地域の課題をツーリズムの力で解決、JTBが考える地域の未来

2017.11.21
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少子高齢化による人口減少や都市への一極集中などにより、地域経済の低迷が問題になっています。この地域課題の解決策の1つとして政府が力を入れているのが観光振興。観光といえば、旅行業界大手のジェイティービー(JTB)が思い浮かびますが、同社は今「社会課題や地域課題を解決するためのソリューションモデルに業務領域を拡大している」と言い、2020年に向けて「ツーリズムが創り出す未来型地域」提言しています。どんな地域社会を描いているのでしょうか。

ツーリズムを軸に地域交流事業に注力

JTBの取り組みについて、グループ本社 執行役員 法人事業部長の古野 浩樹 氏の解説を聞く機会がありました(写真1)。千葉・幕張メッセで開かれた「CEATEC JAPAN 2017」における同氏の「“IoT×観光”が地域を変える〜地域の課題解決につながるツーリズムの力〜」という講演が、それです。同講演からJTBの地域活性化策を紹介します。


写真1:地域社会の“未来”について話すJTBグループ本社 執行役員 法人事業部長の古野 浩樹 氏

JTBは、旧ジャパンツーリストビューロー(1945年に日本交通公社に改称)の営業部門が1963年に独立してできた会社です。ジャパンツーリストビューロー自体は1912年、「日本のことを正しく理解してもらうことと外貨の獲得」という国策のために作られました。日本初の旅行代理店となったJTBはその後、自社パッケージの開発など、旅行業に新たなビジネスモデルを持ち込みました。

そのJTBが現在、注力しているのが地域交流事業です。「地域の活性化を図るために、地域の現状把握や課題の抽出、地域内の合意形成をうながし、各種の分析に基づく観光戦略を立案したり、例えば“地域の宝”と呼ばれるような観光コンテンツを創出することで地域をプロモーションする」(古野氏)活動です。

その根底にあるのは、少子高齢化に起因する地域の課題を解決することです。具体的には、「定住人口の減少を地域での交流人口で補う。そのために関係する業種・業界の裾野が広いツーリズム産業に注力し、交流人口を増やし、お金の流れを作り出す」(古野氏)ことを狙います。

定住者減を補う“人流”を生み出すための3つの方法

ではどうやって人流を作り出すのでしょうか。古野氏は、「人流の創出方法は3つある」は言います。第1の方法は、訪日外国人の取り込みです。古野氏によれば、「訪日外国人は滞在期間も長く、曜日に関係なく経済効果をもたらしてくれる。実際、訪日外国人の受け入れと世界の実質GDPには強い相関関係ある」のです。

たとえば、定住人口1人当たりの年間消費金額は125万円ですが、これは訪日外国人の消費金額に換算すると8人分に相当します。これに対し国内旅行者(日帰り)だと80人分が必要です。「日本を訪れた外国人がストレスフリーでお金を使う。それは、日本の理解も進めるし、日本経済にとっても非常に良いことだ」(古野氏)というわけです。

第2の方法は「統合型リゾート(IR)」の実現です。IRは、「外国人を中心としたMICE(ミーティング、インセンティブ、コンベンション、エキシビションなど多くの集客が見込めるビジネスイベント)への人流を生み出し、インフラの整備にもなる」(古野氏)と言います。IRは現在、2025年の実現に向けて議論がなされています。

第3の方法は、「日本版DMO(観光地域作りの舵取り役を担う法人)」を作ること。DMOの役割は(1)多様な事業者の合意形成、(2)KPI達成に向けたデータの収集・分析、(3)事業と戦略の調整/ブランディング」の3つ。「観光により持続的な地域活性化につなげていくことがDMOのミッション」(古野氏)です。

地域のデジタルマーケティング力が足りない

2017年8月時点で、日本国内には157の日本版DMO候補法人があります。2020年までに精査し、世界水準のDMOを作る計画です。ただ古野氏は、「そのためにはマーケティング人材が欠かせない」と指摘します。その理由は、「情報発信による話題の拡散が、マイナス効果をもたらすこともある」(古野氏)からです。

たとえば、これまで注目されていなかった場所が、ある外国人の目に止まったとします。結果、「Instagram」や「Facebook」で情報が拡散され、海外はもちろん、日本でも評判になります。ところが、その場所は公共交通手段がなくアクセスが困難な過疎地です。観光客はみな車を使うしかありませんが、狭い一本道は大渋滞し、目的地にたどり着けません。店舗もないので物産購入にも結びつかず、逆に悪評が広がってしまう可能性があるのです。

いまや観光地と観光客の接点は急激にデジタル化しています。にもかかわらず、「情報発信をはじめ、その後の分析や施策を検討するためのデジタルマーケティング力が、日本の地域には不足している」(古野氏)というわけです。

地域のマーケティング力強化に向けJTBは、ホームページを通じて地域コンテンツを管理・販売する「エリアゲート」を開発しました。オンラインで商品を流通させるだけでなく、購入者の居住地や年代、性別などのデータを取得しています。JTBにすれば「販売手数料収益を得ながら、『こういう年代の人に、こういうものが売れている』と顧客データの分析結果を地域にフィードバックできる」(古野氏)仕組みになります

リアルデータの取得に向け「相乗りタクシー」を実証実験

もう1つ、古野氏が重要だと指摘するのが「旅行者の滞在中のリアルデータ」です。「旅行中に何を買っているのか、どう動いているか」というデータです。そうしたデータを取得し、地域に還元するための仕組みとしてJTBが検討しているのが「相乗りタクシー」です。山陰インバウンド機構の「平成29年度広域周遊ルート形成促進事業」の「宿泊施設での外国人実態調査及び消費拡大のための実証調査」において、「フリー客を対象とした相乗りタクシーによる調査」としてとして実施しています

鳥取県の堺湊港では海外クルーズ船の寄港が増えており、数日間停泊するケースもあります。ただ港から街へ移動するための交通機関がなく、観光客が船から下りてこないという課題がありました。そこでJTBが提案するのが、オンデマンド型の相乗り移送サービスである「AI運行バス」です。

AI運行バスでは、観光客はスマートフォンアプリに行きたい場所と希望する到着時間を入力します。それを受けたSAVは乗車場所に向かいますが、途中で新たな乗車要求が発生すると、走行距離や乗客の予想待ち時間からAI(人工知能)が最適な相乗りできる経路を導き出します(動画1)。古野氏は、「この仕組みなら車の台数を増やすことなく、効率的な移動サービスを実現できる」と言います。

動画1:NTTドコモによる「AI運行バス」の紹介ビデオ(2分16秒)

相乗りの仕組みは、JTBだけでは実現できません。移動の需要予測技術はNTTドコモが、配車アルゴリズムを含むシステムの「SAV(Smat Access Vehicle)」は、公立はこだて未来大学発のベンチャー企業である未来シェアが担当。JTBは、「これらの技術をサービスとして提供する商品化と、サービスを利用する地域との合意形成をそれぞれ支援した」(古野氏)のです。

可能性につながる技術を持つスタートアップ企業に投資

こうした地域創生に向けたビジネスモデルの協業を目的にJTBは、スタートアップ企業への出資もしています。たとえば、介護事業を支援するクラウドサービス「Care-wing」を手がけるロジック、人型ロボットを自身の“分身”として遠隔地から操作し、視覚、聴覚、触覚までを伝える技術を開発しているTXです。

古野氏は、「たとえば、TXの技術が実現すれば、高齢者や身体が不自由な方も、その場所にいながら旅行体験ができるようになる可能性があります。そういった可能性に出資し、JTBの強みを生かしながら、共に社会課題を解決していきたい」と話します。

少子高齢化時代にあって地域の活性化を図るにはデジタルテクノロジーの力を味方につける必要性は、誰も否定しないでしょう。JTBの取り組みは、その一例として参考になりそうです。

執筆者:中村 仁美(ITジャーナリスト)

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