IoTで“空の安心・安全”高めるJAL、整備現場に最新情報をモバイルで届ける

2017.01.17
リスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

航空機の“安心・安全”を陸上から支えるのが整備作業。そこにIoT(モノのインターネット)を適用し、航空機の不具合に起因する欠航や遅延、事故を防ごうとしているのが日本航空(JAL)です。単に大量のデータを集め分析するだけでなく、その結果を整備現場に届けるための仕組みも導入します。到着から次の種発までの間の短時間に実施する整備に特に効果が出ると期待しています。

機体やエンジンからのセンサーデータを過去実績とともに分析

故障したら路肩で整備できる車などとは異なり、航空機は飛行中に、どこかに止まるわけにはいきません。そんな事態が発生しないよう、地上での整備についても確実な実施が求められています。具体的には、(1)空港に到着してから出発するまでに実施する運航整備のほか、(2)約1カ月に1度、夜間に実施する整備、(3)約1年に1度、機体の構造点検を含めて実施する整備、そして(4)4〜5年に1度、内装や外装の塗装まではがして実施する整備の4つです(写真1)。いずれの整備でも、航空機の機種ごとに認定される整備士の資格保持者が整備の完了を確認する必要があります。

jal_1
写真1:格納庫での整備の様子

これら整備の前提になるのが機体の状況。整備時に各種検査を実施するのはもちろん、機体やエンジン、装備品が備えるセンサーから各種のデータも収集しています。ただ、これまでは1回の飛行単位にデータを取りまとめ、あらかじめ設定してある値を越えれば“異常値”として検出し対応するにとどまっていました。

機体から得られるセンサーデータに対し、JALと実際に整備を担当するJALエンジニアリングは、ネットワーク経由でダウンロードしたうえで、過去のセンサーデータや整備履歴と合わせて分析し故障の発生を事前に予測する方法に2016年末から切り替えます。2015年11月からの実証実験で、特定の故障については、その発生を一定の精度で事前に予測できることが確認できたことから、IoT(モノのインターネット)による予防整備に乗り出すわけです。対象の航空機は、米ボーイング製の737-800/767/777/787型機、カナダのボンバルディア製のCRJ200型機、ブラジルのエンブラエル製のE170/E190型機です。

予防保守を担当する整備現場の情報武装も必要

データに基づく故障予測の狙いは、故障が発生する前に予防的に整備を実施することで、機材を原因とした欠航や遅延を防ぐことにあります。予測結果によっては、格納庫で実施する整備計画を変更する必要もあれば、場合によっては、到着から次の出発までに実施する運航整備で緊急対応しなければなりません。一般に定時運行における運航整備に掛けられる時間は、国内線で30分程度、国際線でも2時間程度。この短い時間内に整備できなければ故障予測の効果も半減しかねません。いくらセンサーデータを集め分析できても、その結果に基づく行動が起こさなければ意味はないということです。

そこでJAL/JALエンジニアリングが用意しているのが、整備士のためのモバイルシステムです。整備に必要な各種の最新情報を現場に届けるほか、同じ機体を整備する整備士間の意思疎通も改善する計画です。羽田空港や成田空港などで働く整備士、約1500人を対象に、iPhone/iPadを用意し、2017年4月から実運用に入ります。

従来、整備士は最新情報を入手するためには、各種のシステム端末を操作したり、紙に印刷された情報を回覧したりしなければなりませんでした。確認しなければならないシステムは、整備基幹システムのほかに、フライト情報システム、工具管理システム、作業計画/故障情報サーバー、作業記録サーバーなど多岐にわたります。急な変更なども、無線で連絡したり、書類を現場に届けたりと、整備に取りかかるまでに時間や手間が発生しているのが実状のようです。

新たに導入するiPhone/iPad上では、整備士がその日に担当する整備業務のスケジュールのほか、整備する機体の運航スケジュールや過去の整備記録などが参照できます(図1)。到着時間や到着ゲートなどに変更があれば、アラート機能で通知するほか、同じ機体を整備するメンバーとは、画面上のリストから相手を選ぶだけでビデオ通話が始められますし、整備に取りかかったことや整備が終了したことも、iPhone/iPad上の画面をワンタッチするだけで通知できます。

jal_2
図1:JALが導入するモバイルアプリケーションの画面例(出所:JAL/IBM)

新システムについて、JALエンジニアリングIT企画部の西山 一郎 部長氏は、「少子高齢化を背景に、整備士の確保も今後は現状維持も難しくなってくると考えています。モバイルシステムにより、各種情報の収集や確認という間接的な業務から整備士を開放し、整備業務に専念できるようにしたいと思います。これは整備の効率化に向けた試金石になるでしょう」と話しています。現場からも「急な変更が発生した際には特に効果が得られるのではないでしょうか」と、期待の声が挙がります(写真2)。

jal_3
写真2:新モバイルシステムのiPhoneを手にする整備士の方

ITベンダーとの共同開発により業界標準を目指す

IoTによる故障予測や整備現場に導入する新モバイルシステムのいずれも米IBMとの共同開発で取り組んでいます。特に、モバイルシステムは今後、IBMが世界の航空会社を対象に販売していく予定です。既にフィンランドの航空会社であるFinnAirが導入を決定しているほか、検討中の企業もあるとしています。共同開発を選んだ理由について西山部長は、いくつかのメリットがあると明かします。

1つは、「個別にカスタマイズを要した要件も、製品版の標準機能として提供されるため、システムの開発/導入コストの削減が見込めること」。もう1つは、「業界標準を目指すことで、整備業務のあり方を改めて見直す契機になったこと」です。世界標準として採用されるためには、業務プロセスや参照するデータなどについても、それがJAL固有の要件なのか整備作業に共通なのかから確認する必要があります。モバイルシステムの画面デザインについても同様で、新システムの開発ではJALエンジニアリングの整備士がIBMの米国拠点まで出向き、デザインを固めていきました。

JALでは、故障予測やモバイルシステムのほかにも、整備用資材の存在位置を把握するための仕組みや、スマートグラスのVR(仮想現実)機能を使った教育支援システムの実証実験など、積極的にデジタル技術の導入を模索しています。2010年に経営破綻しましたが、2012年に再上場してからは「新しいことにも積極的にチャレンジする会社に変わってきた」(同社広報)とのこと。今回のモバイルシステムも、直接的な効果である整備業務の効率や品質の向上は、乗客には直接的には見えませんが“安心・安全”という付加価値を支えていることは間違いありません。

執筆者:志度 昌宏(IT Leaders)

EVENTイベント

PARTNERパートナー