自動車メーカーが競って出資・提携するベンチャー企業、モビリティサービスの実現急ぐ

2016.08.16
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大手自動車メーカーがベンチャー企業に出資または提携したというニュースが目立っています。出資先が集中している領域の1つがAI(Artificial Intelligence:人工知能)の分野。こちらは将来の自動運転に向けた動きです。AI以外では、タクシーの配車サービスなど、これからのモビリティ(移動)に関連する企業が中心です。自動車メーカーが投資するベンチャー企業は、どんなモビリティサービスを提供しているのでしょうか。

米、欧州、日本の主要メーカーがベンチャー獲得を競争

大手自動車メーカーによるベンチャー企業への出資や業務提携等が相次いでいます。例えば、米GM(General Motors)は2016年1月、ライドシェア(相乗り)サービスを手がける米Lyftと戦略的提携を結び5億ドルを出資。同時に、カーシェアリングサービスの米Sidecarの資産を買収し、同社から20人の従業員をGMに移籍させました。Sidecarの資産や従業員はGM自身が提供するサービス「Maven」に利用される予定です。米Fordは2015年に、カーシェアリングサービスの米Getaroundなど複数のベンチャー企業と提携しています。

欧州企業の動きも活発です。Volkswagen(VW)グループは2016年5月、イスライル発のライドシェアサービス会社Gettに3億ドルを出資しました。VWグループの独Audiは2016年1月、ライドシェアのSilvercarに2800万ドルを出資。フランスのPSA Peugeot Citroënは2016年4月、フランスのカーシェアリング会社Koolicarを1600万ドルで買収しています。

日本企業では、トヨタ自動車が2016年5月、タクシー配車サービスの米Uber Technologiesに出資し、グループ企業のトヨタファイナンスからUberへリース車両を提供すると発表。ホンダ技研工業は2016年2月、駐車アプリケーションを手がけるParkWhizと提携しています。これらの動きをまとめたのが表1です。

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表1:自動車メーカーが出資/提携するモビリティサービス関連のベンチャー企業

こうして一覧にしてみると、自動車メーカー各社が出資/提携している先は、カーシェア、ライドシェア、駐車サービスといった3つの分野に広がっていることが分かります。そして各分野内では同じベンチャー企業に複数の自動車メーカーが出資することは珍しく、戦略的な動きが見て取れます。つまり、これまで自動車を販売し、その所有者がクルマを運転することを前提にしてきた各社が、様々なクルマの利用形態を前提に“モビリティ(移動)”のためのバリューチェーン確立で競い合っているわけです。

では逆に、大手が競って出資するベンチャー企業は今、どんなサービスを提供しているのでしょうか。分野ごとに代表的なサービスを見てみましょう。

カーシェア分野:メーカー主導からベンチャー連携に

カーシェアリングは、必要な時に料金を支払ってクルマを利用するための仕組みです。これ自体は新しい取り組みではありません。2008年に独Daimlerが開始した「Car2Go」や、レンタカー会社の米Avisグループが2000年に立ち上げた「Zipcar」などが知られています。Car2Goの会員数は2015年時点で100万人を超えています。ただ、いずれもが自動車メーカーやレンタカー会社自身が会社や部署を立ち上げてサービスを提供するスタイルでした。

独BMWも2011年にレンタカー会社のSixtと合弁会社を立ち上げ、カーシェアリングサービス「DriveNow」を提供しています。そのBMWが2016年4月、米シアトルで新たなカーシェアリングサービス「ReachNow」を開始しました(動画1)。ただ今回は、ベンチャー企業の米RideCallと組んでいます。RideCallの仕組みを使ってBMWはサービス範囲を10都市に広げる計画です。

動画1:ReachNowの紹介動画

RideCallは、米アトランタで2009年に起業したベンチャー企業ですが、2011年からはサンフランシスコに拠点を移し、必要な時に利用できる交通システムを実現するためのソフトウェアプラットフォームを開発/提供しています。同プラットフォームを利用することで、必要な時に必要な場所で乗り降りできる公共バスや巡回バスの効率運行などを実現でき、カーシェアリングも実現例の1つです。

米Fordが提携する米Getaroundは、P2P(Peer to Peer:個人間)のマッチングの仕組みをカーシェアリングの世界に持ち込んだベンチャー企業です、個人が所有するクルマを空き時間は他の人に貸し出せるようにします。がその一社。会員が近くに駐車しているクルマをスマホ用アプリで検索して予約すれば、クルマの持ち主と会うこともなく、そのクルマを利用できる仕組みです(動画2)。

動画2:米Getaroundのサービス紹介動画

ライドシェア分野:Uberに続く新たなサービスに期待

ライドシェアは、目的地が同じ人同士が1台のクルマを共有し利用料金の負担を軽減したり、クルマの利用効率を高めたりするための仕組みです。タクシーの相乗りといった形態もありますが、今ではクルマを所有する個人と移動したい個人を直接マッチングする形態が海外では主流になりつつあります。これを一気に広げたのが米Uber Technologiesが提供するライドシェアサービス「Uber」です。タクシー業界に大きな影響を与えたほか、自らは資産(ここではクルマや運転手など)を持たないビジネスモデルとして、昨今のデジタルイノベーションの代名詞にもなっています。

Uberとはトヨタ自動車が提携していますが、GMが550億円を出資したのはUberの競合である米Lyftです。同社にはソフトバンクや楽天といったIT企業も出資しています。ライドシェアの仕組み自体にはUberと大差ありませんが、Lyftは「友人感覚のP2Pライドシェア」とも呼ばれるように、クルマという空間をシェアする運転者と同乗者のコミュニケーションを重視しています。乗客に助手席に座るよう勧めるたり車内で聞きたい音楽を選べたりできるようにしている点などが、その表れです。

同社の最新サービス「Lyft Line」は相乗りサービスそのもので、複数の乗客と複数の目的地を一筆書きで結べるルートとクルマを検索し、乗客をピックアップしていきます(動画3)。そこでも「同乗者との対話を楽しみコミュニティを育てよう」といったメッセージを打ち出しています。

動画3:Lyft Lineの紹介ビデオ

駐車サービス分野:カーオーナーには不可欠なサービス

駐車サービスは、駐車場の場所や料金といった情報提供から利用予約、料金支払い代行などを提供する仕組みです。米Fordのほか独AudiやBMW、トヨタなど複数者が提携するのが英国のParkopedia。2007年にロンドンで創業して以来、世界75カ国6308都市にある3800万以上の駐車場に関する情報を管理しサービスに利用しています(写真1)。

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写真1:Parkopediaでロンドンの駐車場を検索した際の画面例

スマートフォン用アプリも用意され、最寄りの駐車場を検索し料金を比較しながらリアルタイムで予約ができます。クルマの所有者にとって移動先での駐車スペースの確保は頭を悩ます問題の1つだけに、オーナー向けサービスとしては欠かせないものになっているのです。

先進国ではクルマの若者離れや、環境問題による規制の強化など自動車メーカーには多くの課題があります。そこに、所有から利用へといった流れをデジタル化が加速し始めた今、自動車業界も今後は、航空業界において飛行機のメーカーを気にする乗客が限られてきたように、自動車メーカーがどこかを気にする層が減少するかもしれません。そうした時代を視野に、自動車メーカー各社はベンチャー企業と手を組み、新たなサービスの開発に力を入れているのでしょう。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)

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