広島県が地方発のイノベーション実証へ、渋谷区と組み「ひろしまサンドボックス」を始動

2018.05.29
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3年間で最大10億円を投資する−−。一般企業なら大したことのない額かもしれませんが、これが県庁となれば話は別でしょう。2018年5月17日、広島県がビッグデータやIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)といったデジタル技術を活用して新たな何かを生み出す構想「ひろしまサンドボックス」を正式に発表し、県として10億円を投資することを明らかにしました。お固いイメージのあるお役所が、リターンが明確でない投資をするという事実だけでも一定のインパクトがあります。「ひろしまサンドボックス」とは、どんな構想なのでしょうか?

イノベーション立県に向けた施策を投入

あまり知られていませんが、広島県は“イノベーション立県”を標榜しています。具体的には、2017年3月にイノベーション創出の拠点として「イノベーション・ハブ・ひろしまCamps」を開設しました。ワークショップやセミナーが開けるエリア、3D(3次元)プリンターやレーザーカッターを利用できるFabエリア、作ったモノをテスト販売できるマルシェエリアなどを持つ施設です。運営には監査法人トーマツなどに所属するスタッフが常駐し、これまでに延べ1万人超が利用したといいます。

半年後の2017年10月には「ひろしまデジタルイノベーションセンター(HDI)」を開設しました。県の外郭団体である、ひろしま産業振興機構が主体となり、スーパーコンピューターやCAE(コンピューターによる設計支援)ソフトを活用できる人材の育成に取り組んでいます。「広島を(自動車メーカーのマツダが採用していることで知られる)モデルベース開発(MBD)の聖地にする」のが目標です。

これらに次ぐ第3の手が「ひろしまサンドボックス」構想です。AI/IoT実証プラットフォーム事業という副題がつけられています。広島県知事の湯崎 英彦 氏は「CampsともHDIとも違う形で、まだ世の中にない、新しいソリューションを生み出したい。トライアンドエラーを繰り返す意味を込めてサンドボックスとした」と語っています(図1)。


写真1:「ひろしまサンドボックス」のコンセプト

サンドボックス構想では、2018年5月16日付で設立した、ひろしまサンドボックス推進協議会を事務局に、6月(第1次)と9月(第2次)に提案を公募。採択を経て10月から実証実験に入ります。その後、随時、事業内容を評価し、強化したり修正したり、あるいは第3次の提案を公募したりして、2020年後半には成果を生み出す計画です。

ベンチャー企業の集積地・渋谷区と連携

AIやIoTに着目したことも含めて、よくあるベンチャー企業を対象にしたコンテストや支援策にもが見えますが、独自の工夫もあります。中でも注目されるのが、ITベンチャー企業が集積する渋谷区との連携です(写真1)。広島県からすれば、単独で提案を公募するのは限界がある。渋谷区にしても、リッチな観光資源や過疎化という問題を持つ広島県と組むことでベンチャー企業に取り組むべき課題を提供できる。そんな思惑が一致しての連携です。


写真2:渋谷区長の長谷部 健 氏(左)と広島県知事の湯崎 英彦 氏

渋谷区サイドでは、一般社団法人の渋谷未来デザインが主導し、渋谷区のベンチャー企業と広島県をつないだり、情報発信を担ったりする体制も敷きます。県同士や市同士といった形の自治体連携はいくつかあるにせよ、地方の県と東京の区が連携するのは、これが初めてではないでしょうか。

もう1つの工夫は、ソフトバンクやNTT西日本のサポートや連携を得ること。この種の取り組みでは、アイデアをできるだけ早く、低コストで形にするのがカギ。ネットワークやデータの蓄積・分析基盤をゼロから用意しなければいけないとなると、AIやIoTの利活用といっても絵に描いたモチになってしまいます。ひろしまサンドボックスでは、構想段階から、このAIやIoTの基盤整備に関わる問題に配慮しています(図2)。10億円という投資も含めて、なかなか本格的というか、よく考えられた枠組みと言えます。


写真3:ひろしまサンドボックスではIoTプラットフォームを用意する

なぜ広島県は、こうしたいう発想ができるのか?この点を不思議に思って調べてみたところ、同県知事の湯崎氏は、経済産業省の出身で、かつ2000年代に存在した電気通信事業者「アッカ・ネットワークス」の創業者の1人でした。同社の事業は、イー・アクセスを経て、ソフトバンクモバイル(現ソフトバンク)に移っています。官僚や起業家の経験があり、かつデジタルに造詣が深いとも思える人物です。

だからといって成果を生み出せるとは限りませんが、地方発のイノベーションのモデルケースになることを期待したいものです。

執筆者:田口 潤(IT Leaders)

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