GEヘルスケアが東京・日野で進める「ブリリアント・ファクトリー」への取り組み

2018.02.01
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IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の適用先として期待される領域の1つが「工場」です。IoTの火付け役ともいえる米GEグループのGEヘルスケアは、東京・日野にある工場でIoTの活用に向けた試行錯誤を繰り返しています。どんな失敗があり、どんな成果を上げているのでしょうか。

創業から30年を経た工場を実験場に試行錯誤

GEヘルスケアが同社の日野工場で実施しているIoTの取り組みについて、GEヘルスケア・ジャパンの執行役員 グローバル・オーダー・オペレーション アジア太平洋担当の森本 淳 氏から聞く機会がありました。東京ビッグサイトで2018年1月17日に開かれた「スマート工場EXPO」での特別公演です(写真1)。森本氏の講演内容から、日野工場での取り組みを紹介します。


写真1:GEヘルスケア・ジャパンの執行役員 グローバル・オーダー・オペレーション アジア太平洋担当の森本 淳 氏

GEは世界で450ほどの工場を稼働させています。生産性をはじめ、工場のすべてを進化させるための取り組みとして「ブリリアント・ファクトリー」を進めています。この最初のモデルケースとして7つの工場が選ばれましたが、東京・日野にある日野工場も、その1つです(動画)。日野工場ではCTや超音波診断装置の部品などを開発・製造しています。

動画:日野工場での「ブリリアント・ファクトリー」への取り組みを紹介するビデオ(2分23秒)

森本氏によれば「他の6工場は、比較的新しい工場だが、日野工場は稼働から30年ほど経っている工場」。IT活用すら、あまり考えられていなかった頃に建設された工場が、IoTでどこまで変貌するかが試されたようです。森本氏自身も「製造分野への投資は初めての経験だったため、どこから手を付けようか模索していた」と言います。試行錯誤のなかでは、多数の失敗もありました。

失敗例の1つが、スマートグラスの導入です。スマートグラスは、装着者の目線の先に映像を表示したり、レンズの部分にドキュメントを映し出したりできる高機能なメガネです。作業中に紙のマニュアルを見ようとすれば手が塞がってしまうため、スマートグラスなら作業を中断することなくマニュアルを参照できると考えテスト導入しました。ただ実際には「装着者への身体的負担が大きいことと、マニュアル類の電子化に工数がかかり使用を断念」した」(森本氏)のです。

もう1つの失敗は、生産管理アプリケーションの導入です。それまで紙で管理していた生産状況をリアルタイムに把握できるという期待から投入しました。ところが「現場の生産方式がアプリケーションに合っていなかったり、アプリケーションにバグがあったりという弊害から使用は諦めた」のです。森本氏は「本質な課題解決に向き合えていなかった。ツール先行の弊害だ」と反省しています。

既存資産を生かしながらも最新設備をどんどん導入

これらの失敗から森本氏は次の2点に絞って、工場の改善を検討するようになりました。

・今ある設備や資産を生かしながら最適化と生産性向上を目指す
・最新設備やロボットをどんどん導入すること

そのうえで工場の生産性向上については3つのポイントを抑えることを心がけています。

ポイント1:「Lean × Digital」すべては標準化あってこそ

ポイントの1つは、リーンとデジタルの融合です。リーンとは、トヨタの生産方式を研究して生まれた徹底的に無駄をなくす取り組みです。トヨタ方式で無駄をなくした作業にデジタルを掛け合わせることで改善を加速させるというわけです。

具体例として森本氏は、作業の進捗管理へセンサーの適用を挙げます。それまでホワイトボードで管理していたところ、入社1年目のスタッフが「センサーで自動化できないか」と提案したことからセンサーを導入した結果、「データ入力がリアルタイムになり、その入力作業もゼロ。データの分析にもつながった」(同)のです。

ポイント2:「Fast Works」小さく始め、失敗したら方向転換

ポイントの2つ目は、小回りの効いた取り組みと運用です。たとえば、タイムカードを打刻する手間を省けないかと、作業者の位置情報をBeaconセンサーで取得することを考えました。ところが、その現場では、作業者の細かな動きまでを確認し切れず、その仕組みは無駄な導入に終わりました。

ところが、そのセンサーを別の部署に紹介したところ、オフィスのレイアウト変更に伴う動線の無駄の排除につながったのです。「無駄だと思ったものに固執しないことも重要だが、導入したものを別の使い手に委ねるという考え方も重要」(森本氏)というわけです。

ポイント3:「GEMBA」現場が効果を実感し楽しめるか

最後のポイントは、徹底的な現場主義で動くことです。「現場のスタッフが効果を実感できる改善にこそ意味がある」と森本氏は強調します。従来、製造記録を取るためのデータ入力にリードタイムの10%を費やしてきました。PCが苦手な作業員は入力作業に慣れるだけでも時間がかかってしまうからです。これをリーダーにかざすだけで済むように変更することで、「マウスもキーボードも不要になり、65秒かかっていた入力作業を90%短縮できた」(森本氏)と言います。

デジタルが仕事を楽にしてくれることを現場の人々が実感できれば、「対策が結果に結びつくと嬉しい」と話すスタッフが増え、次の改善につながっていくのです。

新たな時代に対応できるよう既存戦力に変化を促す

一方、「効果を示す実際の数字がでないと導入に踏み切れない」という経営者の声に対して森本氏は、日野工場における経営指標の改善数値を挙げます(写真2)。

・2シフトが1シフトに
・製造リードタイムが65%削減
・品質問題の解決にかかる時間が70%削減


写真2:日野工場における経営指標の改善数値

「絞りきった雑巾だと思っていても、改善の余地がある」(森本氏)のです。そのうえで森本氏はブリリアント・ファクトリーに取り組むGEの将来に向けて、重要視している4つのキーワードを示します。

(1)経営トップの決意と覚悟
(2)方法論が具体的に必要
(3)デジタルの人材の採用と、今いる従業員の改革
(4)社内文化の改革

IoT時代を迎える企業にとって、新規に採用するスタッフだけがデジタルに強くても会社はうまく回りません。既存戦力を新たな時代に対応できるよう変化を促し、社内文化を変えていくことが重要だという指摘です。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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