日本流イノベーションの起こし方~米シリコンバレー、スタートアップ、大企業に身を置く4人が徹底議論~

2016.06.28
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イノベーションへの期待や、その必要性が各所で指摘されていますが、その例の多くが欧米発であり、日本の文化や慣習などから見れば、「日本ではイノベーションと呼べるだけの取り組みは難しい」と感じがちなのも事実でしょう。しかしイノベーションなしには済まないこともまた間違いありません。ではどうすればいいのでしょうか?こんな疑問に答えようとするパネルディスカッションが5月20日に開かれ、シリコンバレー在住者やスタートアップの経営者、大企業のリーダーが日本で可能な、つまり日本流のイノベーションの起こし方を語り合いました(写真1)。

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写真1:日本流のイノベーションを議論したパネルディスカッション

パネリストとして登壇したのは、米シリコンバレーでVC(Venture Capital)事業を展開するNet Service Venturesマネージング・パートナーの校條浩氏、衣料の少量生産を可能にするスタートアップ企業、シタテルの代表取締役である河野秀和氏、オムロンIoT戦略推進プロジェクトリーダの竹林一氏、そして富士通のグローバルサービスインテグレーション部門戦略企画統括部 統括部長の柴崎辰彦氏です。モデレーターはインプレス IT Leaders編集主幹の田口潤氏が務めました。

外に出て情報を集めることが第一歩――Net Service Ventures・校條浩氏

パネルではまずパネリストのそれぞれが、イノベーションを実現するには何が大事だと考えるのか、あるいはどう取り組んでいるのかを紹介しました。口火を切ったのは米シリコンバレーに拠点を置く校條氏(写真2)。元々は小西六写真工業(現コニカミノルタ)のエンジニアでしたが、1991年にシリコンバレーに移住。現在は主にVC事業と展開し、アメリカのベンチャー企業への投資を後押ししています。シリコンバレーに移住したきっかけは、入社3年目1981年にソニーが発売したデジカメ「マビカ」。「銀塩写真フィルムが消え、デジタルに置き換わることを確信した」と言います。事実、その後、校條氏が想定した通りのことが起こりました。

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写真2:米シリコンバレーでVC(Venture Capital)事業を展開するNet Service Venturesマネージング・パートナーの校條浩氏

その校條氏が勧めるイノベーションのための第一歩は「外に出る」こと。転職に限らず、「一番いいのは社外に出てみることだが、社内でも他の部署に異動したり、外部から人を受け入れたりすることも第一歩としてはいい。自分自身の意識を“外”に持ち、外からの視点で見直すことがとても大切です」と語ります。なぜなら「既存事業の責任者や推進者には、その事業の成長がどこで衰退するか予想できない。事業への愛着が冷静な目を奪うわけです。一方、中にいてイノベーションを起こそうとしても周囲が見えないので、上手くいきません」。外部の視点を持つことでこうした問題をなくせるといいます。

そのうえで校條氏は、「日本人が誇る“良識”を忘れることも大事です」と指摘します。「イノベーションの本質は「思考停止を誘発するブランド意識を捨てること。有名人、上司やマスコミの言葉をそのまま信じるのではなく、自分の頭で考えることが出発点」(同)。いずれも簡単なことに思えますが、実践は容易ではありません。だからこそイノベーションは難しいのですが、「ぜひ取り組んでいただきたいと思います」と校條氏は強調しました。

その世界感(ビッグピクチャー)を描けるか――シタテル・河野氏

シタテルは、縫製事業のクラウドソーシングサービス「sitateru」を運営するスタートアップ。まだ知名度は低い企業ですが、仕事を望む縫製工場と好みの服を作りたい需要家を結びつけるユニークなビジネスでありVCなどから注目を集めています。河野氏自身、「世界の衣料ブランドが常に洋服を作るための工場を探していることがありました」と起業の背景を語ります(写真3)。そこでシタテルでは各地の縫製工場と連携し、各工場が持っている技術とその技量、生産ラインの稼働状況などをネットで見える化。例えば「ジャケットを50着作りたい」という衣料ブランドが適切な工場を見つけ出す仕組みを作っているのです。契約する工場は現在120に上ります。

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写真3:衣料の少量生産を可能にするスタートアップ、シタテルの代表取締役である河野秀和氏

新規ビジネスを創出した点で河野氏はまさしくイノベータですが、ここに至るまでの道のりは平坦ではなく、当初は誰にも相手にされなかったとのこと。しかし国内のベンチャーイベントで優秀賞を受賞したのがきっかけになり、2013年5月には「経済産業省・新事業創出支援・第1回案件」として採択。さらに同年6月にシリコンバレーで開催されたベンチャープログラムに日本のベンチャー代表として参加し、そこでの指摘を参考にサービス内容を再調整して事業化を図りました。現在は「シリーズAの投資ラウンドにたどり着いたところ」と話します。

スタートアップで大事なことは何か?自身の経験から河野氏は、「Think&Actionです」と表現します。考えながら動くことをいかに短時間で繰り返し出来るかが重要になってきます。そのためには「パッションが欠かせません。つまりThink&Acution&Passionがあれば場所に関係なく十分世界にむけてチャレンジできます」と語ります。縫製工場に着目した時点でシタテルのビジネスモデルは優れているとしても、それだけでは十分ではない。技術の継承と同時にテクノロジーを取り入れてプロセスを改革しなければ勝ち残れないということです。

「起承転結人材」のバランスが重要――オムロン・竹林氏

日本の大企業の中でイノベーティブなことをする場合はどうでしょうか。「新しい社会システムを作りたいとの思いでオムロンに入社した」と語る竹林氏は、「イノベーションとは新しい顧客価値を創造すること(写真4)。従って価値創造を産み出す仕組みを作ることが大切になる」と語ります。そう語るだけの実績が同氏にはあります。子会社の経営立て直しや、NTTドコモと合弁で作ったヘルスケア関連企業を軌道に乗せたこと、などです。

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写真4:オムロンIoT戦略推進プロジェクトリーダの竹林一氏

例えばオムロンは自動改札機の大手メーカーですが、改札機自体がイノベーションの歴史。従来の紙の切符を通す自動改札機は高価なメカニズムの塊で売り上げも上がりましたが、現在のスイカに代表される非接触のカード型になるとソフトウェアの塊。メカニズムの部分もなく壊れないので、そうそう売り上げが伸びないジレンマに陥ります。まさしく有名なイノベーションのジレンマですが、それを乗り越える旗振り役としても、同氏は活躍してきました。

そうした自身の経験を話しながら竹林氏は、「価値創造を起こす仕組みに欠かせないことの一つに、『起承転結人材』があります」と話しました。起承転結人材とは耳慣れない言葉ですが、こう説明します。「0から1を産む人が起、承は1を10にする人、転はそれをレビューし、そして実際の事業として成果が出るまで実行し続けるのが結の人です」。重要なのは1人で起承転結の役割を果たすのは難しいこと。日本のベンチャーが陥りがちな罠です。しかし、どんな企業にも、新しいことを考える起の人はいます。「起の人は内部の人から見ると単に遊んでいるようにしか見られないので誤解されがち。彼/彼女らの発想を事業構造にデザインし「転」につなげられる「承」の人材、事業計画を徹底的に精査し投資を決定する「転」の人材、そして我慢強くやり続ける「結」の人材、この連携こそが新しいものを産む原点」と指摘します。

「では竹林氏は何の人ですか」。司会役の田口氏の問いに対し、「起の人だとみられがちだけど、実際には承の人です」と回答しました。アイデアを形にする人材だというわけです。会場の参加者も、この話には深く頷いていました。もう一つ、「経営トップや上司との関係も大事」と竹林氏は付け加えます。「実績を上げ信頼されること。あいつなら任せていいと思ってもらうまでになれればベストです」(竹林氏)。

自前主義から決別――富士通・柴崎氏

一方、2016年5月に、顧客と一体になったパートナーとしてビジネスやシステムを構築する「共創型サービスモデル」を打ち出した富士通。顧客の言う通りにシステムを構築する受託開発を主力としている同社にとっては、共創という考え方はイノベーションと呼べる取り組みです。そんな共創型のビジネスモデル推進の旗振り役が柴崎氏(写真5)。「急速に変化する環境の中では1社でできることは限られています。ですから、すべてを自分でやる自前主義からの決別が重要。共創は簡単ではないけれど、やる価値があります」と断言します。

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写真5:富士通のグローバルサービスインテグレーション部門ビジネスマネジメント本部戦略企画統括部 統括部長の柴崎辰彦氏

そんな柴崎氏も、以前は社内の仕事をしっかりこなす大企業の一員でした。ある時、「とにかく外に出て、業界人をはじめ、メディアやアナリストなどと積極的に会う機会を増やすようにした」と振り返ります。そうする中で、人と人とをつなげる“コネクター”的な役割を果たせるのが自身の強みだと確信。その力で社内にイノベーションを起こしてやろうと考えたと言います。

社内でのイノベーションを加速するために欠かせないのが、「社員をイノベータに近づける仕組みづくり」(柴崎氏)。そこで取材や執筆に富士通の社員が関わる『あしたのコミュニティーラボ』、『Digital Innovation Lab』というオウンドメディアを立ち上げたり、ソーシャルイノベーションのためのハッカソンやデジタルテクノロジーを活用するアイデアソンを積極的に開催してきました。さらに共創の場とするべく「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY」という施設も社内に作り、顧客やステークホルダーとアイデアを出し合ったり開発したりできるようにもしました。

起承転結人材を認める組織になる必要がある

パネリストの取り組みを受けて、田口氏が改めて問いかけたのがイノベーションのための人材像です(写真6)。「起承転結人材」という概念を提示した竹林氏は、同概念をサッカーチームに例えてさらに解説しました。

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写真6:モデレーターを務めたインプレス IT Leaders編集主幹の田口潤氏

「ゴールを決めるには、起点となる人が必要です。元フランス代表のミッドフィルダー、クロード・マケレレ氏はまさに起をつくる人物。こぼれ球をカットして前に出すのがうまい。企業の人材で言い換えると、お客さまのニーズを最初に持ってくる人です。しかし、先に説明したように、遊んでいるようにしか見えない起や承の人材ばかりでは会社はうまく回らない。転の人材がリスクを管理し、儲けが出るまでやり続ける結の人材も不可欠です。だから起承転結人材なのです」。

これ受けて校條氏は、日本のスタートアップの成長スピードが遅い理由として、「創業者一人が起承転結人材のすべてを担うことが多い」ことを挙げます。「米グーグルを大きくしたのは2人の創業者ではなく、外から来たエリック・シュミット氏。米通信機器大手のシスコシステムズでも、成長の段階ごとにCEO(最高経営責任者)が交代してきました。やはり成長段階ごとに必要な人材を外から招き入れることが大事」と指摘します。河野氏も「当社は私が一人でやっていましたが、だんだんと各セクションに起承転結人材が育ってくることで事業の拡大が可能になってきています」と多様な人材の必要性を認めました。

こうした流れの中でモデレーターの田口氏は「起や承の人材の行動特定として、普段から外に出ることが大事という指摘があった。しかし日本企業では会社に居ることが大事だとする傾向がまだ強く、なかなか難しいがどうすればいいか」と問い掛けました。これに対して柴崎氏は、「私自身はラッキーなことに、所属部署にオープンな考え方を持つ人が多く、外に出ることへの抵抗はありませんでした。そもそも『外に出ないとまずい』という危機感と『社会に貢献するサービスを生み出したい』という意識が強かったため、自分自身も障壁を感じなかったのかもしれません」と答えました。

「外に出ること」をストレートに提言した校條氏は、「自動車メーカーであれば今、気にすべき競争と協調の相手は、例えば配車サービスを手がける米Uber Technologiesといった車を不要にしている会社。一見、競合とは異なるところを見ることが大事です。社内にいては、そうしたことに気づけません。機会を見つけ、作って外に出かけるべきです」と指摘します(その後、トヨタがUberに出資する、とのニュースが駆け巡りました)。竹林氏も「外に出て人に会うことが大事なのはいうまでもありませんし、自分のためにもそうすべきです。注意点は単に大勢の人に会えばいいわけではないこと。良質なネットワークを構築することに気を配りましょう」と呼応しました。

個人として外に飛び出す動きが先か、そうした個人を認めるチームや組織であることが先か、“ニワトリと卵”的な側面は残りますが、これまでの活動範囲や常識を疑ってみる必要があることは確か。こうした点が「イノベーションはテクノロジーの問題ではなく、企業文化との戦い」と言われる理由なのかもしれません。確かなことは、ニワトリと卵のいずれもが人に起因すること。日本でもハッカソンなどに取り組む企業が増え、参加する人も増えています。それは企業文化を乗り越えようとする人が増えていることの証かもしれません。

執筆者:中村 仁美
撮影:坂野 則幸

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