車からミラー(鏡)が消えていく、安全は“電子の目”が確認

2016.04.15
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普段何気なく見ている自動車ですが、安全を確保するために自動車が備えるべき機能が細かく定められています。道路運送車両法が定める自動車の保安基準です。エンジンやタイヤ、ブレーキに関するものはもちろん、ボディーの形状やヘッドライトの向き、フロントガラスの色などなど、勝手には変えられない部分は少なくありません。

そうしたなか国土交通省が2016年6月を目処に新しい保安基準に改定する作業を進めています。新基準では、車の両サイドやフロントガラスに付いているサイドミラーやバックミラーを、電子ミラーと電子ディスプレイで代用することを認める方向で検討が進んでいます。国際連合の「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」が2015年11月、すべてのミラーを電子ミラーで代用できるように決めており、この流れを受けての対応です。

デジタル家電の展示会CESで電子ミラーなどの展示が増加

毎年1月に米ラスベガスで開かれる展示会「CES(セス)」では近年、自動車関連の展示が増えています。直近のCES 2016では、解禁が間近の電子ミラーや電子ディスプレイの展示が目立ちました。電子ミラーでとらえた映像を電子ディスプレイに表示するのです。

例えば独BMWは、新しい車内のスタイルとして「BMW i Vision Future Interaction」を公開しました(写真1)。ドライバーに対するユーザーインタフェースとして、高精細の自動車用ディスプレイをタッチ操作のほか、ジェスチャーや音声でコントロールします。ディスプレイも、メーターパネル用3Dディスプレイと、21インチのパノラマディスプレイ、さらにドライバーにはヘッドアップディスプレイを搭載します。

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写真1:独BMWのコンセプトカー「BMWi8」が搭載するミラーレスのモニターシステム

これらディスプレイに表示する情報の入力装置の1つが電子ミラー。コンセプトカー「BMW i8 Mirrorless」として展示しました。光学的な鏡を持たないミラーレスのモニターシステムを搭載しています。左右のドアミラーとリアウインドウの上端に小型カメラを搭載、それら3台の小型カメラがとらえた画像を1つに合成し、車内の電子ディスプレイにパノラマ映像として表示する仕組みです(動画1)。

動画1:BMW i8 Mirrorlessのデモ走行

このシステムの特徴は、車両の後方から高速で追い越そうとしているような車が接近してくると、それを察知して電子ディスプレイに黄色く点滅するアイコンでドライバーに知らせる機能を持つこと。光学的なミラーでは死角などの関係からドライバーが気づかない危険の存在を教えてくれるのですから、車の安全性をより高められると期待されています。夕暮れ時や夜間などは、人の視覚ではとらえ切れない対象も検知できることでしょう。

日本企業も電子ミラーの開発に取り組んでいます。例えば、JVCケンウッドは電子ミラーを搭載したデジタルコックピットシステムを英国マクラーレン・オートモーティブ社の高級スポーツカー「McLaren 675LT」に提供し、CES2016で披露しました。こちらも3台のカメラを装備し、広範囲なリアビューを確保することで、ドライバーの死角を減らしています。

電子ミラーの開発は数年前から始まっている

電子ミラーへの取り組みがスタートしたのは最近のことではありません。JVCケンウッドは前年のCESでも、ドライバーの視界確保を支援するための技術を開発し、同じくマクラーレンの「McLaren 650S Spider」に搭載し展示しました。そこでは、運転席の前面に配置したディスプレイを3分割し、それぞれにカメラでとらえた後方の映像を表示しました。2つのサイドミラーと1つのリアミラーで得られた情報をドライバーに違和感なく伝達しようとしたのです。

それ以前にも、米国の電気自動車ベンチャーのテスラモーターズはサイドビューカメラを採用したミラーレスのコンセプトカー「モデルXコンセプト」を2012年に発表。富士通は、車載カメラによってサイドミラーをなくす技術を開発し、2014年の自社イベント「富士通フォーラム」でデモンストレーションを実施しています(動画2)。

動画2:富士通が2014年に実施したミラーレスのデモンストレーション

富士通のデモンストレーションでは、運転席の正面に配置したタブレットの左右にディスプレイを配備。2つのディスプレイにはサイドミラー代わりの車載カメラの映像を映し出しました。車載カメラには魚眼レンズを採用することでドライバーの死角を排除しています。さらに、カメラがとらえた映像を画像処理することによって、車体周辺にあるものを検知する技術も開発しています。

死角の解消から自動運転技術用途に発展

電子ミラーの効用は、上記で説明してきたように、なんといっても死角の解消にあります。しかし電子ミラーの効用はそれにとどまりません。現在、自動車を巡る最もホットなテーマは自動運転でしょう。その自動運転を実現するためには、周囲の状況把握が欠かせません。その情報を収集するためのデバイスが電子ミラーなのです。

電子ミラーで得た情報を自動運転技術に取り込むための研究開発が始まっています。その一例が、デンソーとモルフォの提携です。モルフォは、画像処理技術と、AI(Artificial Intelligence:人工知能)の技法の一つであるディープラーニング技術に強みを持つベンチャー企業(動画3)。両社は、画像認識技術を駆使し、事故が起きる可能性を検知して危険を回避するための技術の確立を狙います。

動画3:モルフォが持つ技術の紹介ビデオ

車の自動運転に関しては既に、進行方向に対しては人身事故や衝突を回避したり、車線の維持や変更をコントロールしたりする技術が開発され、実用化をむかえつつあります。ですがデンソーらは電子ミラーを活用して後方からの危険をも検知して事故を防ぐシステムを開発しようとしているのです。

リアビューカメラは常識に?! 米では2018年以降は義務化

サイドミラーが消えることには驚きがあるかもしれませんが、既に小型カメラは我々の目の代わりに自動車への搭載が始まっています。バックモニターカメラあるいはリアビューカメラです。当初は大型のバスやトラックの後方確認のための単なるカメラでしたが、日本では今では軽自動車をはじめ多数の自動車に搭載され、バックしたり駐車したりする際に進行方向をガイドする仕組みも特段に珍しくなくなっています。

リアビューカメラについては日本は先進国のようで、米国では2018年以降、新型車には1つ以上のリアビューカメラを搭載することが義務づけられます。そのための法律が2014年に「Kids and Transportation Safety Act」(KT法)として成立しています。

電子ミラーが登場しても当面は、鏡とカメラが併用されそうですが、ドライバーが慣れてくれば完全ミラーレス車が主流を占めるでしょう。電子ミラー化によりサイドミラーが消えていけば、デザインの自由度が高まり車の外観も変わっていくでしょう。ですがそれ以上に、電子ミラーと電子ディスプレイというデジタル技術は、運転支援や自動走行など車の走り方や利用の仕方そのものを大きく変える要素の1つになりそうです。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)、小林 秀雄(ITジャーナリスト)

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