大企業が頼る“バーチャルSIer”、トップクラスのエンジニアをオンデマンドで提供する米Gigsterのビジネスモデル

2018.06.14
リスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

グーグルやマイクロソフト、IBMといえばIT業界をリードする大企業です。そんな彼らが頼りにしているシステムインテグレーター(SIer)がいると言えば、信じられるでしょうか。実は存在します。米Gigsterです。一体、どんな仕組みで“ITのプロ”達の心をつかんでいるのでしょうか。Gigsterのサービス内容を調べてみました。

Gigsterは、2013年7月に創業したベンチャー企業です。創業時の企業名は「Liquid Labs」です。2014年に、これから紹介するサービス「Gigster」を開始し、その後に会社名もGigsterに変更しています。同社のビジネスモデルは、当初から投資家の高い評価を受けています。2013年10月にはシードラウンドで180万ドル(2億円弱)の資金を得ているほか、2015年12月にはベンチャーキャピタル(VC)大手の米Andreessen Horowitzから1000万ドル(10億円強)の出資を受けています。

VCの期待に応えるように、Gigsterは多くの有名企業を顧客に抱えています。上記のグーグルやマイクロソフト、IBMといったIT企業のほか、US Bankといった大手銀行や、飲料メーカーのペプシ、航空機メーカーのエアバスなどの名が挙がっています(図1)。


図1:米Gigsterの顧客の例(同社ホームページより)

ネットでシステム開発の依頼から料金決定までが終了

同社が掲げるミッションは、「世界のためのエンジニアリング部門である(Gigster is the world’s engineering department.)」です。そして同社が提供するGigsterというサービスは、基本的にはシステム開発の請け負いです。ただ、開発に携わるフリーランスのメンバーを顧客ニーズに合わせて“オンデマンド”で編成し、事前に見積もった金額と期間で開発します。

フリーランスに開発を依頼するクラウドソーシングの一形態とも言えますが、Gigsterは最適なチームを結成するために種々の工夫を凝らしています。その仕組みは、「システム開発のUber」とも呼ばれています。

Gigsterが請け負うシステム開発の範囲は、AI(人工知能)などの先端テクノロジーを含めたプロトタイピングから、新規システムの設計や開発、稼働後のメンテナンスなど、ほとんどの要望に対応しています(図2)。新規システムだけでなく、すでに稼働している既存システムの改修などにも対応します。


図2:Gigsterが請け負うシステムの範囲の例(同社ホームページより)

開発に携わる人材は、基本的にフリーランスのエンジニアです。多くはシリコンバレーの著名企業で働いた経験があり、彼らの技術力はトップレベルだとしています(図3)。具体的には、有名大学や大手IT企業、デザインファーム、アクセラレーターなどです。


図3:Gigsterに登録している人材のバックランド(同社ホームページより)

料金は“明瞭会計”です。Gigsterのサイト上で、顧客企業が委託したい開発プロジェクトの条件を入力していけば料金が決まります(図4)。入力するのは、必要なサービス内容や、プロジェクトの複雑さ、期間などです(図5)。まるでPCのオンラインで購入したり、自動車のオプションを指定して最終代金をシミュレーションしたりする感覚です。


図4:Gigsterのサイト上に示されている料金の例(同社ホームページより)


図5:料金計算時に指定する種々のオプションの例。指定していくと料金が変わる(同社ホームページより)

プロジェクトの進行状況を機械学習で分析

こうした仕組みを実現するためにGigsterは、独自のプラットフォームを開発し運用しています。同プラットフォームは、単にプロジェクトとエンジニアのマッチングを図っているだけではありません。機械学習(ML:Machine Learning)によって、適切なチーム編成やプロジェクトマネジメント、料金の設定までの最適化を常に図っています。

その1つに、プロジェクトの遅延やバグの発生を事前に検知する仕組みがあります。各プロジェクトは「健康スコア」と呼ぶ0から100までの指標で管理されます。これは、顧客満足度や、予算の執行状況、エンジニアの通信頻度などプロジェクトの活動データから導き出されます。中には、開発中のプログラムを共有する「Github」へのチェックイン状況、電子メールや「Slack」の利用状況なども含まれています。

何百ものプロジェクトを監視し、成果物に起こりえる問題を予測するためのパターンを探し出すためのツールも運用しています。システムの開発過程では、何百もの重要な決定を下すべき“ポイント”があります。Gigsterは、過去のプロジェクトにおいて、各ポイントで下された種々の決定がプロジェクトにどう影響したかを分析することで、進行中のプロジェクトにおいて最適な判断を下すための材料を提供するのです。

より早く、かつ高品質にプロジェクトを終了させるために、ソフトウェアの再利用も徹底しています。上記の仕組みからも分かるように、過去のプロジェクトで開発したプログラムコードとタスクリストが管理されています。それらを使用することで、新たな開発量を減らし、開発期間の短縮とバグの発生を抑えるのです。コードライブラリには、機能別のコンポーネントや修正済みのオープンソースソフトウェアなども含まれています。

人材のタレントマネジメントも徹底

すべてがシステムによる成果だけではありません。プロジェクトに携わる人材の能力管理やチーム編成にも工夫を凝らしています。まず登録されているエンジニア達に対しては、その能力を定期的に評価することで、システム開発における品質を維持しています。

特にプロジェクトを管理するプロジェクトマネジャー(PM)には有能な人材を当てているようです。たとえばGigsterのPMの出身校は、MITやハーバード、スタンフォードなど米国のトップ校がほとんど。彼らはプロジェクトが滞りなく進行するようにマネジメントしていきます。

チーム編成にも工夫しています。登録されているデータからプロジェクト単位に最適な人材を選び出し、チームを形成します。登録データには、計画通りに仕事を進めている率や、プロジェクトの実績、クライアントからの評価、同僚のレビュー、開発したプログラムコードの品質、居住場所など20項目以上に上ります。

失敗しないための方法論をデジタル化

いかがでしたでしょうか。大規模なシステムになればなるほど、より多くのエンジニアの関与が必要です。そして、大規模システム開発プロジェクトが失敗しないように、システムインテグレーターは様々な対策を打ち、ガイドラインなどを作成してきました。プロジェクト管理のための方法論なども確立されています。

Gigsterの取り組みは、そうしたインテグレーターの工夫を実直に実行しているだけとも言えますが、AIを含めた種々のテクノロジーを活用し、プロジェクトの内容をデータに基づき可視化したり、人材のマッチングを図ったりしています。その結果として、プロジェクトの依頼から完成までがネット上で完了する仕組みを実現しているのです。

米国では、フリーランスを活用したビジネスが普及しています。すでに労働力の34%がフリーランスによるもので、2020年には43%になるとも言われています。それは単に、人材の流動性が高いというだけでなく、プロフェッショナルが持つ能力を認める社会環境と、Gigsterが構築しているようなデジタルプラットフォームの存在があるためでしょう。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)

EVENTイベント