ファーウェイ、新たなエコシステムの構築に向けた投資を加速

2019.10.08
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昨年から続く米中貿易問題でも話題になっているファーウェイ(華為技術、Huawei)は、新たに設立した投資子会社を通じ、初めて中国国内のAI企業へ投資しました。同社はこれまで、自社のプロダクト開発に必要となる技術を持つ国外企業を買収することで事業を拡大してきました。投資対象の自国内への回帰は、同社の今後の戦略においてどのような意味を持つのでしょうか。

投資子会社を通じAIベンチャーに出資

9月23日、ファーウェイの完全子会社であるHabo Technology Investment(哈勃科技投资有限公司、以下Habo社)は、AIベンチャーのiDeepWise(深思考)に投資すると発表しました。 中国国内メディアの調査によれば、今回の投資によってファーウェイによる持株比率は3.67%にのぼると見られています。

Habo 社は、2019年4月23日にファーウェイが資本金7億元(約110億円)で設立した完全子会社であり、ベンチャーキャピタル業務が中心事業です。社名の由来は有名な天体望遠鏡であるハッブル宇宙望遠鏡から来ています。宇宙を観察するための重要な道具に掛けて、有望な新興企業をいち早く発見したいというメッセージを投資子会社に託したものでしょう。

世界最高レベルのマルチモーダル技術に着目

iDeepWiseは、ニューラルネットワークとディープラーニングのコアテクノロジーに特化したAI企業です。中心となるチームは、中国科学院と清華大学の第一線のAI科学者とフィールドビジネスの専門家で構成されています。そのコアテクノロジーは「マルチモーダルな意味理解」と呼ばれ、主に長いテキストの機械読解技術や人間と機械の対話技術、五感や体性感覚の組み合わせ処理技術のベースとなります。主な利用シーンは、スマート医療、スマートカー、スマートホームなどです。

マルチモーダルな意味理解に関連する同社の近年の成果には目覚ましいものがあります。まずは、自然言語の読解と人間機械間対話能力に関するものです。中国を代表するコンピュータサイエンスの学会が主宰する機械読解コンテストで2019年のグローバルチャンピオンとなったことを筆頭に、ここ数年の中国国内コンテストで優勝を総なめしています。また、2018年の機械読解コンペティションでも世界ランキング1位を獲得しました。

また、視覚的深さの意味理解でも、医療技術の向上に寄与する細胞分類精度において99.3%という数値を達成しました。これは同分野のトップランナーである米国国立衛生研究所の公開成果より1ポイント高い数値です。さらに、深層学習プロセッサーM-DPUを医療専用としては世界で初めて発売しました。

同社のウェブサイト http://www.ideepwise.ai/

複数の感覚を組み合わせた概念であるマルチモダリティはファーウェイの重点戦略を読み解くキーワードのひとつです。iDeepWiseのマルチモーダル技術に投資したのも、これまでにないサービスを創出していくための戦略的行動と言えるでしょう。ファーウェイが持つ音声アシスタント、スマートフォン、スマートホーム、車載機器などプロダクトにはさまざまな利用シーンが考えられます。iDeepWiseに投資することでマルチモーダル技術を自社のエコシステムに統合し、ユーザーのインタラクティブな体験をさらに高めていきたいのでしょう。

DXのエコシステムを見越した戦略的投資

Habo 社は他にも、次世代半導体ベンチャーのSICC Science & Technology(山東天岳)とチップ会社のJOULWATT(杰华特微电子)にも投資しています。

2010年に設立されたSICC Science & Technologyの主力は炭化ケイ素材料で、これは第3世代の半導体材料ともいわれています。同社は2018年に炭化ケイ素基板材料の売上高で世界4位になり、今年の8月にHabo社が株式の10%を取得しました。炭化ケイ素は、高温・高周波・高出力の半導体デバイスを製造するための理想的な基板材料として注目されており、シリコン材料と比較して性能を約1000倍も向上させる可能性を秘めています。5Gを実現するネットワークやIoT基盤にとって極めて重要な技術であり、ファーウェイがこの領域で競争していくためには無くてはならない要素です。

JOULWATTは2013年に設立され、電力管理チップを主力とした事業を展開しています。電力、通信、電気自動車などのプレイヤーにシステムソリューションと製品を提供しており、現在ではバッテリー、LED照明、DC / DCコンバーターなどその事業領域を拡大しています。

1つは中国における第3世代半導体材料のリーディングカンパニー、もう1つは高品質の電力管理チップ会社です。米国の経済制裁を受けて以降、ファーウェイの投資戦略にはどのような変化があったのでしょうか。

同社はこれまで、海外企業の買収を通じて自社のプロダクトに必要となる技術を獲得してきました。2014年には英国のセルラーIoTチップとソリューションを開発するNeulを2,500万ドルで買収し、2016年にはイスラエルのデータセキュリティ企業Hexa Tierとソフトウェアベースのチップ設計を手掛けるToga Networksをそれぞれ4200万ドルと1.5億ドルで買収しました。

Habo 社は複数の企業に少しずつ投資しており、特定の技術の囲い込みを目的とはしていません。SICC Science & Technologyは株式の10%、iDeepWiseに至ってはわずか3.67%です。日々進化する5G、IoT、AI、クラウドなどのDX領域で戦うための、より幅広いエコシステムを構築していく布石と見るべきではないでしょうか。

執筆者:丁 晟彦 (Digital Innovation Lab)

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