は、「これまで、ストレスにどう反応するか、どのように回復するかを研究してきた。身体の中で生理学的に起こっていることが理解できれば、それに対し、なすべきことも分かる。睡眠をはじめ、どのようにコントロールすれば良いのかが提案できるようになる」と語ります。

そしてFirstbeatとしては、「新しい測定方法や測定値を開発した際は、コンシューマーに最もわかりやすく伝わる方法を考えている。心臓や生理学についての知識を持っていなくても、わかりやすく、役に立つ形で伝えなければならないと考えている」(Kettunen氏)と言います。

ウェアラブルデバイスを使ってヘルスケアやフィットネスなどに取り組む人々が増えていますが、その裏側には人間の身体や生理学などを研究し、誰もが分かる形に変えることを考えているFirstbeatのようなテクノロジー企業の存在があります。デジタルの時代には、専門知識やテクノロジーをいかに多くの人が理解できる形にできるかが、ますます重要になりそうです。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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