インドネシアの「GO-JEK」にみるライドシェアの破壊力、生活を支える総合サービス業に

2018.09.11
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資産を持たずに共有するシェアリング経済が台頭しています。その典型例が米Uber Technologiesですが、そのUberはインドネシア市場からは撤退を余儀なくされました。逆に、同地でUber張りの活躍を見せるのが、2010年に創業したGO-JEK(ゴジェック)です。オートバイのライドシェアからスタートした同社は現在、幅を広げ“総合サービス業”と呼べるほどに業態を変えています(動画1)。ライドシェアサービスが、単なる配車サービスにとどまらない力を持つことをGO-JEKの取り組みから確認してみましょう。

動画1:GO-JEKのサービスの幅広さを紹介するイメージビデオ(1分33秒)

料理の宅配から美容師の派遣までスマホで提供

ジャカルタなどインドネシアの都市部では渋滞が激しく、オートバイが有効な移動手段になっています。そこに目を付けたGO-JEKはオートバイのライドシェアサービスを手がける会社として、オートバイを所有する20人のライダーとともに創業しました。彼らと、街中を効率よく移動したい人を結び付け、利用者をオートバイの後部座席に乗せて走り出したのです。

オートバイのライドシェアからスタートしたGO-JEKはその後、移動サービスという枠にとらわれず、様々なサービスを投入しました(表1)。

2010年10月 GO-JEK設立。20人のライダーとともにバイク配車サービスを開始
2015年1月 Android、iOS向けのアプリケーションを公開、同時に「GO-SEND」「GO-BOX」(宅配)を開始
2015年4月 「GO-FOOD」(出前)を開始
2015年9月 「GO-MART」(買い物代行)を開始
2015年10月 「GO-MASSAGE」(出張マッサージ)「GO-GLAM」(出張美容師)を開始
2015年12月 「GO-TIX」(チケット予約)を開始
2016年4月 「GO-CAR」(自動車のライドシェア)を開始
2016年4月 「GO-MED」(医薬品の宅配)を開始
表1:GO-JEKが提供しているサービスの投入時期

表1から分かるように、サービスの投入が増えているのは、2015年1月にスマートフォン用アプリケーションを公開してからです。実はオートバイのライドシェアも当初は、道路脇に専用の乗り場を設け、そこで利用者を待つ形のサービスでした。専用乗り場で客待ちをしているタクシーと同じです。それが現在は、どこにいてもオートバイを呼び出せるサービス「GO-RIDE」へと姿を変えています。

GO-RIDEでは、利用者はまず複数のサービスを提供しているGO-JEKのスマートフォン用アプリケーションから、GO-RIDEのサービスを選択します。すると現在位置が自動的に設定される。次に、現金あるいはスマホ決済の支払い方法を選ぶと、ライダーの検索が始まります。対応可能なライダーが見つかれば、利用者は電話かテキストメッセージで連絡を取り合い、今いる場所に向かいに来てもらうというわけです。

最新のGO-JEKアプリは、同社にとって新たな事業を生み出すプラットフォームになっています。事業範囲は大きく(1)ライドシェア/宅配、(2)決済、(3)暮らしの3領域です。

ライドシェア/宅配領域:人のほか料理や書類、薬も運ぶ

ライドシェア領域では、創業時のオートバイに加えて、自動車のライドシェアサービスも提供、これが「インドネシアのUber」と呼ばれるほどに現地に浸透しているのです。料理の宅配サービスのほか、インドネシアの薬局チェーンHalodocと提携し薬の配達も手がけています。2013年にはオンラインチケット販売のスタートアップ企業Loketを買収し、チケット販売事業にも参入しました(図1)。


図1:「GO-JEK」のスマホ用アプリのトップ画面と、各種サービスの画面例(同社ホームページより)

GO-RIDE/GO-CAR: オートバイおよび自動車のライドシェアサービス。GO-JEKアプリからGO-RIDEまたはGO-CARを選択すれば、利用者がいる場所にドライバーを呼び出せる。料金の支払いは決済アプリのGO-PAYで支払う。

GO-FOOD:好みのレストランの料理を宅配するサービス。

GO-MED:スマホアプリからの注文を受けると、最寄りの薬局から1時間以内に薬やサプリメントを届ける。インドネシアの薬局チェーンHalodocと提携して実現しまいした。

GO-SEND:物品や書類を配送する宅配便サービス。GO-JEKアプリのGO-SEND機能により、配送物をピックアップしてほしい場所と配送先、支払い方法などに応じて、GO-JEKが宅配ドライバーを呼び出し、書類などを届ける。

GO-BOX:書類より大きな物品をトラックで配送するサービス。GO-JEKアプリからGO-BOX機能を使ってトラックのドライバー呼び出し、物品を入れた箱をドライバーに渡して配送してもらう。配送中の車両の位置をいつでも追跡できる。

GO-TIX:映画やコンサート、サッカーの試合など様々なイベントのチケットをオンラインで販売する。たとえば映画を見る場合は、GO-JEKアプリのGO-TIXで「映画」タブを選択し、見たい日付や時間、好みの座席を選択した後、GO-PAYなどで料金を支払うことで、チケットレスで会場に入れる。

決済領域:自社サービスに加え公共料金なども支払い可能に

決済領域では、自社開発した決済サービスを投入し、それを核に、さまざまなサービスを提供しています。スマホアプリを使えば、バイクや自動車のライドシェアサービスはもちろん、携帯電話の料金や公共料金も支払えます。決済のためのクレジットカードサービス会社には、イオンやスズキの名前もあります(図2)。


図2:「GO-PAY」の決済パートナーの例(同社ホームページより)

GO-PAY:スマートフォンによる支払いサービス。GO-RIDEやGO-CARなどGO-JEK社が提供する各種サービス料金を支払える。

GO-BILLS:GO-PAYを利用した各種料金の支払いサービス。税金や電気料金といった公共料金や、請求書による保険料などをワンストップで支払える。

GO-POINTS:GO-PAYユーザー専用のポイントサービス。GO-PAYを利用して支払えば、「GO-POINTSトークン」が得られる。同トークンを使ってゲームをプレーすると、その結果に応じたポイントが得られる。集めたポイントはGO-POINTSカタログに記載された商品と交換できる。

GO-PULSA:GO-PAYを利用した携帯電話料金の支払いサービス。

暮らし領域: マッサージやネイル、オイル交換まで

暮らし領域では、マッサージのスキルを持つセラピストやメイクのスキルを持つ美容師を自宅に呼べるサービスや、自宅や店舗の掃除、タイヤ交換といった自家用車の修理サービスも展開しています(図3)。


図3:「GO-JEK」の暮らし領域の各種サービスのスマホ用アプリの画面例

GO-MASSGE:経験豊富なセラピストが利用者の自宅に出張し、ボディマッサージやフェイシャル指圧といった各種マッサージサービスを提供する。GO-LIFEアプリからGO-MASSAGEを選択してサービスを利用する。

GO-GLAM:美容の専門家が利用者の自宅に出張し、ヘアケアやネイルケアなどのボディケアおよびメイクサービスを提供する。

GO-CLEAN:ハウスクリーニングの出張サービス。戸建て、アパートのほか店舗なども対象にする。掃き掃除からモップがけ、風呂掃除などのサービスメニューをそろえる。オプションで、アイロンがけや食器洗いなどのサービスも提供する。サービス内容ごとに細かく料金が設定されている。

GO-AUTO:自動車整備のプロフェッショナルによる出張サービス。洗車やワックスがけといった通常のメンテナンスサービスのほかに、オイルやバッテリーなど自動車部品の交換、緊急時における牽引サービスやタイヤの交換サービスを提供する。

必要なときに、必要なものを、必要な場所に“届ける”

上記のようにGO-JEKのサービス領域は、ライドシェアからモノの配達、そして美容師や自動車整備士といったプロフェッショナル人材の手配まで多彩です。まさに業界の垣根を壊しながら、さまざまなサービスを「GO」ブランドに取り込んでいます。

GO-JEKのサービスの共通点は、必要なモノやサービス、あるいは、そのサービスを実行するための専門家などを、必要なときに、必要な場所に“届ける”ということです。それをGO-JEKは、利用者と提供者のマッチングを図るスマホ用アプリケーションというプラットフォーム上で実現しているというわけです。

プラットフォームの重要性は常に指摘されていますが、その“破壊力”はなかなか実感できないかもしれません。ライドシェアの雄であるUberをも跳ね返したGO-JEKの新事業の創出の流れは、その“破壊力”を示すと同時に、プラットフォームだけでも成功しないことを示しています。GO-JEKが次にどんなサービスを統合してくるのか興味深いところです。

執筆者:池浦 正明(Digital Innovation Lab)、小林 秀雄(ITジャーナリスト)

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