3Dプリンターによる生産革命に突き進む米GE、同社製エンジン搭載機が商用運航に

2016.09.08
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3Dプリンターといっても中々、目にする機会がないだけに「実利用はまだまだ先の話」と思われているかもしれません。しかし3Dプリンターは、我々の安全に関わる分野でも利用が始まっています。その1例が、航空機のジェットエンジン。3Dプリンターによる生産革命を推し進める米GEが開発しました。同社製エンジンを搭載した航空機が2016年8月から商用飛行を開始。今後、同エンジンを搭載する航空機が次々と世界の空を飛び始めようとしています。

3Dプリンターで作成した部品を搭載するジェットエンジンは、「LEAP(Leading Edge Aviation Propulsion)」。米GE(General Electric)の航空エンジ部門である 米GEアビエーションが、仏Snecmaと共同で開発し、両社の合弁会社CFMインターナショナルが製造します(動画1)。その燃料ノズルを3Dプリンターで作成しています。

動画:3Dプリンターで作成した部品を搭載するジェットエンジン「LEAP」

燃料ノズルは一般に、異なる製造業者から調達した20種類の構成部品を溶接して作られます。そのため、構成部品のすべてに対し、品質や納期などを管理する必要があります。これを3Dプリンターで作成すれば、個々の部品の管理が不要なうえ部品としての性能も高まります。GEアビエーションによれば、耐久性は5倍以上になるほか、重量が25%軽くなることで燃料効率が高まります。LEAPは19個の燃料ノズルを搭載していますが、3Dプリンターで作った燃料ノズルなら、航空機の燃料費を1機当たり年間160万ドル(1億6000万円強)削減できるとしています。

このLEAPエンジンを搭載するのが、仏エアバスの「A320neo」と米ボーイングの「737MAX」の両最新鋭機。座席数が100〜200の小型機で近・中距離の航路で利用されている現行機種の置き換え需要を狙って激しい受注合戦が続いています。いずれもテスト飛行を終えていますが、先に商用飛行にこぎ着けたのはA320neo。2016年8月にトルコのPegasus航空がLEAP搭載のA320neo1号機による運航を始めました(動画2)。一方の737MAXは2017年上半期の商用運行開始を予定しています(動画3)。

動画2:LEAPエンジンを搭載するAirbus A320neo(動画はテスト飛行の様子)

動画3:LEAPエンジンを搭載するBoeing 737MAX(動画は航空ショーでの飛行の様子)

両機に搭載するエンジンのためにGEでは10年間に10万個の燃料ノズルを生産することになります。この燃料ノズルは、金属焼結型の3Dプリンターを使って作ります。合金微粉末をプラットフォーム上に噴霧し、レーザーによって加熱して層を重ねていきます。燃料ノズルが完成するまでには、この積層プロセスを3000回繰り返さなければなりません。

航空機用の部品はFAA(米連邦航空局)による認証を受けなければなりません。GEが3Dプリンターで作成した部品でFAAの承認を受けたのは「T25」と言う部品です。エンジンの温度センサーを収めるための部品で、着氷や気流から温度センサーを守ります。T25が承認を受けたことで、3Dプリンターによる航空機部品の作成という新たな歴史が始まったのです。GEは今、T25を400機以上のボーイング777のエンジンに組み込む作業を進めています。

ラグビーボール大のジェットエンジンも作成

GEは今、3Dプリンターによって従来の、ものづくりの方法そのものを変革する「Additive manufacturing」に積極的に取り組んでいます。燃料ノズルの作成メリットにあるように、3Dプリンターを活用すれば、製品の生産過程で発生する多くのコストと時間を削減できるからです。部品1つとっても、その生産のためには必要な工具や生産ラインなども必要なほか、設計からテスト、製造といったプロセスが、それぞれに発生している実状を打破したいのです。

Additive Manufacturingに対しGEは毎年60億ドル規模の研究開発費を投じており、3Dプリンターも既にグループ全体で30万台以上を導入しています。これら研究開発成果の一例が2015年に3Dプリンターで完成させたラグビーボール大のジェットエンジンです(動画4)。実際の航空機には利用できませんが、3Dプリンターで作った部品だけで、実際に機能するエンジンが作成できるレベルにまでノウハウを蓄積していることが分かります。

動画4:米GEが3Dプリンターで作成したジェットエンジン(出所:GEアビエーション)

ヘルスケアやエネルギーの分野にも適用

GEが3Dプリンター活用を想定しているのは、航空機のエンジンだけではありません。ヘルスケアやエネルギーといった部門でも3Dプリンターの利用を進めています。ヘルスケアやエネルギーの分野の研究開発拠点はいずれも日本にあります。ヘルスケア分野では、東京・日野市にあるGEヘルスケアの本社工場で、プラスチックを素材にする3Dプリンターを使った製造方法を開発しています。エネルギー分野の拠点は新潟県刈羽群にあるGE オイル&ガスの刈羽事業所。ハイブリッド金属レーザー焼結式の3Dプリンターで各種のバルブ制御装置を製造し始めています。

さらに2016年4月、Additive Manufacturing全体をカバーする開発拠点として「Center for Additive Technology Advancement(CATA)」を米ピッツバーグに開設しました。CATAへは3年間に3900万ドルを投資する計画で、様々な素材で成型する3Dプリンターを取り揃え、分野を超えたAdditive Manufacturingによる生産性の向上に加え、そうした生産現場で働く人たちの新しい役割の調査・研究にも取り組みます。

このようにGEは、3Dプリンターのビジネス活用におけるリーダー的役割を担っています。「GEのような世界規模の大企業だからできるだけ。多くの製造業には関係がない」と感じられたかもしれません。しかし、医療分野のほか、食品業界やファッション業界でも、特別仕様のデザートや衣類を作るための実験が進んでいます。自身のビジネスにおける3Dプリンターの可能性を考える時期が訪れているようです。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)

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