米シリコンバレーの最新事情が示すクラウドコンピューティングの“次”、学習するスキルが重要に

2018.07.24
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オープンイノベーション(共創)やデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが日本でも本格化しようとしています。しかし、その発信源が、まだまだ米シリコンバレーにあることは否定できません。
“GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)”と呼ばれる巨人の存在だけでなく、新たなベンチャー企業の排出も続いています。その発信源では何かが起こっており、現地で働く人々は、どう対応しているのでしょうか。

シリコンバレーの最新事業について、同地で30年以上にわたりIT産業をウォッチしてきた米Just Skill社長の山谷 正己 氏から聞く機会がありました(写真1)。ビジネスリーダーに向けて『シリコンバレー最新事情から見るグローバル最新市況とDX時代に求められるデジタルビジネス人材像』を語ってくれたのです。同氏の講演内容から、シリコンバレーの“今”をお伝えします。


写真1:講演後の質疑に答える米Just Skill社長の山谷 正己 氏

クラウドがビジネスモデルを変えた

主要なIT企業の売上高をみると、2017年のトップはAppleの2292億ドル(約25兆円)で、他を大きく引き離しています(図1)。フォーチュン誌の売上番付では4位です。そこに急速に近づいているのがAmazonです。3位のGoogleも額的にはAppleの半分程度ですが、成長を示すカーブはAmazonのそれと引けを取りません。それに対し、かつての大手IT企業であるIBMやHPなどは減少傾向にあり、Oracleも横ばいがやっとです。


図1:主なIT企業の売上高の推移(出所:米Just Skill)

こうした変化の最大の要因は、「クラウドコンピューティングの台頭にある」と山谷氏は断言します。クラウド関連の調査能力が高く評価されているクラウド管理サービス会社のRight Scaleが、全世界の約1000社を対象に実施した調査によれば、クラウドサービスを利用していない企業は、わずか4%しかありません(図2)。


図2:クラウドコンピューティングの利用状況(出所:米Right Scale)

パブリッククラウドに目を向ければ、同サービスを単独あるいはプライベートクラウドと組み合わせて利用している企業が92%に上ります。多くの企業のビジネス変革を支えているパブリッククラウドの代表格が、Amazonの「AWS(Amazon Web Services)」です。これをMicrosoftの「Microsoft Azure」とGoogleの「Google Cloud Platform」が追い掛けます。

クラウドサービスはこれまで、「IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)」「PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)」「SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)」の3種類に分けて紹介されてきました。それが今では、「DBaaS(データベース・アズ・ア・サービス)」や「AaaS(アナリティクス・アズ・ア・サービス)」など、より高度な機能や用途に焦点を当てたサービスへと変わってきています。

企業の競争優位点は情報処理から知識処理へ

DBaaSやAaaSといった新しいサービスは、それらをまとめて「ITaaS(ITアズ・ア・サービス。読みはアイタース)」とか「XaaS(Xアズ・ア・サービス。同ザース)などと呼ばれています。

ITaaSやXaaSの種類が増えている理由も、クラウドサービス、なかでもSaaSの普及にあります。山谷氏は、「これまで企業は“情報”を処理してきた。生産管理や販売管理、会計管理や顧客管理、人事管理や給与管理などだ。しかし、情報処理の仕組みは、どんどんクラウドサービスとして提供され、各社同じサービスを使うようになったため、そこでの差別化ができなくなっている」と指摘します。

情報処理に代わって次の差別化要因になるのが、BI(ビジネスインテリジェンス)やBA(ビジネスアナリティクス)、あるいは販売予測やアイデア管理などです。つまり「“知識”を処理するためにITを使っていこうというわけだ。これらのサービスを活用できているか遅れているかが競争優位の差になってくる」(山谷氏)というわけです(図3)。


図3:データ分析により企業の競争優位点を生み出す(出所:米Just Skill)

さらに山谷氏は、「企業の情報処理は“過去”のビジネス情報を扱っている。これに対し企業の知識処理は“未来”を先取るためにITを活用する。知識処理の分野に徹底して取り組んでいる日本企業は、まだ少ないのではないか」とも言います。

クラウドコンピューティングからサービスコンピューティングへ

未来を先取る知識処理を可能にしているテクノロジーが、「サーバーレスコンピューティング」です。2011年にIron.ioが開始した、ソフトウェアの機能だけを提供する「FaaS(ファンクション・アズ・ア・サービス)」が起源とされます。2016年には「Amazon Lambda」「Microsoft Azure Functions」「IBM OpenWhisk」などクラウドベンダー大手も、同様のサービスを開始しました。

サーバーレスといっても、物理的なサーバーが不要になるわけではありません。運用を含めて仮想化することで、サーバーの設定や、そこへのソフトウェアの導入など、ソフトウェアが提供する機能を利用するために必要な管理・運用作業を不要にする仕組みです。利用者から見れば、サーバーの存在を意識することがないことから「サーバーレス」と呼ばれます。

山谷氏は、「サーバーをオンプレミスに置くかクラウドを利用するかといった議論は過去のもの。IaaS/PaaSといったクラウドを前提に、その上で動作する各種のサービスをどうマネジメントするかが論点だ。クラウドコンピューティングに次いで“サービスコンピューティング”の時代が始まっている」と強調します。

そしてサービスコンピューティングを前提に生まれているのが「デジタルエコノミーあるいは“X(エックス)エコノミー”」(山谷氏)です。そこには、オンデマンドエコノミーやシェアリングエコノミー、サブスクリプションエコノミーなども含まれます。

デジタルエコノミーの代表例が、配車サービスでタクシー業界を破壊(ディスラプト)したUber Technologiesです。同社のサービス「Uber」はAWS上で稼働していますが、すべてを自社開発しているわけではありません。地図や課金,メッセージング,カスタマセービスなど他社が提供する各種サービスをAPI経由で組み合わせることで破壊的なサービスを実現しているのです。まさに大規模なサーバーレスコンピューティングの一例です。

サービスを作り出すソフトウェアエンジニアが重要に

システムの構築方法がサービスコンピューティング型に変わってくると、「それを作り出す組織のあり方や技術者に求められるスキルも変わってくる」と山谷氏は指摘します。

まず組織としては、よりフラットで、かつ自律的な組織への転換が求められます。その理由を山谷氏は、「サービスコンピューティングによって生み出させる各種サービスは、よりリアルタイム性を求める。そのニーズに応えるためには、サービスを生み出す組織もリアルタイムで意思決定をして行動しなければならないからだ」と説明します。

サービス時代のフラットな組織がマネジメントすべきは、スタッフが持つ知識やアイデアであり、それを生み出す人材です。アイデアのマネジメントにおいては、米国ではすでにアイデアマネジメントの機能をSaaSとして提供する企業が登場し、顧客数を伸ばしています。

さらに人材のマネジメントでは、これまでの組織や仕事内容に属した形での人事管理に代わり、個々人が持つキャリアやスキルに焦点を当てる「タレントマネジメント」の考え方が広がってきています。山谷氏は「ハリウッドの芸能人は、人々を楽しませるスキルを持っているからこそ“タレント”と呼ばれている。IT業界においても、優秀な人材は“ITタレント“として評価し、彼らを組織の力に変えていかなければならない」と強調します。

ITタレントの代表例は、GoogleやYouTube、Airbnbなど破壊的な新サービスを生み出した企業の創業者です。彼らのほとんどが20歳代で起業しています。FacebookやNapsterに至っては19歳での起業です。もっとも、MicrosoftのBill Gates氏は20歳でAppleのSteve Jobs氏は21歳で、Dell/EMC TechnologiesのMichael Dell氏は19歳で、それぞれ起業しており、若さが光るのは現代だけではありません。

スキルを高めるために“常に”学習を

誰もがGates氏やJobs氏などになれるわけではありませんが、組織が成長するためには、そこに属する1人ひとりが成長しなければなりませんし、組織としてもそれを期待しています。でなければ、タレントマネジメントの発想は生まれてこないでしょう。

その意味でこれからの企業システムは「タレントマネジメントがすべての中心になる。その周囲に、リソース管理やアイデア管理、CRM(顧客関係管理)や会計管理、プロジェクト管理などが配置されるようになる」と山谷氏は言います(図4)。


図4:これからの企業システムは「タレントマネジメントが中心になる(出所:米Just Skill)

さらに山谷氏は、「組織の成長力となる人は、学習しなければ成長しない。タレントとして活躍し続けるためには、継続的な学習が不可欠であり、そのための投資と時間管理が必要になる」と強調します。

必要なスキルの1つに山谷氏が挙げるのが「統計」。「これからのビジネスは『数学×ソフトウェア』で成り立っていく。予測と意思決定を支援するためにデータを活用する『データドリブン』になるなかでは、統計のスキルが重要になる」からです。ただ、統計学を究めるという意味ではなく、「どういう場面で、どう分析すれば良いかを判断できる」(同)ことが重要です。

ただ現実には、学習のための時間は、なかなか作れないもの。しかし山谷氏は、「日本では移動中は寝ているかゲームをしているかの姿が目に付くが、今や “m-ラーニング”つまりモバイル学習の時代だ。MOOC(オープンなオンライン講座)など、最新の技術やスキルをいつでもどこでも学習できる環境は整っている。オンライン動画の『YouTube』も最高の教材だ」と、デジタル化が進む中では学習の仕方も変わってきていることを強調します。

学習するためのスキルが重要に

インターネット革命やモバイル革命、AI革命など、ITの進化は次々と革命を起こしてきました。山谷氏は、「次に何が起こるのか予測できない革命期にこそビジネスの好機がある」と言います。

しかし、革命期の成功の条件はITタレントとして成長し続けること。これを山谷氏は「『働かざる者、食うべからず』そして『学ばざる者、働くべからず』だ」と表現します(図5)。これからは「仕事をしながら学び、学びながら仕事をするスタイルが主流になり、そこでは“学習するスキル”が必要になる」(同)というわけです。


図5:仕事をしながら学び、学びながら仕事をするには“学習するスキル”が必要(出所:米Just Skill)

山谷氏は今後について、「ますます競争が激化し、ますます好機が増える」としたうで、エンジニアは「ますます忙しくなる」とみています。IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やマシーンラーニングなどの利用が拡大すればするほど、そうした仕組みを開発・運用するエンジニアの役割も広がります。結果として「エンジニアがいなければ世界は止まってしまう」(同)ことになります。だからこそ、ITタレントが求められ、学び続けることが重要なのです。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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