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製薬会社がスタートアップ支援に本腰、スマホアプリが病気を治す!?

2017.02.14
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少子高齢化を背景に、医療費の高騰が国の財政面で大きな負担になっており、薬価の引き下げや病気を未然に防ぐヘルスケアの重視といった施策が打たれています。そうした中、製薬企業がデジタルテクノロジーに強いスタートアップ企業の支援に力を入れ始めました。その対象は新薬の開発分野だけではありません。製薬会社はスタートアップ支援で何を実現しようとしているのでしょうか。

バイエル薬品のスタートアップ支援策「Grants4Apps Tokyo」

スタートアップ企業の支援に乗り出している企業の1社が、独バイエルグループのバイエル薬品。2016年にスタートアップ支援プログラム「Grants4Apps Tokyo」を開始しました(図1)。バイエル薬品側から医療における課題を提示し、それに対するデジタルテクノロジーを使った解決策をスタートアップ企業から募集。最も優れた提案には助成金として100万円を出す仕組みです。オープンイノベーション(共創)の一環として独バイエルが2013年にスタートしたものですが、今では日本のほか、スペインやイタリア、ロシア、中国・上海、シンガポールの各国でも開催されています。

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図1:「Grants4Apps Tokyo」のホームページの例

バイエルのオープンイノベーション施策には「Grants4Target」という枠組みもあります。こちらは新しい薬を開発するための研究助成が目的で、大学などの研究機関や創薬に関連するベンチャー企業が対象です。Grants4Targetの推進に向けてバイエル薬品は2014年に「オープンイノベーションセンター」を立ち上げています。同センター長の高橋 俊一 氏は、「Grants4Apps Tokyo」を追加することについて「デジタルソリューションを活用した『デジタルヘルス』という新しいアプローチを通じて、患者さんや医療関係者が抱えている様々な課題の解決に取り組む」と、メディアへの取材に答えています。

Grants4Apps Tokyoは2016年12月に「第2回」が開かれたところ。課題は「ベターライフのための革新的なモニタリングソリューション」で、健康情報を患者自身が取得し疾病を管理できる時代における、疾患の早期発見や疾病管理、女性のための「妊活」サポートなどに向けたアイデアを募集しました。大賞を受賞したのは、2016年6月に創業したナノティスの「いつでも、だれでも、チップとアプリでインフルエンザを迅速検診」。唾液や血液などを検査するための「チップ」と呼ぶ専用デバイスとスマホ用アプリを連携し、インフルエンザかどうかを誰もが1分以内で判定できる仕組みです。現状の医療機関でのインフルエンザ検査への疑問が原点にあるとしています。

MSDのスタートアップ企業支援策「ヘルステック」

米製薬大手の日本法人であるMSDは、デジタルヘルス分野のスタートアップ企業を対象にした支援プログラム「ヘルステック」を2016年2月から開始しています(図2)。デジタルテクノロジーを使ったヘルスケア領域のスタートアップ企業に対し、ヘルスケア業界の専門的知識や規制内容、医師や医療機関との接点といったノウハウを提供します。ベンチャーキャピタル(VC)のGlobis Capital Partnersと組んで、資金調達のためのノウハウなども提供するとしています。

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図2:「ヘルステック」のホームページの例

2016年6月からの第1期では、エクスメディオミナカラ認知症総合支援機構の3社を選定し、各社が開発しているソリューションの事業化を支援しています。

エクスメディオが開発するのは、医師同士をつなげる診断支援システムで、専門ではない領域での診断について、専門医に相談できるようにします。現在は、皮膚科と眼科を対象にしたサービスを運営しています。ミナカラは、患者と医師や看護婦をつなぐサービスを開発し提供。身体の悩みや薬について専門家に無料で相談できるものです。処方薬を薬剤師が自宅に届けるサービスも手がけています。認知症総合支援機構は、医師や自治体、薬局などに向けた認知症検査の支援システムを開発しています。

プログラム単体も医療機器と同様の扱いに

バイエル薬品やMSDといった製薬企業が、スマホ用アプリなどを開発しているスタートアップ企業の支援に乗り出している背景には、製薬企業のビジネスモデルが変革期を迎えていることがあります。つまり、少子高齢化に代表される社会の“成熟”に伴い、薬剤費を含めた医療費や福祉のための費用の高騰が国の財政を圧迫し始め、ジェネリック医薬品(後発医薬品)の使用の促進や薬価の引き下げといった各種制度の検討が、製薬企業が得られる売上高にも影響を与えているのです。実際、日本における医療は2000年度から2014年度までの14年間に10兆5000億円も増加しており、その大半は、病院(4兆6000億円増)と調剤薬局(4兆4000億円増)での費用が占めています。

加えて、年代別の人口構成比の変化により、必要とされる薬の分野も変わってきていますし、新薬の開発競争自体がグローバル化や高度化によって厳しさを増しています。そのため製薬業界ではグローバル規模でのM&A(企業の統合・買収)が進展しているほか、経営資源を新薬以外の領域へと分散させる動きが高まっています。デジタルテクノロジーを使った新しい医療の形やヘルスケアサービスは、経営資源の分散先の1つというわけです。

医療機器に関する考え方も大きく変わっています。「医薬品医療機器等法(旧薬事法)」の2014年11月の改正では、病気の治療や診断の補助を目的としたソフトウェアも「医療機器プログラム」として医療機器と同じ扱いを受けるようになりました。従来は、そうしたソフトウェアは、それを組み込んだハードウェアでなければ医療機器とは見なされませんでした。この改正により、認定を受けたソフトウェアであれば、汎用のハードウェア、すなわちPCやスマートフォン上で動作させても良いということになったわけです。

この解釈によれば、私たちがスマートフォンを使って日々の健康情報など入力すれば、そこから病気にならない、あるいは病気を治すために個々人に最適化した行動の仕方や食事内容などの医学的ガイダンスを提供するといった仕組みも、医療機器ということになります。薬剤や、診療場所に設置する従来型の医療機器に代わる「医療アプリ」への期待が高まっているのです。

日本は医療系ベンチャーでは“後進国”

にもかかわらず、日本におけるベンチャー企業の活躍は決して十分とは言えず、医療やヘルスケアの分野になれば、なおさらです。例えば、米国でのヘルスケア関連のスタートアップ企業への投資額は4000億円を超えるのに対し、日本のそれは、およそ40億~50億円程度だとされています。欧米では、オープンイノベーション(共創)への取り組みも早く、イノベーションの牽引役はベンチャー企業であるとの認識も進んでいます。

もっとも日本でも、そうした問題意識は高まっています。厚生労働省が2016年7月に発表した『「医療のイノベーションを担うベンチャー企業の振興に関する懇談会」報告書』は、「医療系ベンチャーをイノベーションの牽引車に!」と題して、医療系ベンチャーを育成するための土壌作りの重要性が指摘しています。

iPS細胞による再生医療やビッグデータを駆使した癌の治療方法の解明といった取り組みも,もちろん重要ですが、健康情報に基づいた患者の生活習慣改善やヘルスケア領域でのアドバイスなど、デジタルテクノロジーが貢献できる領域は決して小さくはありません。製薬企業などによる医療系ベンチャー支援が定着することで、私たちの医療分野における新しい未来が切り拓かれるのかもしれません。

執筆者:瓶子 和幸(Digital Innovation Lab)

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