電子政府のエストニアのお隣、ラトビアで活用されるネット請願が成功している理由

2018.01.18
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2018年1月12日と13日、安倍晋三首相が訪れたのが、エストニア、ラトビア、リトアニアの“バルト三国”。サイバーセキュリティーやIT、運輸・物流、医療などをテーマに情報共有を図る「日バルト協力対話」の立ち上げを提案しました。エストニアは電子政府で知られますが、そのお隣のラトビアでは、ネットで国民が国に意見や要望を出せる「ネット請願システム」が利用されています。どんな仕組みで請願ができるのでしょうか。

請願によりタクシー配車に向けた道路交通法改正が成立

ラトビア共和国は、北側にあるエストニアと、南側にあるリトアニアを合わせて“バルト三国”と呼ばれます。バルト海に面し長い海岸線を持つ同国ですが、東側ではロシアとベラルーシそれぞれに国境を接しています。人口は213万人(2017年1月時点)、面積は日本の6分の1ほどです。首都のリガでは、港や鉄道を使った貿易が盛んです。航空便も多く、同地域のハブとして機能しています。

そのラトビアの議会は「セイマ」と呼ばれ、定員100議席の一院制で運営されています。大統領は、議会内の選挙で選び出し、その任期は4年です。議会への請願システムとして、「ManaBalss.lv」が2011年6月から利用されています(動画1)。

動画1:「ManaBalss.lv」の考え方を紹介するビデオ(2分27秒、ラトビア語)

2018年3月1日に施行される道路輸送法の改正にも、ManaBalss.lvでの提案が関与しています。今回の改正点は、一般人によるタクシーサービスを認めるもので、Uberに代表されるモバイルアプリケーションによる配車サービスを提供できるようになります。日本でもなかなか導入が進まない配車サービスですが、ラトビアでも最初の提案は2016年11月23日のこと。当初は、あまり賛同を得られなかったものの、ラトビア自動車協会がサポートを発表してから、道路交通法の改正にまでこぎ着けました。

請願システムの運用ルールを請願システムで審議へ

ネットによる請願システムとは、請願したい内容を登録し、それに賛同する署名を集めるための仕組みです。アメリカ政府が運営する「We the People」(2018年1月下旬までメンテナンス中)や、世界200カ国近くに広がる民間の「Change.org」が良く知られています。

ManaBalss.lvでは、1万人以上の署名が集まれば議会が公式に審議するというルールを確立されています。人口200万のラトビアでの1万人は0.5%程度ですから、日本でいえば約60万人超の署名を集めることになります。

この「1万人以上の署名を集めた請願については、ラトビア議会は公式に審議しなければならない」というルールこそが、ManaBalss.lvを使ったネット請願で最初に成立したものなのです。

20代の若者2人が立ち上げたManaBalss.lvは当初、「オープンオフショア」と「セイマ(議会)をオープンにする」という2点だけを請願しようとしていました。それが、当時のラトビア大統領であるヴァルディス・ザトレルス氏が、支持を表明し広く使うよう働きかけた結果、サイト開設から、わずか1週間後には臨時会合を開き、請願のルールを決めました。

法律の専門家が内容をチェックし実効性を担保

ManaBalss.lvの実用性を高めるための仕組みに、専門家グループが請願に対しアドバイスするということがあります。請願が登録されると24時間以内に、「請願には足りないものは何か」「請願内容をもっと良くするにはどうすれば良いか」といったフィードバックが得られるのです。

フィードバックに沿って修正した請願にはURLが割り当てられるので、請願者は、そのURLをTwitterやFacebookで共有することで署名を集めます。さらに100人分の署名が集まった段階で法律家が請願を再度チェックします。ここで、法的に適切かどうか、憲法に違反していないかどうか、課題に対する解決策になっているかどうかなどが確認されます。

この法律家のチェックをパスした請願だけが最終的に、議会での審議に必要な1万人分の署名を集められるようになります。この6年間にManaBalss.lvに提案された案件数は1247件あり、うち17件がラトビア議会で採択され、12件は議会で否決されました。

採択された内容としては「女性」や「病気」「動物愛護」など、マイノリティー(少数派)に目を向けた提案が多いようです。サイトの閲覧者数も140万人を超え、ラトビア国内だけでなく、イギリスやドイツなど海外からの閲覧も増えています(図1)。


図1:「ManaBalss.lv」の利用状況(ManaBalss.lvのホームページより)

ロシアに隣接するラトビアでは今、ラトビア語系住民とロシア語系住民数が拮抗してきており、国内での言語の問題や、ロシア系移民の処遇、ロシアとの関係などの政治課題もあります。加えて、バルト三国の中でもラトビアは腐敗認識指数が低く、汚職や脱税などによる政治への不満が強い傾向もあります。ManaBalss.lvが立ち上がった背景には、そうした国民一人ひとりが声を上げたいという土壌があったと言えます。

思いや期待を国民と議会が共有できる“場”が重要

スマートフォンの登場以後、様々な形で個人の声を広げようという動きが活発になってきています。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)への投稿でも、セクハラやパワハラなどの被害者が自ら告発する「#MeToo(私も被害にあった)」や、世界食糧デーにちなんで、おにぎりの写真に「#OnigiriAction」をつけるというキャンペーンなどがあります。

ラトビアのネット請願システムの事例をみると、最終的に法律などを改正できることだけでなく、国民一人ひとり常日頃、どういう思いを抱き、どこに問題があると考え、何を変えたいと思っているかなどを世の中に発信し、それを議会も理解するという“場”の存在が非常に重要だと感じます。日本でも、国民一人ひとりの声が伝わる“場”があってこそ、真のデジタル変革が進められるのではないでしょうか。

執筆者:谷村 大佑(Digital Innovation Lab)、高橋ちさ(ジャーナリスト)

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