ここまで来た土木工事の省人化、鹿島建設がデジタルで進める現場改革

2017.05.23
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産業界では人手不足が深刻化しています。建設業界も例外ではありません。加えて少子高齢化を背景にした熟練技術者の減少という課題もあります。東北や九州での復興プロジェクトや首都圏を中心とした再開発プロジェクトなど大規模案件が続く中、人手不足と熟練技術者の減少への対応は喫緊の課題です。その課題解決に向け鹿島建設は、土木工事を自動化する技術の開発を推し進めています。現状、どこまで自動化が進んでいるのでしょうか。

ダンプやブルドーザーが自動で工事

鹿島建設が取り組んでいるのは、これまで作業員が担ってきた建設作業を機械化・自動化することです。同社はそれを「土木現場の“工場化”」と表現しています。機械化・自動化のテコになるのがデジタル技術。既にダムやトンネルの建設工事にデジタル技術を採用した工法を導入し、成果を上げています。

その鹿島が、土木現場の工場化の第1歩に位置づけるのが「A4CSEL(Automated/Autonomous/Advanced/Accelerated Construction System for Safety、Efficiency、and Liability:クワッドアクセル)」と呼ぶ次世代の建設生産システム。A4CSELのコンセプトは「繰り返し作業を機械に任せ、作業計画の立案を人が担うことによって、建設作業の生産性と安全性を飛躍的に向上させる」です(A4CSELの紹介ページ。自動建機の動画あり)。

A4CSELの一環として鹿島はダンプトラックの自動化する技術を開発。大分県の大分川ダムの工事で試験的に活用し、運搬と荷下ろし作業を自動で行うことに成功したと2017年1月に発表しました。このダンプトラックは、コマツ製のダンプトラックにGPS(全地球測位システム)と運転制御用のPCを搭載したもの。作業員が操作するタブレットからの指示を受けて、指示された位置まで必要な材料を自動で運搬し、指定の位置に着いたら材料を自動で荷下ろしします。

鹿島は2015年から建機の自動運転技術の開発に取り組んできました。最初に開発したのは、土木現場でコンクリートを整形するための「振動ローラー」という建機の自動運転です。やはり汎用製品にGPSとジャイロ、レーザースキャナーなどの計測機器と、制御用PCを搭載。福岡県五ヶ山ダムの建設工事に適用し、自動運転による振動ローラーが熟練者と同等の精度で工事ができることを確認しています。さらにコマツと共同で、ブルドーザーにも自動化のための機器と装置を搭載。同じ五ヶ山ダムの工事で、コンクリートを現場に広げる「撒き出し」という作業に投入し、やはり熟練者と同等の精度で作業できることを確認しました。

今回、大分川ダムの現場では、先に開発していた自動ブルドーザーと自動ダンプトラックが連携して作業を行う仕組みも確認しました。荷下ろし作業を終えた自動ダンプトラックが退出信号を発して工事現場から自動退出すると、その退出信号を受信したブルドーザーが自動的に材料の撒き出しと整形作業を開始します。これにより、工事に使用する材料の運搬から荷下ろし、撒き出し、整形というダムの土木工事における一連の作業が自動化できるというわけです。


図1:「A4CSEL」による自動建機を使ったダム堤体での施工イメージ(同社ホームページより)

デジタル技術採用でトンネル工事の工期短縮も

鹿島は山岳を開削して道路を造成するトンネル工事にもデジタル技術を導入しています。山岳トンネルの工事では、火薬を爆発させて開削する発破掘削という工法が用いられています。この工法のポイントは、火薬を充填する発破孔(はっぱこう)を正確に掘削することにあります。発破孔の位置と角度、深さを計画通りに掘削できないと工程に影響が生じてしまいます。工事の安全を確保するためにも発破孔を高い精度で掘削する必要があります。

発破孔の掘削作業は、「ドリルジャンボ」と呼ばれる掘削機を使用します。その操作は、精度が求められるだけに、経験を積んだ熟練作業員が担当しています。ですが、高齢化に伴い熟練作業員は不足することが懸念されています。近年では、発破孔の位置や角度、深さをガイドするソフトウェアも開発されていますが、実態のない仮想の掘削面に対しグラフィックを用いて掘削機の操作を誘導するため、実際には凸凹がある掘削面とズレが生じるため、あまり普及していないのが現状です。

そこで鹿島が開発したのが、発破孔を高精度で掘削するためのシステム「MOLEs(Mograss Operate with Laser scanning Engine system:モールス)」です。3Dスキャナーとモニター、動画カメラで構成されています(図2)。3Dスキャナーで実際の掘削面の凸凹を座標として把握したうえで、計画した発破孔の位置と角度、深さを正確に算出します。算出結果は、動画カメラが撮影している実際の掘削面に、実際に掘削すべき位置と角度、掘削の長さを示す誘導ラインと誘導マーカーとして重ねて表示されます。オペレーターは、その誘導ラインと誘導マーカーに従って掘削機を操作すればよいのです。


図2:「MOLEs」のシステム構成イメージ(同社プレスリリースより)

鹿島はこのMOLEsを岩手県釜石市にある国道45号のトンネル工事に導入し、高い精度で発破孔を掘削できることを確認しました。導入前と比べて、1回の発破で掘削する長さが25%向上しました。熟練者の減少対策だけでなく、工期の短縮にも効果を発揮しそうです。

ビルの建設現場で溶接ロボットが活躍

さらに鹿島は、ビルの建設現場にもデジタル技術の導入を進めています。都心部では今、2020年に開催される東京オリンピックに向けて高層ビル建設をはじめとする再開発プロジェクトが数多く立ち上がっています。こうした建物の建設に不可欠なのが、柱や梁といった鉄骨を溶接する作業です。溶接は資格をもった溶接技能工しか担当できません。しかし、高度な技能が要求され、資格条件が厳しく人数が限られているのが実状なだけに、大型再開発工事を控え、溶接技能工の不足が懸念されています。

溶接技能工不足を解消するために、鹿島が着目したのが「溶接ロボット」の建設現場への適用です。目を付けたのは、従来、造船や橋梁の工事に用いられてきた可搬型の溶接ロボットでした。建設現場で求められる高精度な溶接ができるかどうかを確認するために、実物大の鉄骨を用意して実証試験を実施。試験結果の検証や熟練溶接技能工の支援を得ながら、新たな手法を確立しました。実際、2016年秋に建築現場で使用したところ、特に外観の仕上がりついては熟練者と同等の結果を得られたとしています(図3)。


図3:溶接ロボットによる施工状況(同社プレスリリースより)

ただ溶接ロボットは産業用ロボットの一種で、全自動ではありません。オペレーターの指示を受けて動きます。そのため同社は、関連会社の鹿島クレスに溶接ロボットを扱うオペレーターの育成するための部門を設置。今後は全国の建築現場で溶接ロボットを使用したい考えです。

労働力不足にデジタルで対応せよ

建設業界の就労人口は、2007年3月の564万人が2017年3月には488万人と、この10年で10%以上も減少しています(総務省調べ)。今後も就労人口の減少が予測されています。加えて、熟練技能者のリタイアにより技能やノウハウが継承できないというリスクにも直面しています。こうした労働力不足と技能継承という課題を解決するには、デジタル技術をテコに作業の自動化・省力化を推し進めることが不可欠です。鹿島建設の取り組みをみれば、「本当にできるのか」といったことが最新技術の組み合わせで実現されてきています。こうした取り組みは、建設業界にとどまらず、すべての産業で求められているのです。

執筆者:大堀 達也(Digital Innovation Lab)、小林 秀雄(ITジャーナリスト)

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