農業を科学的なビジネスに、IoTと自動化・無人化で進めるクボタの農業支援策の中身

2017.04.20
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少子高齢化が進む日本で、その影響を大きく受けている産業の1つが農業です。グローバル化の影響もあり「日本の農業は危機に瀕している」とも言われています。そんな農業を支援するために、農業機械メーカーのクボタが、IoTとロボット技術をテコにしたシステムの開発を進めています。どのような仕組みをもって農業を活性化しようというのでしょうか。

大阪市に本社を置くクボタは、農業機械のほか、建設機械や産業用ディーゼルエンジン、水道管や建材などを製造しています。農業機械においては、国内最大手、海外でもトップ3の一角を占めています。そのクボタが今、デジタルの力を借りながら農業分野の課題解決に取り組んでいます。同社の取締役専務執行役員で研究開発本部長を務める飯田聡氏が、「Cloud Days Tokyo 2017」(主催:日経BP社)に2017年3月に登壇し、スマート農業戦略について語りました。


写真1:クボタの取締役専務執行役員で研究開発本部長を務める飯田 聡 氏

耕地管理の負荷軽減と作物の品質の向上がプロの農家のテーマに

飯田氏によれば、日本の農業には今、新しい波が起きています。「プロ農家」の増加です。プロ農家とは、5ヘクタール以上の農地を保有する大規模農家のこと。高齢化などによって農業から手を引く農家が増える一方で、プロ農家が担い手をなくした農地での生産を引き受けるという流れが進んでいるのです。家族による農業から従業員やアルバイトを作業者として雇い会社組織で行う農業への変化です。プロ農家による耕地面積は増加を続けており「全耕地面積に占めるプロ農家の割合は、現在の58%が2020年には80%に高まる」(飯田氏)とみられます。

ただプロ農家も課題を抱えています。特に大きな課題が、管理する耕地の数が増えたことで、それらを管理するための負荷が増大していることです。耕地を次々と受け入れた結果、200枚以上の田んぼを管理しているプロ農家も珍しくありません。そして「管理する田んぼが増えると品質低下の問題が起きる」と飯田氏は指摘します。品質低下は利益の減少に直結するだけに「作業の効率化と品質の向上を同時に追求することがプロ農家のテーマになっている」(同)のです。

プロ農家が抱える課題を解消しようと、クボタはスマート農業システムの実現に取り組んでいます。狙うのは、(1)データの分析・活用を通じて農業を科学的な産業にすることと、(2)農機の自動化・無人化を進め農業の効率化を図ること。まず(1)を実現するために開発しているのが、IoTとクラウドを活用した営農支援システム「クボタスマートアグリシステム(KSAS:Kubota Smart Agriculture System)」です。

データ活用による科学的な農業の実現を支援

KSASが目指すのは「データ活用による精密農業、すなわち儲かるPDCA型農業の支援」(飯田氏)です。例えば、米の食味は、タンパク値と水分値などに左右されますが、タンパク質の含有率が高い米は高値で販売できますし、水分が多い米の乾燥工程を調整すれば乾燥コストの低減が期待できます。「田んぼごとに収量や食味のデータがあれば、食味を持続的に改善できる体制が整えられる」(同)ことになります。今年の施肥量と収穫量を基に、翌年の施肥計画を立て、その結果を見て次年度以降の施肥計画を考えるなど「農業を科学的なものに変えていこう」(同)というわけです。2011年から2013年にかけた2年間のモニターテストでは「収量は15%向上した」(飯田氏)といいます。

その実現に向けクボタは、(a)農作業情報を蓄積・分析する「KSASクラウド」、(b)KSASに対応した農機、(c)現場の作業者が携帯するモバイル機器を開発しています。KSAS対応農機の一例が「食味収量コンバイン」です。米の収量を計測する収量センサーと、タンパク値と水分値を計る食味センサーを搭載し、米を収穫している最中に、収量と食味に関するデータも取得してしまいます。コンバインが収集したデータはWi-Fiを通じて現場作業者のモバイル機器に送られ、そこから作物と農作業に関するデータをKSASクラウドに送ります。今後はKSASの適用範囲を稲作から畑作へと広げていく考えです。

熟練者でなくても“まっすぐ”な田植えが可能に

一方、農機の自動化・無人化では3つのステップで進めています。第1ステップは、人間がハンドルを操作せずに農機が運転できるようになる「オートステアリング」の実現。第2ステップは有人監視による自動化・無人化、第3ステップで完全無人化を目指します。現在は第1ステップとして、GPSを活用したオートステアリングを「Farm Pilot」機能として実現しています。既に製品化を進めており、第1弾として2015年春に畑作向け大型トラクター「M7シリーズ」を欧米で先行して発売(動画1)。2016年秋からは、M7シリーズを国内投入したほか、直進キープ機能付きの田植機「ラクエルEP8D-GS」を発売しました。

動画1:オートステアリング機能を搭載したトラクター「M7シリーズ」の紹介ビデオ

苗を植えるための農機である田植機は、まっすぐ走らせる必要があります。しかし、田植機を直進させるには「運転に集中しなければならず、熟練者でも大きなストレスを感じる」(飯田氏)のだそうです。加えて、田植えの時期は2〜3週間に集中するため、未熟練者も作業に加わらざるを得ません。そこに直進キープ機能付き田植機を導入すれば「初心者でも短期間のトレーニングで熟練者並みの高精度な田植えが行える」(同)というわけです。直進キープ機能は、補正情報利用式中波帯GPSの「D-GPS」と姿勢計測ユニットを組み合わせて田植機を制御します(動画2)。その精度は「100メートルの直進で誤差10センチ以内」(同)と言います。

動画2:自動運転で“まっすぐ”な田植えが可能な田植え機の紹介ビデオ

農機の自動化・無人化に向けて現在、開発を進めているのが「協調作業トラクター」(飯田氏)です。このトラクターは、田畑の外形を記憶させると自分で走行ルートを生成して自動で走行するのが目標です。

AI技術を採用して経営計画の立案を支援

科学的な農業経営に向けた開発を推し進めるクボタですが、スマート農業が普及するには課題もあります。その1つは、「ITに馴染みのない農家が多いこと」(飯田氏)です。これに向けてクボタは「農家のITリテラシーを高める普及活動に取り組む」(同)計画です。また、データの標準化や他社システムとの連携を容易にすることも重要なテーマです。農家は複数のメーカーから農機を購入し使用しているだけに、「農作業記録や農機の稼働データの標準化はスマート農業を実現するため前提条件」(同)になるのです。

クボタは今後、KSASにAIを使って農業の経営計画立案を支援する機能を搭載したり、農機の完全無人運転を実現したりすることで、スマート農業のためのシステムを進化させていく考えです。日本の農業が今後、どう変わっていくのか、それを後押しするテクノロジーは何なのか、そのいずれからも目が離せません。

執筆者:小林 秀雄(ITジャーナリスト)

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