配車アプリで伸びる日本交通、「勘と経験と根性」からデータに基づくタクシー営業へ

2018.03.15
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海外のタクシー業界は米国の「Uber」などの登場でビジネスモデルが最も揺らいでいる業界の1つです。そんな業界にあって日本で最も利用されているタクシー配車アプリが、日本交通の子会社Japan Taxi(ジャパンタクシー)が提供する「全国タクシー」。全国47都道府県、5万4000台を超えるタクシーの配車を依頼できます。当然、アプリを介して多くのデータも集まっています。そのデータを日本交通はどのように活用しているのでしょうか。

かつては「3K(勘と経験と根性)」の営業スタイルだった

日本交通におけるデータ活用について、同社の無線センター長 兼 経営企画部長の濱 暢宏(のぶひろ)氏が講演しました(写真1)。2018年3月7日に東京・目黒で開かれた「データマネジメント2018」(主催:日本データマネジメント・コンソーシアム)でのことです。「タクシー配車で見えてきた需給を最大化するデータ活用術」と題された同氏の講演から、日本交通におけるデータマネジメントへの取り組みを紹介します。


写真1:日本交通のデータ活用について話す無線センター長 兼 経営企画部長の濱 暢宏(のぶひろ)氏

公共交通機関は料金も安く便利ですが、なかでもタクシーは、電車やバスとは異なり、今いる場所から目的地までピンポイントで移動できるという利便性があります。しかし濱氏は「そもそもは、データマネジメントなどなくてもどうにかなる業界だった」と打ち明けます。タクシー業界では営業免許がエリア単位に割り当てられるからです。日本交通も営業できる範囲は、東京23区と、いくつかの周辺市だけです。

加えて、一事業者あたりのタクシー車両の平均保有台数は30台程度。ここ数年シェアトップを維持する日本交通ですら、保有台数で見れば全体の4%ほどにすぎません。免許により営業できるエリアが分けられているため、車両台数も増やせばよいというわけでもありません。結果、「勘・経験・根性という生身の人間の努力や感覚で営業が続けられた」(同)というのです。

GPSの普及が無線による配車のスタイルを変えた

タクシー業界の営業には次の3つのスタイルがあります。

(1)流し営業=道路を走りながら乗客を見つける
(2)乗り場営業=ホテルや病院などで乗客を待つ
(3)無線営業=無線で配車指示を受けて現地へ赴く

これらのうちデジタル化によって最も変化しているのが無線営業です。今ではスマートフォン用アプリ使っての予約が主流になり、呼び方も「配車サービス」に変わっています。

一昔前の無線営業は、乗客が電話で無線センターのオペレーターを呼び出し乗りたい場所を告げると、オペレーターが無線を使って依頼場所を一斉配信し、ドライバーが到着予定時間を回答し、最も到着予定が早いタクシーを配車するスタイル。そこでは、オペレーターとドライバーの人間関係や、声の大きいドライバーが優先されるなどの理由で、さまざまな問題が発生していました。

たとえば、「目黒へ」という依頼に対し、目黒から15キロほど離れた池袋にいるドライバーが「5分でいる」と答えてしまい、そのドライバーをオペレーターが配車すると、「5分どころか全然到着しないということが度々起こっていた」(濱氏)のです。

濱氏によれば、当時の営業スタイルは、「電話をどんどん取れ」「とにかく『了解』しろ」「あと1人乗客を乗せるまで帰ってくるな」「5万円以上稼ぐまで帰ってくるな」というもの。ドライバーが嘘をついてでも配車の指定を受けようとしたのも無理はないのかもしれません。

そんな無線配車が配車サービスに変わるきっかけになったのは、GPS(全地球測位システム)の普及によりタクシー車両の位置データが把握できるようになったこと。今から13年前の2005年のことです。無線センターから、どの車両がどこにいるかが分かるようになったことで、客先に到着する時間のブレは少なくなり、配車にかかる時間も短縮されました。

車両に加え乗客の位置データの把握でマッチングの土台ができた

2011年には、乗客がタクシーを待っている場所の位置データも把握できるようになります。米Uberが台頭してきたのも、この頃。複数台のタクシーと複数人の乗客それぞれの位置情報が把握できるようになったことで、タクシーと乗客のマッチングを図るための土台ができたのです。

そこから日本交通は、データマネジメントによって生産性を高める取り組みを本格化させます。濱氏らは、配車希望の電話を受けてから配車が完了するまでの業務プロセスを改めて聞き取り、データと比較しながら、業務プロセスを改善していったのです。

業務プロセスを確認した結果、課題は大きく4つありました。

(1)電話回線が繋がらないケースが多い
(2)忘れ物の問い合わせが多い
(3)朝にタクシーが空いていない
(4)配車要請に応答してくれない乗務員がいる

いずれも実データを調べてみると、それまで感覚的だった“常識”とは大きく異なっていた点です。従来は「夜のほうが乗客は多い」と思い込み、夜間を中心に勤務シフトを組んでいる乗務員が多かったのですが、データは「タクシーがつかまらない状況は朝のほうが、はるかに多い」(濱氏)ことを示していました。

オペレーターが受ける電話でも、は、同じ電話番号で配車予約と忘れ物の問い合わせを受けていたため、配車予約が数分で終わるのに対して忘れ物対応で30分以上かかることも少なくありません。結果、配車のためのオペレーターの時間が奪われていたのです。

2011年から2017年に無線配車数は3倍増に

課題解決に対し日本交通では、通信インフラの改善、勤務シフトの調整、乗務員の機器操作ログによる行動の可視化と、それに基づく指導といった対策を打ちます。配車アプリの普及とオペレーションの再構築により、無線による配車数は「2011年から2017年にかけて3倍にまで増えた」(濱氏)といいます。

そんな濱氏が、「タクシー業界以外でも応用が利くであろう生産性改善の項目」として挙げるのが以下の8項目です。

(1)解決すべき課題を言語化する
(2)業務プロセスを検証可能な最小単位に因数分解する
(3)異常箇所、不正の特定
(4)前提を疑う
(5)原因究明
(6)小さな打ち手から始める
(7)検証情報を共有
(8)全体を変えていく

日本交通では上記の対策は、営業所レベルなど小さな組織から始めました。「夜は稼げる」という“常識”に対しては、データを元に朝中心のシフトを組んでもよいというドライバーから始め、「朝も乗客が沢山いることをドライバーにも実感できるようにした」(濱氏)といいます。

データからは、「どの時間帯に、どの場所で乗客が待っていることが多い」といったことが分かります。これをドライバーとも共有することで営業効率が向上。データが正しかったかどうかの検証情報は、「ドライバー同士の口コミの形でも共有されるようになっていった」(同)のです。

長い歴史を重ねてきた業務プロセスを持つ業界は少なくなくありません。日本交通におけるデータに基づく業務プロセスの改善に向けた取り組みは、多くの業界、多くの会社に参考になりそうです。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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