Intelligent Mobilityを支える“中東のシリコンバレー”イスラエルのスタートアップの姿

2017.03.02
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次世代の自動車を支える主要なテクノロジーにインテリジェント化・知能化があります。「Intelligent Mobility」とも呼ばれる同分野では、自動運転だけでなく、交通システムや環境を含めたインテリジェント化を視野に入れています。そのIntelligent Mobilityをリードしているのが「中東のシリコンバレー」とも呼ばれるイスラエルのベンチャー企業です。イスラエルに、どんなベンチャー企業が生まれ、どんなテクノロジーを自動車向けに提供しているのでしょうか。

既にイスラエルのベンチャー企業は、Intelligent Mobilityのためのテクノロジーを世界の自動車メーカーに提供し成果を出し始めています。そんなイスラエルのベンチャー企業から直接、彼らの取り組み内容を聞く機会がありました。東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれた「第10回オートモーティブワールド」(主催:リード エグジビション ジャパン)の特別講演です。米Google傘下のWazeeyeSight TechnologiesMobileye Vision Technologiesの3社が、それぞれのテクノロジーを紹介しました。

Waze:車からのGPS情報から最新の道路情報を作る

Wazeは、道路の状況や渋滞情報などをシェアできるカーナビアプリ「Waze」を日本を含む世界各地で提供しています(動画1)。2013年にGoogleに買収され、同グループのWave部門になっています。Wazeの特徴は「ドライバーが情報を提供することで最新の地図ができあがる」(WazeのOperations & Program Managementを担当するGoogleのFej Shmuelevitz氏)こと。サービスをユーザーに無償で提供する代わりにユーザーからのデータ提供を受けて地図を完成させる、いわゆるクラウドソーシングモデルです。そうしてできたWazeの地図は「地図のWiki」とも呼ばれています。

動画1:「Waze」の紹介ビデオ

ユーザーがWazeに提供する情報は、GPS(全地球測位システム)を使った走行状況のほか、道路の新設や不備、事故の発生や警察の取り締まりなどです。GPS情報と、その他の情報は別々のレイヤーで管理されています。走行状況は、1秒ごと1メートルごとに取得されており、Shmuelevitz氏によれば、Wazeの月間のアクティブユーザー数は7500万人で、1人当たり月平均402分(6時間42分)分の走行データを送っています。これらのデータにより、地図上では道路があるのに車が走っていない場所は、何かしらの不具合が生じていると考えられますし、ユーザーからのリアルタイム情報から通行に支障がある場所を特定し、ドライバーに警告を出したり、最適なルートや到着時間を知らせたりもします。

Wazeの情報は、特定の事業者と共有することで、新たな付加価値も生みだします。例えば、ブラジルのリオデジャネイロでは、オリンピックに備え、Wazeの情報に基づいて警察車両や救急車の出動を支援しました。同種の交通実験は世界各地で実施しており、「事故などの情報の約70%をWazeが収集できた」(Shmuelevitz氏)といいます。米ボストンの実験では、アメリカンフットボールチームのイングランドペイトリオッツが優勝しパレードを実施した際に、パレードがいつ、どこを通るかをポップアップ表示し、交通渋滞に巻き込まれることを回避しました。最近は、Wazeの情報をテレビ放送にリアルタイムに表示する「Waze for Broadcast」というサービスの試験も実施しており、ABC7やCNNなどがパートナーになっています。

eyeSight:ドライバーの状況を常にセンシング

eyeSight Technologiesは、画像に基づくセンシング技術の会社です。自動車分野に向けては、ドライバーの運転中の様子を監視する技術や、オーディオやエアコンなどを身振り手振りで操作するためのジェスチャー認識技術を提供しています(写真1)。

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写真1:eyeSight Technologiesの自動車向け技術を紹介するホームページの例

自動運転ではドライバーの状況を理解することがとても大切になります。例えばエアバッグは、ハンドルを握っているドライバーの保護に適切な場所に設置され動作しますが、自動運転中のドライバーはハンドルを握っているとは限りません。その時にエアバッグが動作したら、そのエアバッグが逆に危険な存在になってしまう可能性があるからです。こうした状況を含め、自動運転を現実的なものにしていくためには、「車がドライバーの状況を詳細に理解することが求められる」(同社CEOのGideon Shmuel氏)のです。既に保険会社や商用車を管理する企業などから、様々な要望が挙げられているそうです。

その認識技術は、ARMプロセサを使った組み込み型で提供されます。性別や顔などドライバーの様子を監視するカメラとしては、ちょっとした人の動きから状況を判断できるだけの高い応答性能が求められるからです。カメラは毎秒30コマの画像データを取得していますが、その転送や処理に遅延があっては、事故につながりかねません。現在eyeSightでは、車線変更前にドライバーがサイドミラーを何回見るか、瞬きの速さ、年齢や性別、上半身の姿勢などを分析するための機能を開発しています。加えて、カメラの視野角を120度まで拡げ、特別なアルゴリズムによってドライバーだけでなく、後部座席に座っている人の動きも把握できるようにする計画です。

Mobileye Vision Technologiesは、複数のカメラを車に搭載し安全性を高める「Mobileye」を開発しています。併走する車の存在や車線を分ける白線を検出したり、歩行者なども検知したりできます(動画)。検出結果から、衝突前に警告を出したり、自動運転を可能にしたりが可能になります。日産自動車がミニバン「セレナ」に搭載した高速道路での運転支援機能「プロパイロット」も、このMobileyeを使っています。セールス部門トップのDavid Oberman氏は、「Mobileyeはセレナを含む273車種に搭載され、世界で1500万台以上が販売されている」と語ります。

動画:Mobileyeの紹介ビデオ

1995年に創業した同社は2014年に米ニューヨークで上場。現在は、数百人のエンジニアが開発に取り組んでいます。躍進のきっかけになったのは、自転車で通勤していたロンドン市長が大型車に轢かれそうになったことから、車の死角を減らす仕組みの開発依頼があったこと。そこで採用されたのが、複数のカメラを使って死角をなくすと同時に、自転車や歩行者をリアルタイムに検知できるようにした「MOBILEYE SHIELD +」でした。

MOBILEYE SHIELD +が取得した情報は別の価値も生み出しました。アラート情報に位置情報を組み合わせることで、「街のどこに危険な場所があるか、アラートが多数でている交差点はどこかなどの検出が可能になった」(Oberman氏)ことです。ある都市では、こうした危険な場所の情報を元に自転車専用エリアが設けられたこともあるそうです。Mobileyeでは現在、同社が取得した位置情報などをクラウドでシェアすることで、自動運転用の地図の作成にも取り組んでいます。「進路を示したり駐車スペースを判断したり、あるいは降雨や降雪なども判別できるため車に減速を指示したりできるようになる」(同)としています。

利用者や社会に提供できる価値の検証に取り残される?!

各社の講演後には、パネルディスカッションが開かれました(写真2)。同パネルのモデレーターを務めた、自動車業界に詳しいデトロイトトーマツコンサルティングの執行役員パートナーの周 磊(しゅう・らい)氏によれば、世界の自動車業界は既に、インテリジェント化やインターネット接続(Connected化)の技術を組み合わせながら、利用者や社会に対して提供できる“価値のあり方”を検証・構築するフェーズに入っています。

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写真2:イスラエルのスタートアップ企業によるパネルディスカッションの様子

例えば、スウェーデンのボルボは2017年から自動運転について一般の消費者が参加する大規模な実証実験を開始しますし、米オハイオ州コロンバスでは移動をテーマにしたスマートシティの実証実験が始まりつつあります。「2020年代には、自動車など輸送を担う媒体、すなわち旅客や物流に関するサービスの連携や需給マッチングが加速する」(周氏)と見られています。そこでのプレーヤーは、独ダイムラーのような自動車メーカー、米Uber Technologiesの様なライドシェアのサービス事業者、鉄道やバスなどの運輸業者と、GoogleのようなITベンダーです。

そのITベンダーとして、イスラエルのスタートアップ企業はなぜ自動車分野をリードできているのでしょうか。各氏の発言をまとめると、1つは、「イスラエルでは経済的な支援が受けやすいこと」。政府を含めた投資家がスタートアップ企業に投資しています。もう1つは「新しい技術を開発しようという文化があること」。そのためイスラエルでは「まずスタートし、修正しながら進めて行く。失敗しても構わない」といいます。

これに対し日本では、「様々なものが揃ってからでないとスタートしない」と見られています。例えば、道路情報などはユーザーが増えることでデータの質も高まっていきますが、「日本では最初から質を求めるため、十分な情報が集まるまで待つことになってしまう」などです。加えて「日本企業とジョイントベンチャー(JV)を組むと、サプライヤー(供給者)とカスタマー(顧客)の関係になってしまう。高度な技術を活用するにはパートナーの関係を築けなければならない」といった苦言もあります。

自動車自体では世界に名だたる日本ですが、今後はデジタルテクノロジーを積極的に取り込めるようにならなければ、Intelligent Mobilityという未来では遅れを取ってしまうのかもしれません。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji)

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