デジタル時代のマネジメント術、チームのパフォーマンスをより引き出すGST(Goal Science Thinking)とは

2016.11.21
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従業員やスタッフのやる気を引き出し、ビジネスの成果に結び付けるには、どうすれば良いのだろうか−−。このことは企業経営にとって大きな課題の1つです。ネットを使った在宅勤務などワークスタイルの多様化が進むデジタル時代には、なおさらでしょう。そうした中、米ベンチャー企業のBetterworksが「GST(Goal Science Thinking)」という手法を掲げた新しい経営ツールの提供を始めています。GSTとは一体、どんな考え方なのでしょうか。

Betterworksが提供するのは、社名と同じ「Betterworks」と呼ぶオンラインサービスです。2013年にカリフォルニア州のレッドウッドシティで起業し、2015年からBetterworksのサービス提供を開始しています。ベンチャー企業ですが既に、米国の大手コンテンツサービス会社のAOLや、ドイツの自動車メーカーBWMといった欧米を代表する大手企業が同社のサービスを導入しているといいます。

動画:経営者とマネジャー、従業員の課題解決をうたうBetterworksの紹介ビデオ

社員の目標を設定しゴールを“見える化”

まずはBetterworksの機能をみてみましょう。Betterworksの基本は、設定した目標を達成するために、その進捗状況を把握し必要な対策が打てるように支援することです。プロジェクト管理ツールの一種だとも言えます。ただ、目標の上手な設定をうながしたり、その目標をチーム内で適切に分担したり、さらにはチームのメンバーそれぞれが目標達成に向けて行動できるよううながしたりと、“チーム”活動に焦点を当てているのが特徴です。

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写真1:Betterworksでの目標設定時の画面例

例えば、目標設定では、目標値や期限など、より具体的な数値の設定が求められるほか、その目標を複数の目標にブレークダウンするようにうながされます。ブレークダウンした目標をチームメンバーに割り振ることで、チームとして全体目標を全員が共有しながら、各人の目標達成に取り組むのです。チーム内では、チャット形式で対話ができるほか、進捗が良好なメンバーには「いいね(応援)」を返したり、少し停滞気味のメンバーには「頑張って(後押し)」したりが容易にできるようになっています。何か助けが必要な場合は、誰に尋ねれば良いかを検索することも可能です。

これらの機能はクラウドサービスとして提供されており、チームメンバーはインターネットを介してPCやスマートフォンから目標の設定や更新、管理を実行できます。外部システムと連携するためのAPIが公開されており、営業支援サービスのSalesforce.comや、チーム内のチャット型コミュニケーションツールのSlackなどとも組み合わせられます。

人の行動に対する心理的な影響をこれまでの手法に加味

このBetterworksが採用している考え方が「GST(Goal Science Thinking)」です。経営マネジメントに人間の行動心理学の要素を加味しています。上記の機能の流れからも想像できるように、企業や組織の目標の詳細をチームメンバー全員が把握することで、共通のゴール(目標)に全社員が取り組むのに必要な“良い習慣”を定着させることを狙っています。同社によれば、全社の目標を開示した場合、それを秘密にするよりも目標達成率は10.4%も高くなります。さらに、メンバーが10回以上閲覧している目標の達成率は、あまり閲覧されない目標より21%も高くなると言います。

実はGSTは米Googleが考案した経営マネジメント手法「OKR(Objective and Key Results:目標と主要な結果)」をベースにしています。OKRは、全員が同じ方向に進めるように、組織と個人の目標を測定可能な結果と結びつける手法です。その起源は古く、1980 年代半ばに、半導体メーカーの米インテルのアンドルー・グローヴ氏とデータベースベンダーの米オラクルのゲーリー・ケネディ氏の2人が作った会社の評価制度モデルにまでさかのぼります。そのモデルをGoogleが進化させたのがOKRです。OKRは世の中の脚光を浴び、IT 企業などを中心に多くの会社が、計画・管理ツールとして使用しています(図1)。

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図1:経営マネジメント手法の発展経緯(出所:米Betterworks)

しかし、GoogleがOKRを確立した時代と比べても、現在はさらにデジタル化が進展しているほか、産業構造やビジネスの仕組み、組織のあり方なども、どんどん変化してきています。特にFacebookやSlackといったSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)やチャットの仕組みは、個人の考え方や働き方を前面へと押し出しました。欧米では広く普及するOKRですが、デジタル時代の「ポストKPI(重要業績評価指標)」あるいは「ポストOKR」としての発展が求められていたのです。それを実現したのがGSTというわけです。Betterworks以外にも、GSTに沿ったマネジメントツールを提供するベンチャー企業も増えています。

GSTでは、SNSといったソーシャルな仕組みを使いながら、チームに最も影響力が高い人が最初の目標を設定し、そのプロジェクトに必要なメンバーを勧誘しながら、さらに多くの人達を巻き込んでいきます。単に会社の目標と従業員の目標をリンクさせ、それを管理するのではなく、いかに目標の透明性を高め、その目標をチームメンバーのそれぞれが自らの目標であると心から感じてもらうことが大事になっているのです。

ドラッカー氏もテクノロジー時代のマネジメント手法を問うていた

KPIの考え方は、1960年代の大量生産の時代に考案されました。「均一なモノを大量に作る」という時代です。しかし今や、先進国ではモノ余りの時代を向かえ「個々人のニーズに対応した商品/サービスを作り上げる」ことが求められるようになりました。当然、組織やマネジメントのあり方にも変化が求められます。マネジメントの第一人者であるかのピーター・ドラッカー氏も、インターネットや電子メールが登場した時から、それらが発展した世界においては、どのようなマネジメントを実施すべきかを問いかけていたと言います。

OKRをベースにデジタルテクノロジーを加味したGTSは、新たなマネジメント手法として要注目でしょう。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)、漆畑 慶将(OKメディア)

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