オープンイノベーションを阻む4つのカベの乗り越え方、日本での先駆者が経験から提言

2017.07.13
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オープンイノベーションへの取り組みが世界中に広がりつつあります。組織や個人が持つ知識や技術、サービスやノウハウなどを組織やコミュニティの枠を超えて組み合わせながら新たな価値の創出を進めるオープンイノベーションですが、日本ではまだ、組織だった動きというよりも、意欲のある個人の行動によって動いている面が強いようです。こうした状況を打破し、組織的に、より大きな規模でオープンイノベーションを推進するためには、どのようにすればよいのでしょうか。

こうした疑問に答えるためのパネルディスカッションが、東京・有楽町の東京国際フォーラムで2017年5月19日に開かれました。『オープンイノベーション最前線−共創を実践するための手法・組織・働き方』と題されたパネルディスカッションに登壇したのは、日本のオープンイノベーションを切り拓いてきた4人。ヤフーで「Yahoo!アカデミア」学長を務める伊藤 羊一 氏、ライフハッカー[日本版]編集長の米田 智彦 氏、村田製作所の新規事業推進部でオープンイノベーション推進チームマネージャーを務める牛尾 隆一 氏、そして富士通のデジタルフロント事業本部長代理の柴崎 辰彦 氏です。進行役は、数々の共創イベントやハッカソンなどを手掛けるフィラメントの角 勝 代表が務めました。

ピコ太郎の『PPAP』はイノベーション

口火を切ったのは、Yahoo!アカデミアの伊藤氏(写真1)。同氏は、大手企業とベンチャー企業が組んで新規事業を考えるアクセラレータープログラムのメンターや、フラワーアレンジメントの通販サイト「Sakaseru」の取締役も務めています。伊藤氏はオープンイノベーションについて、「常に掛け算。何かと何かをつなげていくこと」だとしたうえで、その一例として、タレントのピコ太郎氏による世界的なヒット曲『ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP:Pen-Pineapple-Apple-Pen)』を挙げます。「『Apple』も『Pen』も古いプロダクトだ。その2つを『うーんっ』と言って結合したのが『アッポーペン』というイノベーションになる」と言います。


写真1:ヤフーで「Yahoo!アカデミア」学長を務める伊藤 羊一 氏

良い結合の条件として伊藤氏は、(1)場所、(2)仕組み/仕掛け、(3)人財を挙げます。ヤフーが東京・紀尾井町にある新本社のオフィスに2016年11月に開設したコワーキングスペース「LODGE」が、まさに結合のための条件を満たすための取り組みです。LODGEでは、オープンなコラボレーション空間(場所)に加え、参加者同士の交流を促すコミュニケーターという役職のスタッフを設けています。伊藤氏は、「イノベーティブな活動をしようとコワーキングスペースを訪れても会社に戻れば普通の空間になってしまう。そのため最近は、会社の中に共創のための空間を作る動きが出始めた」と話します。ヤフーがLODGEを作った理由も、ここにあるようです。

付加価値を生み出すには人との出会いが不可欠

次にライフハッカー[日本版]編集長の米田氏が自らの経験を語りました(写真2)。同氏は2011年の1年間、昼間は出版社やカフェ、シェアオフィスなどでフリーランスの編集あるいはライターとして活動し、夜はTwitter上で泊まらせてくれる人を捜して訪れたりゲストハウスに泊まったりという「実験的生活」(米田氏)をしていました。その活動を通して米田氏は「自身は各地の農場を飛び回るミツバチのように、人と人、アイデアと人を受粉させる(=結びつける)役割だと気づいた」として、次のように語ります。


写真2:ライフハッカー[日本版]編集長の米田 智彦 氏

「伝えたいのは『高い付加価値を生み出すためには、人と出会うことが最も手っ取り早い』ということ。人に会わない限りクリエイティブな価値は生まれない。インターネットの時代に、人はなぜシリコンバレーに行くのかと言えば、人と出会えるからに尽きる。20分以内に投資家に会える距離にいることが、開発者や起業家にはとっての条件ということだ」

クローズドな関係の中で徹底的にオープンになる

続く村田製作所の牛尾氏は、いわば大手企業の代表です。新規事業推進部でオープンイノベーション推進チームのマネージャーを務める同氏は、「私がこうした活動をしていなければ、こうしたオープンイノベーションのイベントに当社が呼ばれることはなかっただろう」として話し始めました(写真3)。


写真3:村田製作所 新規事業推進部でオープンイノベーション推進チームマネージャーの牛尾 隆一 氏

村田製作所は2015年5月に「オープンイノベーションセンター」を開設しています。牛尾氏は同社の取り組みについて、次のように説明します。

「当社のセンターは、どちらかと言えばクローズドな仕組みだといえる。『こういう場所ができました。みなさん見に来てください』と言って、いきなり他社とオープンにワイガヤをやるスタイルではない。まずはクローズドな関係を作り、その中で徹底的にオープンにやることでこそ本当の革新ができるのではないかと考えている。『この場所で色々な活動が立ち上がって行くことに注目してください』というスタンスだ」

ただ、そのスタンスでは、「(組める)相手企業を探すのが。とても大変だった」(牛尾氏)とも。それだけに「いきなり2社間でしっかり組むためには、その前に、広く、ゆっくりとつながりを持つための“場”は必要だと」と牛尾氏は話します。

オウンドメディアで全員をイノベーターに

3人による取り組みを受けて、富士通の柴崎氏は、オウンドメディアの役割に言及しました(写真4)。今回の登壇者の中で柴崎氏は唯一、プロパー社員として一社に長く勤めています。


写真4:富士通 デジタルフロント事業本部長代理の柴崎 辰彦 氏

富士通は現在、社内向けに2つ、社外向けに2つのメディアを立ち上げています。社外向けメディアの1つが、『Digital Innovation Lab』です。柴崎氏は、これらメディアの位置付けについて、「富士通にはSE(システムエンジニア)が3万人規模でいる。それだけの人数がいれば“イノベーター”は自然と登場してくるものだ。だが、それ以外の大多数の従業員は、自らはイノベーターにはなれない。そんな彼らをイノベーターに近づけるためにメディアを活用している」と説明します。

一方の社内メディアはオンラインの“共創の場”として活用。同時に富士通は「オフラインの“場”も重視している」と柴崎氏は話します。東京・蒲田にある「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY(プライ)」が、それで、そこでハッカソンなどを開催し、社内外から多くの人材を集め、活発な議論を展開しています。

これら登壇者それぞれの取り組み状況を踏まえ後半は、オープンイノベーションを実践するに当たりイノベーターが直面するであろう4つの“カベ”をテーマに、組織を動かすための“コツ”について議論が交わされました。

ワークスタイルのカベ:とにかく“場”に出て人に会う

ワークススタイルのカベに対し米田氏は、「個人で突破するほうが早い。スタートアップ企業や、スキルの高いフリーランサーなどとイベントやコワーキングスペースで知り合えば良い。とにかく人に会うこと、その場へ行くことから始まる」と断言します。伊藤氏も、「闇雲に“はっ”と思ったら“ぱっ”と出てみるほうが良い。自分の想像を超えるものを組み合わせなければ面白いイノベーションはできない」と指摘します。「課題が分かっているなら、とにかくまず動けば良い」としたのは牛尾氏です。

表現は三者三様ですが、それを米田氏は次のようにまとめました。

「数をこなせば自分が、だんだんと変わり、目的が生まれてくる。すると『こういうアイデアを持った、こういう専門家に会いたい』というように目的が定まってくる。そうなれば最初の段階はクリアです。そして目的の人と出会い、さらに『この人と組めば何が生まれてくるか』まで考えられれば次の段階に進んだことになる。異業種交流会に沢山顔を出すというと嫌な顔をする人もいるが、道筋を見つけるために数をこなすことも大切だ。逆に、それに意味がないことを体感できるくらい数をこなすことが大切だということが分かってくる」

組織・人材のカベ:やりたいことを発信し続ける

経営者がオープンイノベーションが重要だと考えても、実際に誰が、そうしたマインドを持っているかが分からずトップダウンでは進められないケースがあります。逆にボトムアップでも、人や組織を上手く巻き込めないこともあるでしょう。こうした組織や人材のカベをどう乗り越えるのか、何もないところから共創の場を創り出した牛尾氏が、自身の行動を振り返りました。

「社会人大学院のようなところに2008年ごろから通い出し、他社の人たちと話をしたのがきっかけだ。当時は『会社を変えよう』とまでは思わなかったが、企画を書いては提出しまくっていた。ただ、すべてがボツだった。ところが新しく赴任した統括部長がインド人で、彼がオープンイノベーションを課題のひとつに掲げていたため、企画を出し続けていた私が担当に選ばれた。ラッキーだった」

牛尾氏は、企画を出し続けていた結果として社内のイノベーターになりました。ラッキーというよりも、たとえボツばかりでも、やりたいことを提案し続けられるのがイノベーターなのかもしれません。

企画化のカベ:日本にこだわる必要はない

プロジェクトの立て方については、いずれの登壇者も悩ましい部分が多かったようですが、「日本に限定して考える必要はない」という点では共通の意見が出されました。例えば牛尾氏が、「海外の複数のハッカソンを見て回ったが『海外の人と日本人をつなげ、巻き込めたら面白い』と思った。結局『やってみるしかない』が答えだろう」と提言。米田氏は、「海外ではIPO(株式公開)を含めEXIT(株式公開や企業売却による資金回収)で得られる額が大きく、夢の度合いが違う。日本を飛び越え『海外と共創してしまう』という選択肢も大いにある」としました。

事業化のカベ:プロジェクトをどのように軌道に載せる?

オープンイノベーションは、それに取り組めば必ず成功するわけではありません。失敗しない確率をどう高めていくのかが大切です。この点について柴崎氏は、「チームの結成時から様々な困難があるが、できるだけ様々な人材を結集させることで、(1)アイデア創出、(2)情報収集・問題発見、(3)サービスの実装のサイクルを高速に回せる“実験型”の組織を作っている」と自らの取り組みを紹介しました。

また米田氏は、オープンイノベーションの前段階として「部署横断で会社には秘密のプロジェクトを作ってみてはどうか」と提案します。「デザイナーやプログラマー、エンジニア、マーケッター、営業といった人が5~6人集まり、飲みながらでも会議をやってみる。1年もやって、プロジェクトの内容が、ある程度固まってきたら部長などに予算化を打診してみる。行動の実績を作り、空気を醸成していくのが良いのではないだろうか」

最初は小さく、周囲を巻き込んで会社を動かす

多彩な登壇者から様々な観点からの意見が出たパネルディスカンション。最後に司会の角氏が、全体を次のように総括しました(写真5)。


写真5:進行役を務めたフィラメント代表の角 勝 氏

「まず動き、個人がインプットしながら、つながりを作ることで自身がキュレーションができる“目”を作る。そこから諦めずに、ポジティブシンキングによってモチベーションをマネジメントすることが大切だ。プロセスとしては、周囲を巻き込んでから会社を動かす。最初は小さくても、徐々に大きな動きに変えることが重要だろう。やる気がとても大きい個人を会社は認めざるを得ないはずだ。各社とも、新規事業の案は色々出されているだろうが、結局は、やる気が感じられる案しか通らない。少なくとも、熱意があることは通じていく」

オープンイノベーションではスピードが強調されることも少なくありません。ですが先行者は、単に拙速にやるよりも、じっくりと共感者を増やしていくことの大切さを知っているようです。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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