建築業界に“垂直統合モデル”を持ち込んだ米Katerra、設計からデザイン、施行までをワンストップで提供

2018.10.02
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デジタルイノベーションを追い風に、従来にも増してスタートアップ企業などデジタル人材の集積が進む米シリコンバレー。一方で、住宅不足から不動産が高騰し、遠距離通勤による渋滞の悪化や、低所得者層からの不満などを招いています。そんなシリコンバレーで注目されているのが、建設の世界に製造業におけるEMS(電子機器の受託生産サービス)活用モデルを持ち込んだ米Katerra(カテラ)です。どんな建設ビジネスを手がけているのでしょうか。

役割分担進む建築業界は“無駄”が多い?!

米国の建設業界は、2007年に起こったサブプライムローン問題以降、慢性的な人材不足が続いていると言います。加えて、新規の住宅建築には行政の許可が必要なことからため、住宅需要が急増しても供給が間に合わないといった状況も生まれています。また広い国土を前提にした戸建て住宅が中心のため、集合住宅を得意とする建設会社が少ないといった事情もあるようです。

そこにKaterraは“高品質、低価格、短納期”をうたい2015年、木造の集合住宅市場に参入。急速に業績を伸ばすとともに、多額の出資も受けています。2017年には、シャープを買収した鴻海グループのEMS企業フォックスコンが出資。2018年1月にはソフトバンク傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンドが8億6500万ドルを出資しました。それほどの優良成長株ということです(動画1)。

動画1:米Katerraのビジネスモデルを紹介するビデオ(1分29秒)

Katerraの最大の特徴は、設計から内装のデザイン、住宅設備の調達、施工までを“ワンストップ”サービスとして提供すること。「全工程を自社で一元管理することで、手数料や相互連絡といった無駄が省け、結果として安価で高品質な住宅を提供できる」と主張します。

建設の世界では一般に、顧客の最初の接点はハウスメーカーであっても、住建材などは専業メーカーのショールームで選び、実際の施工は別会社が担うなど、複数の会社にまたがって建設が進みます。Katerraからみれば「そこに不必要な時間とコストが発生しており、品質や持続可能性の確保を犠牲にしている」と映るわけです。

創業者兼会長は世界的EMSのCEO経験者

こうした発想の背景には、Katerraの創業者の経歴があります。フォックスコンの出資から想像できるように、同社会長のMichael Marks氏は世界的なEMS企業であるシンガポールのFlextronics InternationalのCEO(最高経営責任者)を13年間務めた人物です。

EMS活用の最大の成功例は米Apple。EMSに製造を委託しながらも、設計とデザイン、そして生産方法や品質までもマネジメントすることで、高品質な製品を自社ブランドで展開し、新たなサービジネスを拡大してきました。こうした仕組みを、まさに裏側から支えてきたのがKaterraの創業者なのです。

現在の同社は社内に、設計士やインテリアデザイナー、土木工学やサプライチェーンの専門家などが在席しています。さらに、モジュール型住居を構成する壁材や、照明、キャビネットなどを生産する工場を自ら立ち上げたり、あるいは買収により傘下に収めたりしています。ただ電子機器業界と異なりEMSのような発注先がないだけに、垂直統合型のビジネスモデルを確立するためには自社工場が必要ということなのでしょう。

2016年3月には、LED照明を設計・開発する上海のDangoo Electronicsを買収し、照明関連の製品の生産を傘下に収めました。2017年は、同社初の外壁パネルなどの生産拠点になる工場を米国のフェニックスに立ち上げます。同工場では、外壁パネルのほか、内装パネルや床材のか、キャビネットやカウンタートップなども生産しています(動画2)。

動画2:Katerraのフェニックス工場の紹介ビデオ(3分32秒)

フェニックス工場には、集合住宅用モジュールのほか、同社が手がけるインテリアデザインが施された内装状況も見学できる「Katerra Design Showroom」が併設されています。現在は、米ワシントン州のスポケーンとカリフォルニア州トレーシーにも新たな工場を建設しています。いずれも最新鋭の自動化設備を投入し、2019年に生産を開始する予定です。

建設デザイン領域に積極的に投資しているのもKaterraの特徴です。2017年12月には、建築デザイン事務所4社とコンソーシアムも設立。2018年春には、コンソーシアムメンバー4社のうち米Michael Green Architecture(MGA)と米Lord Aeck Sargent(LAS)の2社を買収しました。MGAは木造による高層建築手法の推進者でもあります。

設計/デザインと建材、施工を「BIM+ERP」で一元管理

Katerraが木造にこだわるのは、北米での材料入手が容易なためです。工場では、配管や電気の配線までを済ませたモジュールを製造し、施工現場で組み立てます。施工期間を考えれば、工場ですべてを組み立てた方がよさそうですが、輸送中の破損や歪みなどを考慮すれば、コストがかさむうえに品質が低下すると考えています。

これらモジュールの管理にはRFID(ICタグ)が利用され、何がいつ、どこに存在するかをERP(統合基幹業務システム)で管理しています。デザイン部門と製造工場も、「BIM(ビルディングインフォメーションモデリング)」という3D(3次元)設計データでつながっており、このBIMの流通もERPで一元管理します。

デザイン部門が設計するのは、建物だけではありません。Dangoo Electronicsのグループ化が示すように、照明からキッチン、バスルームなども建物に合わせて設計し、BIMデータを介してグローバルに調達するのです。

施工現場でも、RFIDを活用し、手配や施工に関わるミスをなくし、高い品質と短納期を実現しています(動画3)。これらのテクノロジー活用を検討し開発するための拠点となるエンジニアリングセンターを米サンフランシスコとインドのプネに構えています。

動画3:RFID(ICタグ)を使ってすべての建材類をトラッキングする(1分38秒)

ビル建設や海外進出にも乗り出す

勢いに乗るKaterraの事業領域は、木造の集合住宅に留まりません。2017年4月にはリフォーム事業者の米United Renovationsを取り込み、リノベーション事業に参入。さらに2018年6月には、コンクリートを使った建設を手がける米KEF Infraを買収し、ビル建設にも乗り出しました。

長い歴史を持ち、その過程で水平分業という最適化を図ってきた建築業界は、生産する“建物”という特性もあり、すでに完成された世界との印象が強いかもしれません。そんな業界にあっても、他業種のビジネスモデルを適用すれば、まだまだ改善の余地があることをKaterraは証明しています。同様のことは、あらゆる業界で起こる可能性があります。

執筆者:山中 幸博(Digital Innovation Lab)、志度 昌宏(DIGITAL X)

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