オランダの地図関連ベンチャーHEREの牽引力、パイオニアや三菱など日本企業が次々提携

2017.12.05
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みなさんは、「HERE(ヒア)」あるいは「HERE Technologies」というオランダのベンチャー企業をご存じでしょうか。クルマの自動運転や地図データなどに取り組んでいて、関心がある方の間では、今や知らない人がいないほどに“勢い”のある会社です。Audi、BMW、Daimlerといったドイツの自動車メーカー3社が出資するほか、2017年秋には、パイオニア、三菱電機、富士通の日本企業3社が相次いで提携しました。HEREが持つどんなテクノロジーが、これほどの牽引力につながっているのでしょうか。

Audiの最新ナビを支える地図データなどを提供

HEREは、オランダのアムステルダムに本社を置き、地図データおよび地図関連サービスを提供するベンチャー企業です。ベンチャーとはいえ、その起業自体は1985年、米シリコンバレーでのこと。2007年にフィンランドのNOKIAに買収された後、2015年にAudi、BMW、Daimlerの自動車メーカーによる企業連合に買収されました。この間に、HEREが提供する地図データは2次元から3次元に変化しています。

自動車メーカー各社がHEREに期待する領域の1つが、カーナビゲーションシステムです。その1例として、Audiの最上級セダン「A8」に搭載される最新システムを見てみましょう(写真1)。A8は、市販車としては世界で初めて自動運転の「レベル3」機能を搭載したクルマです。レベル3では、高速道路など特定の条件下でドライバーが運転を引き継げることを前提に、自動で走行します。日本でも2018年には発売される模様です。


写真1:独Audiのフラッグシップセダン「A8」に搭載される最新ナビの画面例

カーナビは今ではほとんどのクルマに搭載されるほど“当たり前”の存在です。しかし、一般にはクルマに乗ってから目的地を入力し、そこから検索されたルートに従って運転しています。これに対し、A8の最新ナビは、スマートフォン用の「myAudi」アプリケーションと連動し、クルマに乗る前の計画段階で選んだ行程とルートに沿ったナビゲーションを可能にしました。ルートはA8側で計算されるだけでなく、HEREが提供するクラウド側でも計算されます。

ナビで提供される情報も、ガソリンスタンドや駐車場、レストランなどの場所だけでなく、ガソリンスタンドなら現在の販売価格が、駐車場なら今、クルマを停められる空きスペースの数が、レストランならソーシャルメディア上の評価などが合わせて表示されます。

さらにA8に搭載されたセンサーで取得したデータを組み合わせることで、クルマが走っている車線を判断します。これにより、何車線もある道路での車線変更や、右左折のレーン選択なども、より正確に誘導できます。

こうした地図データを、Audiだけでなく、BMWや、カーナビメーカーのアルパインやガーミン、あるいはITベンダーの米Amazon.comや米オラクルなどに販売またはライセンスを供与しています。

次に狙うのは「ロケーションプラットフォーマー」

ただ、HEREはカーナビ用の地図データの提供にとどまっているわけではありません。最新のホームページでは自社のミッションを「現実をデジタルに表現することで、すべての人の暮らしや、モノの移動、それらが相互に作用するための方法を抜本的に改善すること」だとし、そのために「オープンロケーションプラットフォーム(Open Location Platform)」を提供するとしています。

オープンロケーションプラットフォームとは、地図をベースに様々な関連情報を階層(レイヤー)別に管理するための仕組みです。例えば、クルマの自動運転では、地図情報だけではなく、道路標識などの交通規制の情報や、渋滞情報、事故の情報などが必要になります(動画1)。

動画1:自動車を対象にした次世代サービスの紹介ビデオ(3分46秒)

自動運転のための地図のように、位置を基準に、複数の情報を重ね合わせた地図情報を提供しようとしているのがHEREなのです。自動運転分野では、AI(人工知能)用途に強みを持つGPU(画像処理プロセサ)を開発する米NVIDIAと組み、「HERE HD Live Map」や自動運転車用クラウドサービスの強化も図っています。

HERE HD Live Mapは、自動運転を支援するための複数のデータレイヤーをもち、センチメートルの精度で、クルマと道路などの関係を把握できるようにします。道路の状況は、天候の変化や工事の有無などで刻々と変化しますが、自動運転では、そういった変化も認識しながら判断しなければなりません。より適切な判断ができるように、AI技術を使って状況の変化を学習しようというわけです。

警察のシステムや物流の見える化などにも適用

階層型の地図情報の利用範囲は、自動運転だけにとどまりません。例えば、インドのウッタル・プラデーシュ(UP)州では、警察の警らシステムに採用されています。凶悪犯罪の減少に向けて、警察の対応時間を速めるのが目的で、2017年の初めに、パナソニックや地図情報システム会社の米インターグラフ、インドのシステムインテグレーターであるテックマヒンドラと共同開発しました。

ウッタル・プラデーシュ州では、23万2000人以上の警察官が3200台の警察車両を使って州内の犯罪防止や捜査に当たっています。システムではまず、距離や経路、および地域のカバー範囲などに基づき、3200台の車両と2万2275人の指揮官を戦略的に配置し、犯罪現場などへの到着時間を大幅に短縮しました。

警察のコールセンターにおいては、州内のどこからでも、電話やテキスト、電子メール、ソーシャルメディアやWebチャットで各種通報を受け付けられるようにしました。通報を受けると、発信者の正確な場所を把握し、現場に最も近い警察車両を派遣します。同時に警察車両には、最速のルートが示されます。

物流におけるサプライチェーンの可視化にも、オープンロケーションプラットフォームが利用されています。

現在の物流は、モノが世界中を移動し、そのための手段も、船や飛行機、列車やトラックなどさまざまで、それらが複雑に絡み合っています。結果、モノが今どこにあるのかを追跡・把握することが困難になっています。それだけに、サプライチェーンを完全に把握できれば、効率はもとよりコストも大きく削減できる可能性があります。

ここにHEREは、オンラインと、オフライン、屋内、屋外の4つの階層をもつ地図情報を提供することで、ネットワークがない環境でも、モノの位置を把握できるようにしています(動画2)。

動画2:「オープンロケーションプラットフォーム(Open Location Platform)」の紹介ビデオ。後半で物流への適用に触れている(1分52秒)

地図や位置の情報の重要性はますます高まる

デジタル化が進み、私たちの物理的な世界がデジタルの世界に再構築されるなかでは、デジタル化された地図や位置の情報が、さまざまな場面で必要になります。先に紹介した警察や物流の例だけでなく、企業のマーケティング活動などにおいても、どこに、だれ/何が、存在するのかを問わないほうがまれでしょう。シェアリングやマッチングといったサービスではなおさらです。

そこに着目し、地図データや関連データを集め、デジタル化を進めているのがHEREという会社です。デジタルな地図といえば、米グーグルが思い浮かびますが、香港の市場分析会社Counterpointが2017年上半期に発表した調査結果では、HEREはグーグルを抑え、「トップロケーションプラットフォーマー」に位置付けられています。HEREがこの分野で、どんなサービスを打ち出してくるのか、目が離せそうにはありません。

執筆者:高橋 俊一(Digital Innovation Lab)、奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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