金融担保はリアルな実績からネット上の価値に、中堅・中小企業の与信を変えた米kabbage

2016.07.21
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企業が成長するための条件は何でしょうか?それはタイムリーな資金調達です。資金があってこそ、企業の資産である人を雇い、モノを仕入れられるのです。しかし中堅・中小企業にとって、実績や担保を問われる資金調達は容易なことではありません。これに対し米国では、ネット銀行やEC(電子商取引)サイトなどの利用状況やソーシャルメディアでの評判などを与信基準に組み入れる動きが広がっています。

ネット上での企業の振る舞いを基準に取り入れた融資サービスを提供する企業の1社がkabbageというベンチャー企業。ジョージア州アトランタで2008年にスタートした同社は、米大手経済誌の『Forbes』が実施する米国の有望企業100社リストに2年連続で選ばれました。米物流大手のUPSのほか、日本のソフトバンクやリクルートが出資してもいます。

SNSの評判も与信審査に組み入れる

企業融資では、融資を求める企業の信用度に応じて金利が設定されます。その信用度をチェックする行為が与信審査です。与信審査の材料は一般に、売上高や利益といった事業の実績や不動産といった担保の多寡です。ですが、中堅・中小企業にとっては、金融機関が求める実績をなかなか示せないのが実状です。これから事業を起こそうとしているベンチャー企業であれば、なおさらでしょう。実績主義に基づく金融機関の貸し渋りは産業の衰退を招くと日本でも問題視する動きが強まっています。

これに対し、Kabbageが与信審査の材料にしているのは、ネット上に存在している顧客企業のデータです。具体的には、融資を申し込んできた企業の販売や決済、財務に関わるデータと、FacebookやTwitterなどソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の情報です。これらのデータを「OAuth(オーオース)」というプロトコルを採用したシステムで自動的に収集します(動画)。

動画:ネット上での企業価値から与信審査し融資するKabbageのサービス

販売データは、AmazonやeBay、Yahoo!といった種々のECサイトから、決済に関するデータは、PayPalやSquare、Authorize.net、Stripeが提供する決済サービスから、それぞれ得ています。財務に関するデータは、クラウド会計サービスのQuickBooksやXERO、Sageから入手します。

ECサイトでは、融資を待つ企業が提供しているサービスに対する顧客のレビュー情報も得られます。Kabbageはさらに、SNSからも審査中の企業に対する評判を入手しています。ネット上での企業活動や消費者が認める社会的な価値が与信の基準だというわけです(図1)。

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図1:企業のネット上の価値を測るためにKabbageが参照している主なネットサービスの例

与信審査はAIが自動で実行

ネット上の社会的な価値を与信基準にするKabbageの融資サービスは、与信審査にかかる時間が短いという特徴があります。kabbageと一般的な融資業者(Other Lenders)との融資プロセスの違いを表したのが図です。他の融資業者の与信審査が7つのステップからなるのに対し、kabbageのステップは3つ。他社の与信審査が2〜30日かかるのに比べ、kabbageでは、わずか7分としています(図2)。

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図2:AIによる自動化で融資プロセス自体を短縮

ここまでの高速化を実現できているのは、与信プロセスをAI(人工知能)技術を用いて完全に自動化していることもあります。他の業者の場合、与信審査は融資担当スタッフが融資を申し込んできた企業の経営者と直接に会話するなど、与信審査に人手をかけています。ですがkabbageの与信は、自社開発したアルゴリズムに基づく自動実行です。融資の申し込みから与信審査、融資判断までのプロセスに人手を介さない仕組みを作り上げたことで、7分という短い時間での融資実行を可能にしているのです。

ネット上の社会的価値を与信基準にするため、

ネット上での社会的価値を審査基準にしていることもあり、Kabbageの融資対象は主にネットで商品やサービスを提供している中小企業です。そうした企業の多くは、リアルな店舗で商品を売りながら、ECサイトによって新たな商圏を拡大しようとしています。彼らに向けてkabbageが提供する融資枠は10万ドル(約1000万円)までで、返済期間は6〜12カ月。ここから同社が得る収入は融資金額の1.5〜12%になります。

Kabbageの仕組みを利用した個人向け融資サービス「karrot.com」も手がけています。ECサイトの購買実績、SNSでの評判などから個人のネット上での価値も算出できるということでしょう。Karrotの融資枠は3万5000万ドル(約360万円)まで、返済期間は36〜60カ月です。

さらに、kabbage.comの融資サービスをOEM(相手先ブランドによる生産)方式で提供するサービスもあります。例えば、UPSの金融子会社である米UPS Capitaは2015年にkabbageとの提携を発表しています。UPS Capitalは数百万社に及ぶ中小企業に資金を提供していますが、より迅速な資金調達を後押しするために、中小企業がkabbageのシステムを通じてUPS Capitalの融資サービスにアクセスできるようにしています。

ビッグデータという言葉に象徴されるように、ネット上には大量のデータが存在し誕生しています。kabbageは、その大量のデジタル情報を関連づけ、新たな価値を発見することで、従来の金融機関が融資対象と見なしてこなかった企業を顧客にできる事業を創出した好例と言えそうです。こうしたデータ活用のチャンスは、融資事業に限らず、他の事業にも広がっているのではないでしょうか。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)、小林 秀雄(ITジャーナリスト)

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