ハウステンボスは広大な実証実験の場、ロボットから農業、エネルギーまで

2016.10.18
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長崎県佐世保市にある「ハウステンボス」は、みなさんご存じのことでしょう。オランダの街並みを再現したテーマパークとしてスタートしましたが、2010年4月からはエイチ・アイ・エス(H.I.S.)が経営再建を引き継いでからは、様々な工夫を凝らし、2015年7月にはロボットが働く「変なホテル」も開業しました。ハウステンボスは今、ロボットなどのテクノロジーをどのように経営に生かそうとしているのでしょうか。ハウステンボスの髙木 潔 専務取締役が2016年9月29日、ITベンダーのワークスアプリケーションズが東京・六本木で開いた「Company Forum 2016」で行った講演内容から紹介しましょう(写真1)。

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写真1:講演するハウステンボスの髙木 潔 専務取締役

“オランダ”へのこだわりを捨て“一番”を目指す

ハウステンボスの入場者数は2015年度、15年ぶりに300万人を超えました。入場者増に一役買っているのが数々のイベント。ハウステンボスのホームページを見れば、毎日、途切れることなく複数のイベントが開かれていることが分かります。そして、それらのイベント案内のほとんどに示されているのが「世界一」「世界一流の」といった文字。例えば、ハウステンボス全体をイルミネーションで飾る「光の王国」であれば「世界最大1300万球の輝き」といった具合です。2016年は「世界最大!世界初!光のドラゴンロボット」が目玉だそうです(動画1)。

動画1:2016年秋の「光の王国」の紹介ビデオ

この「世界一」について高木専務は、「日本一の山が富士山だということは誰でも覚えている。だが日本で2番目の山となると、なかなか覚えてもらえない。だからハウステンボスでは、“世界一”や“日本一”、せめて“九州一”などにチャレンジし続けている」と説明します。その積み重ねが、光の王国ほか、「花の王国」「ゲームの王国」「音楽とショーの王国」「健康と美の王国」「ロボットの王国」の合計6つのテーマゾーンを形成しているわけです。その過程では「当初のテーマだった“オランダ”は既に意識していない」(高木専務)と言います。

ハウステンボスが「ナンバー1」にこだわる背景には、お膝元の長崎や九州での人口減少への危機感があります。現在、入場者の約55%は九州圏からであり、来場者を増やすには関西や関東などからの来場者を増やさなければなりません。加えて、例えば東京から長崎へ旅するよりも、韓国や台湾など海外に旅行したほうが料金的には安価なケースが少なくありません。加えて、地元の人口減少は「多くの来場者を迎えるためのスタッフの確保という面からも問題」(同)になります。「いかにハウステンボスを旅行先に選んでもらうかと同時に、いかに効率良く運営するかが業務改革のテーマ」(高木専務)なのです。

効率化の追求から生まれた「変なホテル」

「効率の高いテーマパークの運営」という課題に対する取り組みの1つが、各方面で話題になっている「変なホテル」でしょう(動画2)。フロントやクローク、コンシェルジュといったホテル運営に不可欠な役割の多くを運営スタッフではなくロボットが担っています。フロントロボットは4カ国語に対応し、コンシェルジュはクラウドとつながって動作しています。

動画2:「変なホテル」の紹介ビデオ

変なホテルのコンセプトは「変わり続けることを約束する」です。独自開発のロボットのほか産業用から転用したロボットなどを幅広く活用しており、約16種類合計100台ほどのロボットが“働いている”といいます。逆に運営スタッフの数は、2015年7月の開業当時の約30人が2016年9月時点ではわずか9人にまで減少しました。この間に、ホテルは東西の2棟建てになり、客室数は2倍の144室に拡大しています。千葉県浦安市に2号店を2017年3月にオープンする計画で、「今後も3号店、4号店と他店舗展開を図りたい」(高木専務)考えです。

変なホテルでの経験を生かし2016年7月にオープンしたのが「ロボット王国」です(動画3)。省人化に加え、エンターテインメント性を重視しています。ロボット王国内には「変なレストラン」を併設しており、お好み焼きを焼いたりチャーハンを作ったりするロボットや、飲み物やソフトクリーム、ドーナツなどを作るロボット、さらには後片付け用のロボットなどを導入しました。

動画3:「変なレストラン」を併設する「ロボットの王国」の紹介ビデオ

敷地内は許認可が不要なためトライアルが容易

ハウステンボスが、変なホテルやロボット生国などに積極的に取り組める理由の1つに、ハウステンボスという広大な“私有地”があります。高木専務は、「一般なら許認可が必要な取り組みでも、ハウステンボス内なら直ぐに試行できる。このメリットを生かし、新しいテクノロジーなどが業務にどう生かせるのかをスピード重視で実験できるのが強みになる」と話します。ハウステンボスの紹介ビデオには、H.I.S.の澤田 秀雄 代表取締役会長がハウステンボス専用車を運転する場面が登場しますが、高木専務によれば「澤田会長は運転免許を持っておらず、ハウステンボス外であれば無免許運転」になります。

高木専務が「広大な実証実験の場」と呼ぶハウステンボスで試行されているのは、ロボットだけではありません。植物工場や再生可能エネルギーを使った自家発電などにも取り組んでいます。植物工場で作った野菜は、健康と美の王国内にあるレストランで、地場産野菜とともに実際に食材として使っています。自家発電では、太陽光や地熱で発電した電気で水素を作って燃料電池を稼働させる「自立型水素エネルギー供給システム」を導入し、ハウステンボス内の電力を賄っています。こうした取り組みも、冒頭で挙げた人口減少同様に「ハウステンボスの運営に不可欠な資源。将来を見越しながら実際に使うことでノウハウの蓄積を図っている」(高木専務)のです。

高木専務は、「ロボットをはじめテクノロジーの世界は変化が早いだけに、PDCA(Plan-Do-Check-Action)のサイクルをいかにアジャイル(俊敏)に回せるかが勝負になる」と話します。そしてアジャイルに動くためにハウステンボスでは「企画書は作らない」と言います。「本当にやりたいこと、面白いことであれば、担当者と5~10分も話していれば決断できる。企画書作りに時間を掛けるのではなく、面白いものを作ることに時間を注ぎたい」(高木専務)という考えです。

PDCAサイクルにおける「Check=経験」こそが重要

そのうえで高木専務は、「PDCAサイクルの中でもCheck段階、すなわち実証実験から得られるノウハウこそがハウステンボスの強みになる」と強調します。具体例として、変なホテルのフロントロボットを高木専務は挙げます。「当初は、『色々と質問されたらどう対応するのか』といったことを心配し、そのための仕組みなども検討していた。だが実際にはロボットに質問してくる人は、ほとんどいない。現場での利用に向けては、やってみなれば分からないことがたくさんある」(高木専務)というわけです。

テクノロジーの活用に向けては特区制度などを含め、各種の実証実験が実施されています。ただ、ハウステンボスのように実業務での継続的な検証という意味では、まだまだ不十分かもしれません。こう言うと「ハウステンボスだけが有利では」といった声も聞こえてきそうですが、高木専務は「ハウステンボスという実証実験の場を使って新しいことに取り組めるパートナーを常に募集している」と言います。「5〜10年後の『観光ビジネス都市』の実現」(同)が目標だからです。ハウステンボスを“広大な実証実験の場”ととらえれば、その見方も変わってくることでしょう。

執筆者:漆畑 慶将(OKメディア)

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