ネットアクセスから国際電話までが無料、ホテルが貸し出すスマホ「handy」を支える香港発ベンチャー

2017.10.31
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先頃、シンガポールへの旅行時に宿泊したホテルでは、ネット接続から国際電話までが無料で利用できるスマートフォンの貸し出しがありました。聞けば、香港発のベンチャー企業Tink Labsが旅行客向けに提供している「handy」というサービスとのこと。シンガポールだけでなく、香港のほか、欧州やアフリカでもサービスを展開しており、世界20都市、1200万人が利用したといいます。一体、どんなビジネスモデルで事業拡大を図っているのでしょうか。

ホテルが宿泊客に提供するためのサービスとして販売

筆者が体験したシンガポールのホテルでは、部屋に入るとデスクの上にスマートフォンが置いてありました(写真1)。米Googleのスマホ用OS「Android」を搭載する機種です。電源を入れ、使用する言語(日本語・中国語・英語に対応)と宿泊期間を選べば、すぐに使えます。チェックアウト後はスマホの設定はすべて初期化されており、他の宿泊客が利用した情報などは見られません。宿泊中はホテル外に持ち出しても構いません。


写真1:ホテルが用意してくれる「handy」の端末(提供:Tink Labs、トップ写真も)

handyで利用できる機能/サービスには以下のようなものがあります。宿泊者にとっては、とても魅力のあるもので、自身のスマホを空港で借りたWi-Fi経由では利用できないサービスもあります。

・無制限の国内/国際電話:海外の家族にも、かけ放題で電話ができます
・無制限のインターネットアクセス:ローミングを使ったりWi-Fiスポットを捜したりする必要がなく、外出中ものネットを使い放題で利用できます
・地図アプリ連携:内蔵の地図アプリで目的地までの経路をガイドします
・各種アプリの利用:Facebook、Twitter、Wechatなどのスマホアプリが事前にインストールされており、ログインすればすぐに使えます。使いたいアプリを自由にダウンロードして追加もできます
・「LUXOS」:目的地に最適化した「ラグジュアリーライフスタイルセレクション」や「シティガイド」として地元の情報を受け取れ、旅先での新たな発見に出会えます
・データの完全消去:チェックアウト後の初期化だけでなく、手動や遠隔操作でもデータを消去できるので安心して利用できます

ホテルと宿泊者のエンゲージメントを高めるサービスも豊富

もちろん宿泊しているホテルが用意するサービスの利用をうながす機能も豊富に搭載されています。スマホ画面上に、いくつかのタグが表示されており、そこからホテルの情報や現地の観光情報などにアクセスできます(図1)。


図1:実際にチケットを購入した際の画面例。さまざまな観光地の割引チケットが表示され代金はクレジットか「Wechat」で決済できる

・外出先コンシェルジュサービス:外出中も1クリックでホテルのコンシェルジュに電話がつながります
・客室間通話/モバイル内線機能:ホテルの有線電話を使わずモバイル通信により客室間で通話したりホテルの内線に電話ができます
・ホテルのWebサイトと連携:ワンタッチでレストランや施設などホテルが用意するWebページが開けます
・お得な旅の情報:ホテルが提供する商品やサービスの限定クーポンを受け取れます
・プッシュメッセージ:ホテルから直接、マーケティングメッセージやプロモーションが届きます
・口コミサイト連携:ホテル検索/口コミサイト「TripAdvisor」と連携し、宿泊しているホテルのレビューページに自動的に誘導されます

ホテルをデータドリブンな企業に変革

宿泊客にすれば“至れり尽くせり”なスマートフォンですが、当然ながら、その利用状況はデータとして取得されています。どんなコンテンツを見たのか、どのサービスを利用したのかなどを示すデータが総合的に追跡されるのです。そうしたデータがあるからこそ宿泊者が最適なサービスを受けられるのも、また事実です。

宿泊者の利用状況をホテル側は「ゲスト統計分析システム」を使って分析します。趣味や趣向、行動を統計的に分析することで、宿泊客に最適なマーケティング活動を取れるようになります。上記のプッシュメッセージなどが、その一例で、宿泊客に行動を促すような働きかけができるのです。

だからこそ、TripAdvisorのレビュー機能とのAPI連携も有効になります。顧客が満足してくれるよう積極的に働きかけられなければ、マイナスな評価を口コミに掲示されるかもしれません。Tink Labsは「handyでは宿泊客から口コミ内容を量的にも質的にも改善し、TripAdvisorでの評価を平均0.31ポイント高められる」としています。

handyの導入効果についても、「3カ月以内にホテルの客室売り上げを3.4%。施設とサービスの収益を21%、それぞれ高められる」(Tink Labs)といいます。宿泊客がhandyを利用する時間は1日平均、約67分とのことです、この約1時間に取得できるデータによって、ホテルのビジネスが改善できるというわけです。

B2CからB2B2Cにビジネスモデルを切り替え

このようにhandyは、宿泊客に利便性を提供すると同時にホテルには新たな収益を生み出しています。結果、Handyを採用するホテルがアジアや欧州で急速に拡大しており、Tink Labsは2017年中に世界で100万室にhandyが配置されるとうたっています。


図2:handyを導入するホテルの例(handyのWebサイトより)

とはいえTink Labsは全く新しい企業というわけではありません。2012年に香港で起業したベンチャーです。当初は、空港に店舗を設け携帯電話のレンタル携サービスとして事業を開始しました。しかし「空港で人が、わざわざ足を止め、そこから数十分をかけて会員登録までしてもらうのは相当に難しかった」と同社副社長の胡氏は雑誌のインタビューで答えています。

そこから現在のビジネスモデルであるホテルと提携し、ホテルが宿泊客に無料の通信/通話サービスを提供するスタイルに切り替えました。Tink Labsはホテルからサービス利用料を徴収します。スマホのレンタル代やスマホに表示する広告代、およびチケット販売など関連サービスのロイヤリティなどです。

Tink Labsに対しては2016年に中国Foxcomが1億2500万ドルを投資。同年末にはシャープも30億円を投資しました。2017年7月からは日本でもhandyのサービスを提供しています。日本でのホテルへのレンタル料は月額980円です。

IoT(モノのインターネット)の時代になり、消費者の行動データなどを取得しようという動きが強まっています。そのために消費者との接点をいかに確立し強固にするかという取り組みも盛んです。ただhandyのケースをみれば、自身がデータを囲い込まなくても、顧客と直接接している企業に対し、データの取得や活用を支援するというアプローチも有効かもしれません。

日本では2020年の東京オリンピック/パラリンピックに向けて、観光客へのサービス向上や、デジタルサイネージの活用などの検討が始まっています。そうした場面でもhandyのようなビジネスモデルが適用できる分野は多そうです。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)、志度 昌宏(DIGITAL X=デジタルクロス)

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