米Fordが描く次代の自動車メーカー像、モビリティサービス「FordPass」を提供

2016.06.30
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自動車業界は今、新たなデジタル戦国時代に突入しています。それを後押ししたのが「Uber」や「Lyft」に代表される「ライドシェア(相乗り)」サービスの登場です。Uberに代表される配車サービスは既に、海外ではなくてはならないサービスになりつつあります。ライドシェアの収益規模は2015年の33億ドルが4年以内に65億ドルにまで成長すると予測されています(英調査会社ジュニパーリサーチ調べ)。さらには米Googleや米Apple、米IBMといった大手IT企業が自動運転を切り口に自動車業界に参入してきました。

こうした動きは既存の自動車メーカーの戦略にも多大な影響を与えています。2016年に入り、米GMがLyftに5億ドルを投資し、同社取締役会のメンバーになると発表しました。続いてトヨタ自動車もUberとライドシェア領域における協業を発表。独フォルクスワーゲンは、ニューヨークを本拠とする配車サービスのGettに 3億ドルを投資すると発表しています。

自動車メーカー各社がUberやLyftらと手を組み新たなサービスを創り出そうとしているなか、自らがサービス事業者になるための取り組みを強化しているのが米Fordです。「FordPass」と呼ぶモバイルアプリケーションを提供しモビリティ(移動)サービスの充実を図っています(動画)。

動画:FordPassの利用シーンのイメージ

FordPassでは、駐車場の予約やカーシェアリングといったサービスが利用できます。駐車場は、ParkWhizやParkopediaといったパートナー企業と組むことで、各都市で空いている駐車場を調べています。ハンバーガーチェーンのMcDonald’sやコンビニエンスストアの7-Elevenなどと提携した特典サービスも用意しています。これらの支払いはバーチャルウォレット「FordPay」で精算が可能です。

また同社が提供する最新のインフォテインメントシステムである「Sync」と連携し、車内のオーディオやナビゲーションシステムなども操作できます。Ford車のオーナー向けサービスだけはありません。購入しようとしている車のカスタマイズや問題解決のための無料の相談サービスなどもFordPassから利用できます。Fordの最新イノベーションを体験できるよう、「FordHubs」と呼ぶリアルなショールームも新設しています。

これら各種サービスを消費者ニーズに併せて素早く修正し拡充できるよう、米Pivotalというソフトウェア会社に出資もしました。Pivotalはクラウド上でアプリケーションを素早く開発し実行するための基盤ソフトウェアである「Cloud Foundry」の開発やオープンソース化を進めています。Pivotalには、米GE(General Electric)や米Microsoftなども出資しており、GEはCloud Foundryを同社が進めるIoT(Internet of Things:モノのインターネット)プロジェクト「Industrial Internet」の基盤に採用しています。

FordがFordPassで狙っているのも、Industral Internet同様に、ビッグデータの獲得と、その分析から得た知見に基づき“次の一手”を打ち出すことです。そのための大規模な実証実験(POC:Ploof of Concept)として「25 global mobility experiments」を全世界で展開しています(図)。POCの1つである「Big Data Drive」では、200人以上の従業員の運転習慣を研究し、車両性能の最適化を分析しています。「Data Driven Insurance」では、より正確な保険料率を計算できるように車両の性能データを分析します(参考文献)

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図:大規模な実証実験「25 global mobility experiments」を全世界で展開

Fordの社長兼CEOのマーク・フィールズ氏は米ラスベガスで開かれたデジタルデバイスの展示会「CES」や米デロイトで開かれた自動車ショー「North American International Auto Show」で「モビリティカンパニー」に変わると宣言。人やモノが自由に移動できるように、それを阻害する「都市化の進行」や「交通渋滞による大気汚染」といった社会的課題の解決を目指します(写真)。

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写真:CESで講演するFordの社長兼CEOのマーク・フィールズ氏

並行して、アジアの中産階級など「グローバル・ミドルクラスの台頭」や、車を所有することに対する「消費者ニーズの変化」にも対応します。そのためのテコになるのが、自動車という商品を開発するための技術革新であり、FordPassといったスマートフォンを顧客接点としたアプリケーションやサービスであるのです。

ところで読者の皆さんは自家用車をお持ちでしょうか?執筆者の一人、高橋の家庭では所有していません。高橋の周りにいる東京在住の友人たちもマイカーを持っている人は少なく、ほとんどが公共の交通機関かカーシェアを利用しています。既に“マイカー”が移動における第一の選択肢ではなくなってきています。そうした背景もあり、UberやLyftといったサービスが世界中で大ヒットしているのです。

こうした変化は、ものづくりに携わるすべての製造業に大きな影響を与えているはずです。Fordの取り組みは、多くの製造業が、ものづくりという従来のビジネスモデルからサービス業としてのビジネスモデルへの変革を求められていることを示しているのかもしれません。

執筆者:丁 晟彦(Digtal Innovation Lab)、高橋 ちさ(ジャーナリスト)

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