注目高まるヒアラブルデバイス、デジタル化でイヤホンと補聴器の境界もあいまいに?!

2018.08.21
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コンピューターを操るためのユーザーインタフェースとして「音声」が注目されています。Amazon EchoなどのAIスピーカーの登場が、そのきっかけの1つですが、その音声を扱うデバイスとして存在感を高めているのがワイヤレス型のイヤホン。各種センサーの搭載などが進み「ヒアラブルデバイス」とも呼ばれています。まだまだ音楽を聞くときなど、ある目的をもって装着するイヤホンですが、スマートフォンが手放せなくなったように、誰もがイヤホンを常時装着するような時代が来るのでしょうか。

ヒアラブルに先鞭を付けたアップルのAirPods

ヒアラブルデバイスの先鞭を付けたのは、米Appleが2016年9月に発表した「AirPods」でしょう。スマートフォン「iPhone 7」の登場時です。iPhoneやタグレット端末の「iPad」とBluetoothで接続するAirPodsは、ワイヤレスイヤホンですが、スピーカーのほかに、マイクと光学センサー、加速度センサーを搭載しています。

AirPodsをダブルタップすると、音声アシスタントの「Siri」にアクセスでき、「○○さんに電話して」などと発生するだけで、iPhoneから発信することが可能です。AirPodsがスマートフォンの新しい操作スタイルを提示したといっても過言ではないでしょう(動画1)。

動画1:Appleの「AirPods」の紹介ビデオ(2分8秒)

米Googleも「Google Pixel Buds」というヒアラブルデバイスを製品化しています。スピーカーのほかマイクと加速度センサーを搭載し、Googleの音声支援機能「Googleアシスタント」を使って、スマートフォンを操作できるのは、AirPodsと変わりませんが、Google Pixel Budsはリアルタイム翻訳にも対応しています。右耳用デバイスに備えられているタッチパッドを押し続けるとGoogleアシスタントが起動し、Google翻訳が有効になります。

ヒアラブルデバイスを製品化する動きは、欧州でも活発になっています。デンマークの電話会社であるGNグループにあって、業務用ヘッドセットを開発・販売するJabraが、その一社。2016年ごろからスマートフォンと連携して通話に使えるヒアラブルデバイスを提供しています。

2018年1月に開かれた世界最大規模のデジタル機器の展示会「CES2018」では、「Jabra Elite 65」を発表しました。SiriとGoogleアシスタントに対応するほか、AmazonがAIスピーカーに搭載する音声アシスタント「Alexa」とも連携します(動画2)。Jabra Elite 65を使ってAlexaにアクセスすれば、音声で問い合わせたニュースや天気予報の結果をイヤホンから聞くことができます。

動画2:「Jabra Elite 65」の紹介ビデオ(1分15秒)

いずれのヒアラブルデバイスも、その装着によりスマートフォンなどの画面をみなくても、様々なサービスにアクセスし、必要な情報を入手できます。最近では音楽を聞いているのかと思えば、誰かと電話していたといった光景を見かけることも珍しくなくなってきました。

またヒアラブルデバイスが搭載する各種のセンサーも、当初はヒアラブルデバイスを操作するためのものでしたが、最近では顔の向きや姿勢、歩数、心拍数などが測定できる製品も登場しています。活動量の測定はリストバンド型などが主流ですが、ヒアラブルデバイスを選択する利用者が増えるかもしれません。音声での操作と併せ、ヒアラブルデバイスをより多くの人が装着する時代が来ると言われる理由の1つです。

デジタル技術によって進化する補聴器

耳に長時間装着するデバイスとしては、難聴者をサポートする補聴器があります。長い歴史をもつ補聴器も今、デジタル技術の採用によって機能面と利用面で大きな進化を遂げようとしています。

一口に難聴といっても、聞こえにくさは人それぞれ。そのため補聴器は、利用者の聞こえ具合に合わせて専門家が聞こえ具合を設定する必要があります。ただ加齢や生活環境の変化により聞こえ具合も変わるため、補聴器は常に調整しなければならず、その都度、専門家の元を訪ねるのは手間も時間もかかります。それが理由で補聴器の使用をやめてしまうケースもあるようです。

こうした調整に伴う不便を解消すべく、デンマークの補聴器メーカーGN Resoundが開発したのが、スマートフォンと連動しリモートで調整できる補聴器「LiNX 3D」です。専用のスマホ用アプリを使って専門家へ調整を依頼すると同時に、アプリ画面に現れるいくつかの質問に答えます。専門家は、回答を元に調整した新しい設定プログラムをスマートフォンに送信。利用者は、新しい設定をスマートフォンから補聴器に移せば調整が終わるという仕組みです(動画3)。

動画3:「LiNX 3D」と連携するスマートフォン用アプリケーションの説明ビデオ(2分27秒)

スマートフォンと連携したことで、補聴器を紛失した際に探すことも容易になりました。スマホと補聴器の通信が途切れた場所が、スマホのGPS(全地球測位システム)機能により検索できるからです。スマホの地図を見ながら、その場所に向かえば良いというわけです。この仕組みは最近、紛失防止タグなどとして製品化されていますから、ご存じの方もいるでしょう。

また、デンマークの補聴器メーカーOticon(オーティコン)は、Webサービスと連携できる補聴器「Oticon Opn(オープン)」を開発しています。「IFTTT(イフト)」という各種のサービスを接続するWebサービスを使うことで、さまざまなモノやサービスと補聴器を連携させています。

たとえば、玄関でドアベルが押されると補聴器から誰かが訪ねてきたを知らせる音声が流れたり、補聴器の電池残量が減ってきたことを知らせるメールがスマホに届いたりします。音が聞こえづらいことを想定したサービスですが、これらは難聴者でなくても有効に見えます。ヒアラブルデバイスを装着し、常時何らかの音を聞いているようになれば、なおさらでしょう。

イヤホンと補聴器の間で機能の流用が始まっている

実際、イヤホンと補聴器の間で、いくつかの機能や考え方の流用が始まっています。オーストラリアのNuhearaが開発する製品が、その一例。同社の「IQbuds」は、スマホとBluetoothで接続するヒアラブルデバイスですが、補聴器のように音声を増幅する機能をもっています(動画4)。

動画4:「IQbuds」の紹介ビデオ(1分20秒)

Nuhearaは、「EarID」と呼ぶ“聴力パーソナライゼーションシステム”を開発しています。その中には、利用者の聴力を測定し、一人ひとりに最適な増幅量を計算する機能があります。同社は、IQbudsにEarIDをと組み合わせることで、軽度から中程度の難聴者に向けた補聴器としても提供できるとしています。

ヒアラブルデバイスを開発するスタートアップ企業が補聴器メーカーと組むケースも生まれています。ドイツのスタートアップ企業であるBragiは、米国の補聴器メーカーStarkeyと共同開発した「Dash Pro」というヒアラブルデバイスを提供しています。様々な形の外耳にフィットするよう調整されているのが特徴で、医療機器として長時間装着する補聴器の開発ノウハウがいかされているというわけです。BragiはDash Proを「世界で初めてのカスタムメイド型のワイヤレスイヤホン」としています。

日本では、オーディオメーカーのオンキヨーがスタートアップ企業のネインと組み、Android対応のヒアラブルデバイスの開発に取り組んでいます。オンキヨーはAIスピーカーの市場にも参入しており、両社の目標は「AIにつながるヒアラブルデバイス」の製品化です。

ヒアラブルの普及で音声メディアの復権も

音声や音楽などの“音”に着目すれば、イヤホンも補聴器も、より鮮明に、必要な音をとらえるという用途は共通です。とはいえ、これまでは利用者像の違いから追求する音の姿も違っても不思議はありません。

それが今後、ヒアラブルデバイスのように常時装着するといった利用スタイルが登場してきたり、高齢化社会など健常者であっても音を聞き取りづらい利用者層が増えてきたりすれば、老若男女を問わず、ヒアラブルデバイスの機能に頼るのが当たり前になるかもしれません。活動量なども測定できるとすれば、なおさらです。

それに伴って各種コンテンツの提供方法も変化することでしょう。たとえば、教科書や小説などの文字情報のデジタル化といえば現在、電子書籍が最も一般的な形ですが、それらも音声での提供が普通になるかもしれません。ニュースや天気予報などの情報も、Webページの読み上げではなく、当初から音声で提供されることも考えられます。すでに一部では、書籍を音読したオーディオブックやラジオといった音声メディアが注目されています。

新しい音声メディアの誕生をも予感させるヒアラブルデバイスの進化からは、しばらく目が離せません。

執筆者:足立 剛(Digital Innovation Lab)、小林 秀雄(ITジャーナリスト)

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