加熱するウェラブルデバイス市場で米Fitbitが成功している秘訣とは?

2017.02.09
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IoT(モノのインターネット)やAR(拡張現実)/VR(仮想現実)といった分野を中心に、私たちが身に付ける「ウェアラブルデバイス」が話題になっています。そうした中で順調に販売台数を伸ばしているのが米Fitbitが開発する活動量計の「Fitbit」。加熱する市場でFitbitはなぜ成長を続けられるのか。日本発のウェアラブルデバイスとは何が違うのでしょうか。

伸びるウェラブル市場だがリスト型は競争が激化

その秘訣について、Fitbitのシニアアドバイザーを務める熊谷 芳太郎 氏から直接、聞く機会がありました(写真1)。東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれた「第4回ウェアラブルEXPO」(主催:リード エグジビション ジャパン)の特別講演が、それです。市場動向に詳しいトーマツ ベンチャーサポートの海外事業部長でシリコンバレー事務所代表の木村 将之 氏とともに登壇し、「シリコンバレーで今注目のスタートアップと成功のカギ」と題し講演と対談をされました。

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写真1:米Fitbitのシニアアドバイザーを務める熊谷 芳太郎 氏

米シリコンバレーにおけるウェアラブルに関するスタートアップ企業の状況について、トーマツ ベンチャーサポートの木村氏が解説しました(写真2)。木村氏によれば、「ウェラブル市場は伸び続けている」のが実状で「中でもAR/VRを実現するためのアイウェア関連のスタートアップへの投資が盛ん」です。結果、アイウェア型デバイスの市場規模は2025年に約5000億円になると予想されています。

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写真2:トーマツ ベンチャーサポートの海外事業部長でシリコンバレー事務所代表の木村 将之 氏

一方でFitbitも属するリスト型ウェアラブルデバイスを開発するスタートアップは「厳しい状況に追い込まれている」(木村氏)と言います。その最大の理由は「低価格化の傾向がある」こと。リスト型は大きく(1)フィットネストラッカーと(2)スマートウォッチに分けられますが、フィットネストラッカーの価格は20〜100ドルが主流になっています。米Appleの「Apple Watch」などのスマートウォッチも価格低下が進んでいるようです。

そのためフィットネストラッカーのスタートアップ企業は、API(プログラミングインタフェース)の公開やSDK(ソフトウェア開発環境)の提供により、外部連携によるアプリの充実や健康ソリューションの開発など「自社テクノロジーのプラットフォーム化に積極的に乗り出している」(木村氏)と言います。一方のスマートウォッチ分野では「スイスのTAG Heuerや米Fossil Groupといった一般の時計メーカーが参入してきたことが競争を激しくする一因」(同)です。

木村氏はウェラブルデバイスの利用者は(1)健康志向、(2)テクノロジーのアーリーアダプター、(3)ファッション思考の3タイプに分かれるとします。そしてスタートアップ企業が成功するにはユーザー層の別に次のようなシナリオがあると指摘します。

(1)対健康志向の利用者層:超低価格×プラットフォーム化、つまりデバイスを先に浸透させアプリケーションやサービスで価値を生み出す。あるいは特定の課題に特化したソリューション。代表例は、GOQiiLumo BodytechAthosMC10
(2)対テクノロジーのアーリーアダプター層:多機能化、つまり、高機能かつ用途の充実を図る。代表例はThalmic labs
(3)対ファッション思考の利用者層:一般の時計メーカーがウェラブル市場に参入することをサポートする。代表例はfullpower technologies

では実際にウェアラブル市場でビジネスを展開するFitbitの場合は、どうなのでしょうか。

創業10年、全社員1700人のうち80%がソフトウェア開発者

Fitbitの創業は2007年。ジェームズ・パーク氏(現CEO)とエリック・フリードマン氏(現CTO)の2人が設立者です。ゲーム好きだった2人が、任天堂のゲーム機に夢中になっていたころ、「内部に素晴らしいセンサーが入っていることを知った。それをヒントに、フィットネスや健康用途に簡単に着用できるシンプルな製品を開発した」(熊谷氏)のが、Fitbitの始まりです。自らも起業家である熊谷氏は、Fitbitの設立当初からアドバイザーを務めてきました。アメリカ在住は46年におよびます。

現在のFitbitは、歩数や心拍数、睡眠時の様子などを測定する、いわゆる活動量計として、リストバンド型とスマートウォッチ型の製品を提供しています(動画)。デザイン性を高めた製品も手がけます。ビジネスの展開先は63カ国にまで広がり、月平均150万個の製品を販売しています。社員数は1700人ですが「うち80%がソフトウェア開発者」(熊谷氏)とのこと。加えて「外部に委託している約3500人のカスタマーサポート体制がFitbitのビジネスを支えている」(同)としています。

動画:Fitbit製品紹介ビデオ

日本には2013年から進出しています。この日本進出を担当したのも熊谷氏です。当初は「大手量販店にFitbitの販売を持ちかけても相手にしてもらえなかった」と言います。ゲーム業界に携わっていた熊谷氏が、かつてのツテを頼りにソフトバンクに依頼した結果として、「iPhoneとのバンドルビジネスがスタートした」(同)とのこと。そして「ソフトバンクが人気アイドルグループのSMAPを起用したテレビCMを打ったことで、一気にFitbitの名前を広めることに成功した」(同)のです。

最近は、法人向けビジネスも増やしています。健康をキーワードに、企業が社員にFitbitを配布して健康増進をうながし医療費を削減するという動きです。すでに法人顧客数は「1000社を超える」(熊谷氏)といいます。ただ日本では「企業が配布するデバイスの扱いなどに色々な条件が付されることがある。それが海外では、とにかく配し社員の自主性に委ねるという動きがほとんど」(同)とのことです。同分野の成長に向けては、保険会社や大学との共同研究や、フィットネス業界とのパートナーシップ締結なども進めています。

スピード重視で必要なテクノロジーを買収

Fitbitも成長の過程では、いくつかの企業買収を実施しています。2015年のFitStar(健康支援アプリケーション)や、2016年のCoin(NFC決済)とPebble(スマートウォッチ用アプリケーション)、そして2017年はVector Watch(デザイン重視のスマートウォッチ)です。熊谷氏は「スピードを重視し、必要なテクノロジーを買っている」としたうえで、これらの買収の狙いについて、木村氏からの質問に答える形で、次のように説明します。

Coinを買収したのは「米国向け製品に2017年度中にVISAとマスターカードの決済機能を提供するため」。ただ日本市場に向けては「(日本で普及している)Felica機能の搭載が難しいため検討が必要」なようです。Pebbleの買収は「同社の特許と優秀なエンジニア、そしてAPIを軸にした開発者コミュニティを獲得するため」で、Vector Watchは「約1カ月も電池が持つという技術に魅力を感じたため」です。基本的には特許などの知的財産の獲得が狙いですが、物理的な距離、すなわち「Fitbitのオフィスから近いところにあることも重要な条件」です。

これらの買収もあり、激化しているというウェラブル市場にあっても「競争しているという感じはない」と熊谷氏は明かします。同市場に参入した日本の家電メーカーに対しても、「競争以前に“勝手に”こけていったというイメージ」だとします。その要因の1つはテクノロジーに対するスピード感。「日本企業は自社ですべてを実現しようとする傾向が強い」(熊谷氏)ためです。一方でそれは「日本には素晴らしい技術がある」(同)という評価にもつながります。

テクノロジーだけではスタートアップは成功しない

熊谷氏自身、日本を訪れる際には秋葉原などの電気街を必ず訪問し、家電量販店の店頭などの最新トレンドをウォッチしていると言います。「おもちゃの類いに様々な新規事業の“タネ”が豊富に埋め込まれているから」(熊谷氏)です。さらに「日本には思いやりや気配りもある」と熊谷氏は指摘します。それだけに「優れた技術に日本独自の思いやりや気配りを組み込めれば、画期的に売れる可能性がある。フレッシュな考え方と気持ちを持って新規事業にチャレンジしてほしい」とエールも送ります。

そんな熊谷氏が考える“成功する商品”は「簡単で多くの人が使ってみたいと思うもの」。Fitbitとしては「沢山の利用者が、より健康で活動的な毎日を楽しく過ごしてもらう」という“使命”を掲げています。熊谷氏は、「人の手首の1つは時計が占有しているが、もう一方は空いている。シートベルトが定着したように、100%近い着用率を目指す」と大きな目標を話しました。

ただスタートアップ企業が成功するかどうかについては、「『これだ!』という解は見つかっていない。だが“運とタイミング”が大きく影響することは確かだ」としています。加えて、「IPO(株式公開)などで成功した際には、その成功を仲間全員で公平に分か合う必要がある」とも指摘します。シリコンバレー発のスタートアップ企業と言えばテクノロジーの塊のようなイメージですが、彼らも決してテクノロジーで突き進むだけでなく、大きな使命を掲げながら、その実現に向けたチーム作りなどにも腐心しているようです。

執筆者:中村 仁美(ITジャーナリスト)

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