スタジアムをプロフィットセンターに、デジタル化で来場者に最高の体験を提供

2017.04.06
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スタジアム(競技場)を「試合やイベントを開催する場」から、各種のコンテンツやサービスを通じて「観客に最高の体験を提供する場」に変える−−。デジタルの力を活用しスタジアムを“スマート化”する動きが世界に広がっています。スマートスタジアムとは、どのような場所なのか。今回は、その代表例とされる「Levi’s Stadium(リーバイス・スタジアム)」の取り組みを紹介します。

減少していた来場者数が2年で3倍以上に復活

Levi’s Stadiumは、米カリフォルニア州サンタクララにある競技場です。アメリカンフットボールのプロチーム「サンフランシスコ・フォーティナイナーズ(49ers)」の本拠地として2014年に12億ドルをかけて完成しました(写真1)。座席数は約6万8500人分。165の豪華スイートと9000のクラブ席を持っています。同スタジアムはシリコンバレーの中心部に位置し、「スマートスタジアムといえばLevi’s Stadium」と言われるほどデジタル技術を積極的に採り入れています。スタジアムの公式スポンサーには、米Yahoo!や独SAPといったITベンダーが名を連ねます。


写真1:Levi’s Stadiumの遠景

デジタル化により最初のシーズンからスタジアムの売上高は200万ドル(2億2000万円強)に上ったとしています。食事や飲み物、関連グッズ、駐車場の利用料、広告などによる収入です。下降傾向にあった通信環境の利用者数も回復しています。純粋な利用者数は2013年の8000人から2016年には2万7000人にまで増加。同時期の同時利用者数は5000人から2万人にまで増えました。先の経済効果なども評され、2015年5月にはSports Business Journal誌から「年間スポーツ施設賞」を受賞、翌月にはスペインのバルセロナの「スタジアムビジネスアワード」で「The Venue of Year」も受賞しています。

専用のスマホアプリでチケットを購入、スタジアム内外で各種情報を提供

Levi’s Stadiumにおける顧客の満足度を高めるための手段の1つが専用のスマホアプリです。米VenueNextが開発を担当し、一般には無料で提供しています。同アプリを使えば、チケットの購入はもちろん、スタジアムを訪れる前から、スタジアム内、そして自宅に帰るまで、試合観戦に伴う数々のお役立ち情報を受け取れます(写真2)。利用者の満足度も高いようです。VenueNextによれば、専用アプリ利用者の65%が、このアプリを使ってチケットを購入。年間を通して来場できるシーズンチケットの購入者数は12倍に増えました。


写真2:Levi’s Stadium専用のスマホアプリの画面例(米VenueNextの事例紹介ページより)

まずスタジアム内では、スタジアム内で販売されている軽食などを注文したり、自分の席からトイレまでの距離や待ち時間などを確認したりできます。みなさんは球場などを訪れた際に、こんな経験はないでしょうか。ドリンクなどは座席から購入できたが、食べ物を買うためやトイレのために長蛇の列に並んだ結果、好プレーや決定的瞬間を見逃してしまった。あるいは、混雑する売り場から自分の席に戻るのに一苦労したなどです。こうした不便さが、Levi’s Stadiumの専用アプリを使えば、座席まで食事がデリバリーされたり、自分で取りに行く場合でも、座席からお店までの経路を表示したりしてくれるのです。

こうした機能を使っても、重要なシーンを見逃してしまうかもしれません。そうした時のために専用アプリでは、重要なシーンやプレーを呼び出して再生することも可能です。各種シーンを撮影するためにスタジアムには、ソニーが提供する4Kカメラが6台配置されています。撮影した画像は、専用アプリのほか、スタジアム内に合計で2200枚以上も設置されている液晶ディスプレイ(大きさはHD解像度40インチから4K解像度の85インチまで)にも随時、切り替えて表示されます。さらにLevi’s Stadiumのスコアボードは、アメリカンフットボールのNFLでは最大、世界でも5番目に大きなものになっています。

スタジアムの往復路でも専用アプリが活用できます。例えば、自家用車で行くなら、専用アプリであれば駐車場を予約できます。タクシーなどを利用する場合は配車サービスの「Uber」と連動しており、試合終了後には球場前までタクシーを呼ぶことが可能です。公共交通機関を使うなら、GPS(全地球測位システム)により最寄りのバス停を調べられます。

IP(インターネット・プロトコル)ネットワーク基盤が前提

専用のスマホアプリにこれほどの機能を持たせ、数万人の利用を可能にしているのが、スタジアムに張り巡らせたIP(インターネット・プロトコル)ネットワークです。専用アプリをインストールしていない来場者にしても、観戦中にFacebookやTwitterといったソーシャルメディアに写真や動画を投稿したり、あるは他の人の投稿を見たりといったことは珍しくはありません。それだけの通信量を支えるために、スタジアムには1300基のWi-Fiコントローラーが設置されています。座席の下にも「Picocel」と呼ぶ小型の基地局も備えています。加えて、来場者の場所を把握するための「Beacon」が1200基、設置されています。

このIPインフラが支える通信量は、人気の試合であれば、Wi-Fiと携帯通信を合わせると25テラバイト(TB)にも及びます。2016年のデータでは、Wi-Fi環境の同時利用者は2万人を超え、毎秒3ギガビットの帯域幅を4時間、維持しました。来場者は1人当たり370メガバイト(MB)のデータをやり取りしたことになります。このネットワークは、来場者だけでなく、報道関係者やスタジアムで働くスタッフも利用します。

さらにデジタル化の範囲は、スタジアムスタッフの人事管理にも広がっています。従来の紙ベースの業務処理に代わり、クラウドベースのタレント(人財)マネジメントサービスである独SAPの「SuccessFactors」を導入し、スタジアムオープン時の新規スタッフとして、わずか3カ月で、それまでの125人から1200人以上へと従業員数を拡大しました。先に述べたようにSAPは49ersとパートナーシップを結んでおり、スタジアムの計画だけでなく、選手の練習施設「SAP Performance Facility」も開設しています。

スタジアムの周辺地域の活性化にも寄与

スタジアムの来場者数は、スポーツの種類や試合内容などに影響されますが、テレビ中継やオンライン配信などの浸透にも大きく左右されるようになっています。わざわざスタジアムにまで足を運ばなくても、自宅でゆっくりと寛ぎながらテレビ観戦し、Twitterなどでつぶやけば、あたかもスタジアムで実際に観戦しているかのように楽しめるからです。そうした中でLevi’s Stadiumはデジタル化によって、スタジアム内において自宅以上の観戦体験を提供することで、来場者増に成功しました。

Levi’s Stadiumの例を受けて、スマートスタジアムへの取り組みは世界各地に広がっています。独のアリアンツ・アリーナやスペインのサンディアゴ・ベルナベウ・スタジアムなどです。日本では2016年からNTTグループが、サーカーJリーグの大宮アルディージャの本拠地「NACK5スタジアム大宮」でスマート化を進めています。大宮では、スタジアムのデジタル化だけでなく、周辺地区の店舗の紹介やクーポン提供などにより地域活性化の動きにもつなげようとしています(動画1)。

動画1:NTTグループによるスマートスタジアムへの取り組みの紹介ビデオ

2020年の東京オリンピック/パラリンピック開催に向け、国内ではこれまでにも増してスポーツへの関心が高まっています。文部科学省のスポーツ庁は、スタジアムなどの建設や建て替えなどに対し「これまでの公的資金中心の負担の対象(コストセンター)から、官民協働による収益を生みだす対象(プロフィットセンター)への転換を目指すべきである」としています。デジタル技術の活用により、スタジアムの姿は今後、大きく変化していくことでしょう。

執筆者:山本 貢嗣(Digital Innovation Lab)、高橋ちさ(ジャーナリスト)

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