加速するデジタルビジネスとその実態 企業はこう対応し、イノベーションを実現せよ

2015.11.05
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ICTがビジネスを大きく変えようとしている。これまでの業務の効率化や合理化といったレベルではない。ビジネスのあり方を再定義し、書き換え、あるいは存在しなかったビジネスモデルを創造する時代が到来しているのだ。この変化に対応できない企業は、否応なしに退場を迫られると言っても過言ではない。いったいどんな変化が起き、企業は自らの何をどう変えなければならないのか。そのために何をすればいいか。企業ICTの未来を考えるイベント、「IT Trend 2015」の講演から、それを紐解いてみよう。
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デジタルビジネスの2つのビジネスモデル

今年のIT Trend 2015のテーマは「2020年を見据えた中長期IT戦略の試金石」。5年後の2020年を中長期と呼ぶことには違和感があるが、ICTがもたらす変化は非常に早く進んでいる。「5年後を短中期と捉えるのではなく、中長期として戦略を推進せよ」というITR流のメッセージと捉えるのが正しいだろう。

冒頭、基調講演に立ったITRの代表取締役/プリンシパル・アナリストの内山悟志氏は「今、企業に期待されているのは、“デジタルイノベーション”の創出」だと説く。具体的には「スマートフォンやIoT(モノのインターネット化)、ビッグデータなど最新のICTによってデジタル化されたデータを活用することで、企業がビジネスや業務を変革したり、これまで実現できなかった新たな価値を創出すること」(内山氏)だ。
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言い換えれば、従来の業務プロセスの自動化や不要化などの変革と、新たな顧客価値の創出や新規事業への進出といった、破壊と創造を引き起こすことである。「デジタル技術の進化と普及に伴って、次々に新しいサービスやビジネスが誕生し、急速に浸透している」(内山氏)。消費者を相手にするB2C企業がいち早くその波に洗われているが、B2B企業もその例に漏れない。「デジタル化は社会や産業を変え、顧客と企業との関係を変え、組織運営や働き方を変え、そしてビジネスそのものをも変えていく。そのような状況を“デジタルビジネス”と呼ぶ。どんな企業や組織も、その影響は避けられないし、逃れることもできない」(同)。

続いて内山氏は、より具体的なモデルに言及した。「デジタルビジネスはデジタルデータによって人、モノ、コトをつなぐことで新たな価値を生み出すのが基本であり、大きく2つのパターンに分けられる。データそのものに着目したものと、つながりに着目したものだ」(内山氏)。内山氏は、2つのビジネスモデルを細かく分類し、現状では12のビジネスモデルのパターンに分けているという。講演では、データの活用、コンテンツのデジタル化、無形価値のデジタル化、サービスの連携、情報の仲介といった具体的な切り口を示した。「パターンは組み合わせによっても変化していくが、それぞれのパターンに当てはまる事例を研究して、自社であればどう取り組むかを考えて実践し、デジタルビジネスを体感して欲しい」と内山氏は語る。

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図1:データに着目したビジネスモデルの分類(出典:ITR)

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図2:つながりに着目したビジネスモデルの分類(出典:ITR)

求められるIT部門のマインドチェンジ

企業のIT部門、および企業ITには、デジタルビジネスの時代に何が求められるのだろうか?内山氏は、これまでの企業情報システムやその活用とはまったく異なる特性がある点に着目すべきだと指摘する。まず既存の情報システムは、取引や企業内部の業務データを、確実かつ安全に受け渡し、記録することが重要な役割である。そのためこの種のシステムを「Systems of Record(SoR)」(記録を主目的としたシステム群)と呼ぶ。SoRは、自社内に閉じたシステムである、一度構築したら数年、場合によっては数十年も使われ続ける。
これに対し、デジタルビジネスにおける企業IT(イノベーション領域のIT)では次の4つが重要になる。

1)顧客との関係性を深めるために柔軟にシステム構造を変える「Systems of Engagment(SoE)」と呼ばれるシステム群
2)他社の技術やアイデアと組み合わせて作る「オープンイノベーション」
3)試作品を作って顧客の反応を見て反映させるサイクルを短期間に繰り返す「リーンスタートアップ」
4)既存のアプリケーションやサービスを取り込んで活用する「APIエコノミー」

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図3:イノベーション領域の4つの特性が示すシステム要件(出典:ITR)

これらの特性を踏まえると、システムの要件も自ずと変わってくる。「事前に不確定な要素が多い」、「要件は常に変動する」、「外部の知恵や資源を活用する」などが前提となり、それを支える仕組みとしてのシステムには、高い拡張性や柔軟性、早期の立ち上げ、柔軟な連携性などが求められる。内山氏は「デジタルビジネスのシステムは永遠のベータバージョンみたいなもの。これまでのシステム作りの既成概念を捨てて、IT部門はマインドチェンジする必要がある」と指摘する。

システム要件だけでなく、ビジネス領域でのイノベーションの創出プロセスも変わってくる。「ビジネス側から要求を受けてITによる解決策を考える課題解決型や、技術的な進化を踏まえてIT部門から改善策を提案するシーズ提案型では不十分。ビジネスとITの両方の専門家がそれぞれの分野が将来どのように変化するかの予兆をつかみ、それを持ち寄ってアイデアを具現化するアイデア駆動型を増やさなければならない」(内山氏)。

しがたって、イノベーションを創出するための体制が重要になる、と内山氏は続ける。「IT部門にイノベーション推進機能を持たせるパターンと、イノベーションの専門組織を設けて、ビジネス側とIT側からそれぞれ人材を送り込むパターンが、その典型例だ。内山氏は「どちらが良いということはない」としながらも「通常の業務との掛け持ちはできないと考えておくべき」と話す。当然、ITベンダーとの付き合い方も変えなければならない。イノベーションの創出には、社内外の知恵やリソースを最大限に活用する仕組みと仕掛けがいる。だから明確に役割を分担するウォータフォール型ではなく、一緒になってアイデア出しから実装を繰り返し行うアジャイル的な進め方が必要になるというのだ。

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図4:イノベーション創出のための体制(出典:ITR)

イノベーション創出のために共創を

内山氏の基調講演に続いて、パネルディスカッションが行われた。内山氏がモデレータ役を務め、パネリストにTBWA\HAKUHODO 常務執行役員兼CFOの高松充氏、富士通 執行役員 インテグレーションサービス部門 産業・流通システム事業本部長の佐藤勝彦氏が登壇。「デジタルイノベーション創出へのアプローチ~共創がもたらすビジネスの新機軸~」と題する議論である。論点は、外部の知恵を生かすにはどんな仕組みや仕掛けが求められているのか、だった。
口火を切ったのは、高松氏。TBWA\HAKUHODOは2006年に博報堂とTBWAのジョイントベンチャーとして設立された。狙いは大企業とスタートアップ企業のコラボレーションの創出。TBWAがグローバル市場で駆使してきたDISRUPTION(創造的破壊)を生み出す手法を、日本でも展開している。
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「アイデアを実現する場として、“QUANTUM”という場を作った。従来交わることのなかったもの同士の共創によって、創造的破壊を起こすのが狙いだ。アイデアを形にする工房を用意し、すでに多くのプロジェクトや成果を生んでいる」(高松氏)。IoTで自動昇降する業務用のデスク、購買者にサービスを提供する自動販売機、名刺を入れると電子データ化して管理するサービスなどだ。高松氏は、共創によるこうした取り組みが広がる背景には、イノベーションがないと生き残れないという危機感があると指摘する。「企業は自社の枠を超えた発想の製品を生み出さなければならない。生み出すには、モノを起点にコト化する、そうしたことを可能にする共創が必要だ」(高松氏)

続いて富士通の佐藤氏が取り組みを紹介した。周知の通り、富士通はICT企業として様々な業種業態、企業規模の顧客にサービスを提供している。そうやって築いた個々の顧客との関係をベースに、顧客同士の共創を加速させようとしているという。
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1社が単独で何かを実施するのはもちろん可能だが、斬新なアイデアをもとに存在しなかったビジネスを創造するには共創が大事。そこで事業部門横断で共創を推進する組織として、昨年12月に業種コラボレーション統括室を設置した「商品、顧客、人材の3つの軸でコラボレーションを推進している」(佐藤氏)。例えば食品業に製造業での取り組みを紹介したり、引き合わせて議論の場を提供したり、といったことだ。エネルギー、地方自治体などにも、すでに広げていると話す。内山氏はこうした動きを「ビジネスニーズと技術が融合したことで、顧客ごとに体験価値を提供する共創の可能性自体が広がっている」と指摘する。

「出島を作る」という妙手のススメ

しかし複数の企業をコラボさせたり、議論の場を提供したりしても、それだけでは十分ではない。「アイデアだけ頂こう」とか、「自社の負担が重くなったり、自社の既存事業に悪影響を及ぼすので、実施できない」といった、企業内部を見た議論に陥る恐れは否定できないからだ。

共創やイノベーションを加速するために求められる本当の要件とは何なのだろうか。高松氏は「生き延びるために、違う世界で暮らす覚悟を持つこと」だと話す。過去の成功体験は通用しない。常識や慣習、ヒエラルキーは通用しない。「大事なのは、市場での競争からエコシステムへの発想の転換。一人勝ちはあり得ないし、目指してはいけない」(高松氏)。

そこでは事業の進め方も変わる。「これまでの新規事業開発のように、入念に準備して一気に展開する打ち上げ花火型ではなく、やってみて成果をみて、失敗から学んで次のチャンスに活かす神経衰弱型になる」と高松氏。まさにリーンスタートアップだ。内山氏が指摘したイノベーション領域のシステム要件と通じるものがある。
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そこで重要になるのが、共創やコラボレーションの組織作り。高松氏は「リーンスタートアップに加えてもう一つのやり方をお勧めしたい。それは会社の中に出島を作ることだ」と話す。出島は鎖国時代に唯一国際社会とつながっていた窓口で、西洋の思想に触れた志士の多くが時代を変える大仕事の担い手となった。
富士通の佐藤氏も同意見だ。業種コラボレーション統括室の役割は、既存のユーザー企業とベンダー企業、つまり発注者と受注者という枠を乗り越えるところにある。富士通の既存事業部門のマインドを乗り越えるためにも、専門組織を設置するのがベストという判断だったという。内山氏の提唱する兼務ではない専門組織も含め、それぞれの企業で出島を作る=既存の枠組みやビジネスから自由になって、イノベーションに専念する組織や人材は、特に日本では重要かもしれない。

というのも、デジタルビジネスの推進において、高松氏、佐藤氏、内山氏ともに、中小企業やベンチャー企業に加えて大企業の役割が大きいと見るからだ。「シリコンバレーのイノベーションの特徴の一つが、イノベーションをけん引する移民の存在。彼/彼女らが起業して変革をリードしている。しかし日本にはそれがない。その分は大企業がけん引すべき」(高松氏)。

佐藤氏も「富士通にはデジタル技術やノウハウがあり、膨大な顧客基盤もある。それを共創に結びつける。2020年に開かれる東京五輪・パラリンピックに向け、イノベーションを起こしたいし、起こす力がある」と語る。日本の大企業はヒト、モノ、カネ、そして情報を持っている。高松氏は「エスタブリッシュメントの逆襲」と、企業のデジタルビジネスへの取り組みにエールを送る。

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