「金型業界のAmazon」と呼ばれるミスミ、特注部品の見積もり/納期回答を30秒にまで短縮

2016.09.27
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マスプロダクション(大量生産)からマスカスタマイゼーション(個別大量生産)への転換が始まっています。個別仕様の製品を短納期で生産するマスカスタマイゼーションのカギは、受注から生産に至るプロセスをいかにデジタル化するか。そのパイオニアともいうべき日本企業が、金型部品を生産・販売するミスミです。「次世代ものづくりプラットフォーム」と銘打つオンラインサービス「meviy(メヴィー)」を2016年6月に開始しました。meviyでは、見積価格と納期を約30秒で回答します。

ミスミは、Webカタログを通じて受注した部品を翌日には出荷するという、そのスピードで知られる会社です。その速さから「金型業界のAmazon」と呼ばれています。特注部品を対象に開始したmeviyでは、スピードが、さらに高まりました。価格と納期の回答業務から人の判断や手間を排除し、自動化を図っています(動画)。マスカスタマイゼーションに対応するためにデジタル技術を取り込んだわけです。

動画:「meviy」の概要

3Dデータをアップロードするだけで価格と納期が分かる

まずはmeviyの仕組みを見てみましょう。meviyでの発注は、部品の3Dデータをアップロードするだけで終わりです。従来は、1つの部品を発注するためには、3Dデータのほかに2Dのデータを併せた2つの設計図を用意する必要がありました。部品を製造する際に必要な「寸法公差」と呼ばれる許容精度を示すには、2Dデータ、つまり紙の図面で指示することが一般的だからです。これに対しmeviyでは、公差が指定されていない3D CADデータから寸法公差を自動的に算出します。そのために、3Dデータから形状を認識する技術を独自開発しました。

meviyのもう1つの特徴は、受発注システムが生産システムと連動していること。発注者が発注を確定すると、meviyのCAM(コンピュータ支援による製造)ソフトウエアが3Dデータと形状情報を読み込み、加工プログラムを自動生成します。その加工プログラムは加工機に転送され、発注された部品の加工を開始します。このようにmeviyは、受発注から製造までのプロセスを徹底して自動化することで時間を短縮しています。当初は6種類の金型部品を対象にmeviyをスタートし、順次対象部品を拡大させる計画です。

部品の標準化を図りカタログ販売を実現

meviyは、特注部品を短納期で届けるためのシステムですが、そのべースには標準部品を対象にした「ミスミQCTモデル」があります(図1)。ここでのQCTは「Quality(品質)」「Cost(コスト)」「Time(時間)」の頭文字。Timeを「Delivery」に置き換えた「QCD」とも呼びます。いずれも、高品質な製品を低コスト、短納期で提供するという意味は同じです。このミスミQCTモデルの柱になるのが「商品の標準化」によるカタログ販売です。

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図1:ミスミQCTモデルの概念(出所:『Annual Report 2015』、ミスミ)

従来の金型メーカーは、金型を構成する部品の図面を書き起こし、それを金型部品メーカーに発注していました。全国に散在する中小の金型部品メーカーと、価格や納期を交渉する必要があり、納品に数週間かかるのが一般的だったのです。そこでミスミが採り入れたのが、金型部品の標準化と、その標準部品を掲載したカタログで販売する手法、そして金型部品メーカーのネットワーク化です。金型メーカーはカタログを見てミスミに発注、その部品情報をミスミは部品メーカーに伝達します。そして部品メーカーが金型メーカーに納品するのです。

こうした取り組みにより国内での標準納期は、2015年4月に開始した「MTO(受注製作)」では従来の3日が2日にまで短縮されました。超精密部品が対象で、サイズをミクロン単位で指定できることから、アイテム数は1兆の800億倍に上ります。MTOで2日後出荷を可能にした要因の1つが、同社が無料提供する金型設計支援ソフトウエアの「Mold EX-Press(モールド・エキスプレス)」。ミスミの部品カタログに掲載されている、すべての部品情報と、2D/3DのCADデータを自動生成する機能が搭載されています。

金型の設計では、部品の選定やCADデータの生成、さらには部品表の作成など、設計者は多くの業務をこなさなければなりません。そうした業務を一元的に実行できる環境として作り込んだのがMold EX-Pressです。具体的には、強力な検索機能により部品選定の利便性を高めたり、CADデータと発注用型番を自動生成したりする機能を持たせることで、設計者の負荷を軽減しています。

2日後出荷のもう1つの要因が、生産体制です。ミスミは当初、金型メーカーと部品メーカーの間に立つ商社として事業を展開していました。しかし、2005年に協力メーカーの1社だった駿河精機を経営統合し、自らが生産機能を持ちました。半製品を事前に作っておき短納期を図るという考えです(図2)。現在、同社の生産拠点であるベトナム工場では半製品を大量に生産し在庫しています。それを注文に応じて消費地で最終製品に仕上げ顧客に届けるというわけです。

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図1:ミスミにおける半製品による納期短縮の考え方(出所:『Annual Report 2012』、ミスミ)

顧客の課題をデジタル技術で解決する

実はミスミが、QCTモデルに取り組み始めたのは1977年のこと。以来、同社はQCTモデルに磨きをかけ続けてきたのです。その過程で、Mold EX-Pressなどにより業務プロセスのデジタル化にも取り組んできました。その最新版が、特注部品の見積もりと納期を約30秒で回答するmeviyです。そこには、顧客が抱える課題と真剣に向かい合い、その課題をデジタル技術によって解決しようとする姿勢が見えます。

1940年代、米Fordによりマスプロダクションの時代が幕を開けました。それから70年強を経た今、独政府が産官学の共同で推進する「Industrie 4.0」ではマスカスタマイゼーションがキーワードに挙がっています。ミスミのアプローチはIndustrie 4.0の時代に日本の製造業が実践すべきことの一例を示しているといえます。デジタル技術をどう取り込み、自らのビジネスモデルを変えていくか。それこそが、これからの製造業が持つべき競争力の源泉ではないでしょうか。

執筆者:國井 裕司(Digital Innovation Lab)、小林 秀雄(ITジャーナリスト)

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