フランス政府が肝いりで推進するFrenchTechの実像

2017.11.07
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スタートアップ企業の集積地といえば、米シリコンバレーが真っ先に思い浮かびますが、最近はイスラエルや中国のほか、欧州にも元気な集積地が誕生しています。英国のロンドンやドイツのベルリンが良く知られていますが、その両都市に追いつけ追い越せと最近、国を挙げての活性化が進むのがフランスのパリです。「FrenchTech」「French Startup」とも呼ばれるフランスのスタートアップ環境は、どのような状況になっているのでしょうか。

都市におけるスタートアップの活動のしやすさを、資金や人材など5つの要素から評価するランキングの2017年版『Global Startup Ecosystem Report 2017』(Startup Genome調べ)によれば、トップがシリコンバレー、2位がニューヨークです。伸び盛りのパリは11位にランキングされました。欧州勢ではロンドンが3位、ベルリンが4位と検討しています。残念ながら同ランキングでは日本は調査対象外です。


図1:主要都市のスタートアップの活動の容易さランキング(出所:『Global Startup Ecosystem Report 2017』、Startup Genome)

パリのランキングが高まっている背景には、政府がスタートアップの育成に力を入れていることがあります。「FrenchTech」を標榜し、2016年からはパリで「スタートアップEXPO」を開催。2017年は5000〜6000のスタートアップ企業が出展したといいます。そんなFrenchTechの一端が、2017年10月4日に千葉・幕張で開催された「CEATEC 2017」のセミナーで紹介されました。

すでに著名な顧客を抱えるスタートアップも

FrenchTechの中には、すでに日本で活動しているスタートアップ企業もあります。Magencyが、その1社。2011年にパリで創業し、日本には2015年に東京オフィスを開き進出しました。すでに「トヨタや日産、サンスター、ソフトバンク、Googleジャパン、富士通、パナソニックなどの大企業が採用し、社内への浸透度も高い」と言います

同社が提供するのは、会議やセミナーなどの企業イベントにおける満足度を高めるための「Magency」というシステム。イベントの参加者は、個々人のデバイスからシステムにログインし、意見やアンケートへの回答を伝えます。集まったデータを分析することで、会議やイベントの内容や進行を最適に調整していきます。

例えば、質問を受け付ける場面では、なかなか手が挙らない、質問内容がテーマに合致していない、といった課題があります。ここにMagencyを併用すると、「いいね!」が多い質問から優先して回答することが可能になります。これにより、例えば日本では長年の課題である“ムダな会議”も解消できるとしています。

Maker(ものづくり)系のFrenchTechも日本進出しています。高級スピーカーを開発・販売するDevialetです。アナログサウンドとデジタルサウンドを組み合わせることで、それぞれの良い面を引き出し悪い面を打ち消す技術が特徴で、PCに接続する小型のスピーカー製品でも、音が歪んだり割れたりすることなく、大音量のサウンドを再生できます。同社は「ビヨンセやJay-zといった世界のトップシンガーが当社製品を愛用してくれている」と言います

他社製のスピーカーからも同様のサウンドを鳴らすための増幅システム「SAM(Speaker Active Matching)」や、スピーカーの振動を抑制する「HBI(Heart Bass Implosion)」といった独自技術を使った製品も開発しています。

政府が国内外からスタートアップをフランスに呼び込む

フランスのスタートアップ企業の現状について、在日フランス大使館の林 薫子 上席貿易担当官は、「FrenchTechという名の下に今、世界の大企業がフランスに集まりだしている」と話します。例えば米FacebookがAI(人口知能)の研究所「Facebook AI Research(FAIR)」を置いています。

ドローンベンダーのParrotや、ターゲットマーケティングのcriteoのように、すでに世界規模で活躍するスタートアップ企業も生まれています。「どこの国のスタートアップ企業だろう?やっぱりアメリカ発?という企業がFrenchTechだったというケースも少なくない」(林氏)ようです。

パリには、駅舎を改造したインキュベーション施設「STATION F」があります(動画1)が、フランス国内の13都市を結び、「FrenchTech City」としてのネットワーク化が推進されています。たとえば、ワインで有名なボルドーは、実は航空機産業が強くドローンのスタートアップ企業が3社、活動しています。

動画1:駅舎を改造したインキュベーション施設「STATION F」の紹介ビデオ(2分18秒)

2015年からは日本でも「FRENCH TECH TOKYO」というイベントを開始するなど海外進出も支援しています。第1回のオープニングスピーチには、現首相のエマニュエル・マクロン氏(当時は経済・産業・デジタル大臣)が登壇し、FrenchTechがどれだけ重要かについて、原稿を見ることなくスピーチしたといいます。

逆に海外のスタートアップを選抜し、1年間、フランスのインキュベーターで支援する「FRENCH TECH TICKET」も開催しています(動画2)。2016年は722件の応募から23社を選抜。2017年は約2700件の応募から70社を選抜しました。残念ながら日本のスタートアップ企業はまだ選抜されたことありません。

動画2:「FRENCH TECH TICKET 2017」の紹介ビデオ(1分2秒)

このようにフランスは今、自国内にスタートアップ企業が集まる“場”を作り、そこでの国際交流を後押ししています。スタートアップといえば、アメリカやイスラエル、中国などに目が向きがちですが、ロンドンやベルリンを含め、欧州にもホットスポットが誕生してきています。FrenchTechにも注目しておきたいところです。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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