日本発ものづくりベンチャーFOMMがタイで小型EV量産、交換式バッテリーとシェアリングサービスで挑む

2019.01.29
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ものづくりの国と評される日本ですが、ものづくり分野ではベンチャー企業の活躍が難しいとの指摘もあります。そうしたなか、川崎市に本社を置くベンチャー企業のFOMMが2019年2月、自社開発する小型EV(電気自動車)の量産をタイで始めます。「100年に1度の大変革期」にあるという自動車分野にあってFOMMは、どんな戦略で世界に羽ばたこうとしているのでしょうか。

スズキの2輪やトヨタの小型EV開発の経験を生かす

FOMMは2013年2月に創業した日本の、ものづくりベンチャーです。社名は「First One Mile Mobility」の頭文字から採られており、自宅から駅やシェアリングサービスの拠点など、他の交通手段を利用できるまでの近距離の移動手段を提供するのが目標です。

創業者の鶴巻 日出夫 氏は、スズキ自動車でスクーターなど2輪車の設計に携わった後、トヨタ自動車の子会社アラコで、1人乗りの小型EV「コムス」を開発しました。その後、トヨタ車体が手がけることになった新型コムスも企画・開発しています。コムスは、トヨタのシェアリングサービス「Ha:Mo(ハーモ)」にも使われているEVです(関連記事)。

そんな鶴巻氏が率いるFOMMが開発しているのが4人乗りの小型EV。車輪を直接駆動するインホイールモータなども自社開発しています。水上を走行できるという特徴も持っています。東日本大震災の経験から「津波などが発生したときに、足が不自由な人でも避難できるように、水に浮く車を作りたい」との思いが創業のきっかけになったそうです。

最初のコンセプトカー「FOMM CONCEPT One」は2014年2月に発表しました。その後も量産に向けた開発を続けてきましたが、2019年2月、いよいよタイで量産に着手します(動画1)。

動画1:「FOMM ONE」の紹介ビデオ(2分10秒)

タイの成長戦略「Thailand4.0」にも合致

量産する「FOMM ONE」の大きさは全長2585×幅1295×高さ1560ミリ、重さは630キログラム。1回の充電による走行距離は160キロメートルで、タイでは66万4000バーツ(225万7600円、1バーツ3.4円換算)で販売します。2018年11月1日から4日にはタイ・バンコク市内で一般ユーザーを対象にした試乗会を開催し、11月29日から12月10日には「タイ国際モーターエキスポ2018」に出展し、優先販売の先行予約も受け付けました(写真1)。


写真1:「タイ国際モーターエキスポ2018」に出展されたFOMM ONE(写真提供:FOMM)

最初の量産地にタイを選んだのは、慢性的な都市部の渋滞や、それに伴う環境問題、そして雨期に起こる洪水など、さまざまな課題に対しFOMM ONEの特徴が活かせると考えるのが理由の1つです。

発展途上国では今後、自動車へのニーズが高まりますが、それらに従来型の内燃機関による自動車で応えようとすれば、製造のための資源や化石燃料、排出ガスなどの環境負荷に地球は耐えきれるでしょうか。小型EVなら環境負荷の軽減が期待できます。実際、FOMM ONEの部品点数は、一般的なガソリン車の3万点に対し約1600点と、およそ20分の1程度で、製造のための負荷も大きく減少します。

もう1つの理由は、タイ政府がASEANにおけるEVのハブになると宣言していることがあります。もともとタイは、アジアにおける自動車産業の集積地です。そのうえでタイ国家エネルギー政策委員会(NEPC)は 2016年3月、EVを本格普及させるためのロードマップを承認しました。

タイの成長戦略である「Thailand4.0」にも、EVシフトが盛り込まれ、移動や輸送によって排出されるエネルギーの25%削減を目指しています。そのために2036 年までに、国内の EV 台数を120万台にまで増やし、充電ステーションも最低でも700~800カ所、最大で1000カ所を整備する予定です。

こうした政策を背景に、FOMMはタイ商務省との関係強化を図りながら量産準備を進めてきました。ピチェート元科学大臣やプラユット首相などが試乗したこともあります。緊急時には水上走行ができることも、タイで頻発する洪水時に活躍できると評価されたようです。

小型バッテリーのシェアリングモデルを採用

とはいえ、Thailand4.0を見据えれば、大手自動車メーカーなどもEV投入を計画するでしょうし、小型EVの分野では中国などに多数の競争相手が存在します。FOMMとしては、小型・低価格や水上走行以外に、どんな差別化を図ろうとしているのでしょうか。

FOMMの差別化戦略は、EVの動力源となるバッテリーのシェアリングサービスの投入です(図1)。バッテリーを着脱式にするとともに、バッテリーと、その交換インフラの情報をクラウドで管理し、バッテリーを適時交換しながら走行できるようにします。バッテリーの使用料も月額課金制にする予定です。


図1:FOMMが投入する「Battery Cloud」の概念(同社資料より)

すなわち、FOMM ONEという小型EV自体を販売するだけではなく、FOMM ONEを使った移動サービスをパッケージとして提供するわけです。Battery Cloudを用いることで、バッテリーだけでなく、FOMM ONEの状態も把握できるため、状況に応じたメンテナンスサービスの提供が可能になります。

これまでEVには、航続距離に対する不安があり、バッテリーの容量・性能の向上・充電インフラの整備が不可欠だと考えられてきました。ただ、EVの車両数と充電インフラの整備は、いわゆる“ニワトリと卵”の関係にあり、どちらかが普及しないと結局どちらも整備が進まないという状態が続いてきました。充電にかかる時間も、まだ短いとは言えず、出先での充電待ち渋滞といった不安も残されています。

電動アシスト自転車並みの“手軽さ”で普及を後押し

この解消策の1つが交換式バッテリーです。専用ステーションなどで充電済みのバッテリーと交換することで、少ない拠点で多数のEVに給電しようという考えです。この仕組みは、2010年前後に、イスラエルのベンチャー企業、ベタープレイスがチャレンジしましたが、大型バッテリーを交換する大掛かりなインフラが必要だったため、うまく普及しませんでした。

これらに対しFOMMは“小型”であることのメリットを最大限に生かし、バッテリー交換のインフラ整備を最初の展開国であるタイで進めています。具体的には、小型・軽量であるため、バッテリーも小型で良いこと、小型なのでカセット式で交換できること、などの特徴を活かし、「自動販売機が設置でき小型EVが駐車できるスペースがあれば充電ステーションとして運用できる」としています。電動アシスト自転車と同様の手軽さだというわけです。

これらの交換式バッテリーをクラウドで管理するのが、Battery Cloudの仕組みです。バッテリー切れが起こる前にドライバーに給電をうながすことももちろんですが、実はバッテリーの品質管理という目的もあります。質の良いバッテリーのみを流通させることでEVの走行可能距離を維持し、ドライバーの“安心感”を高めます。加えて、劣化したバッテリーについても使用履歴・特性変化履歴などの情報を把握することで、再利用を促進する考えです。

生産工場も小型になり多地点展開を計画

世界中でEVシフトが進むなか、FOMMは“小型化”を戦略に選びました。手軽な交換式バッテリーの実現や、交換ステーションの普及促進、クラウドによるバッテリー管理など、小型だからこその特徴を活かし、渋滞緩和や環境汚染の軽減など、社会的な課題解決を目指します。

さらに、部品総数が約1600点ということから、FOMM ONEの製造施設の小型化が図れます。タイの製造施設をマザー工場に位置付け、東南アジアなどの新興国を足掛かりに多数の小型工場を世界に展開したい考えです(図2)。2輪バイクから4輪車への移行期を迎えるASEANをはじめとする新興国から普及をうながし、先進国へ展開を図るほうが環境問題に対して効果的であるとの判断があります。


図2:タイに開設するFOMM ONEのマザー工場の外観イメージ(同社資料より)

当然、日本も小型工場の展開先の1つとして視野に入れています。日本発のものづくりベンチャーがタイで成功する姿はもちろん、日本でFOMM ONEが走行する姿にも期待したいものです。

執筆者:谷澤 哲、成田 雄紀(Digital Innovation Lab)、志度 昌宏(DIGITAL X)

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