日銀が考える「FinTechが描く未来」、利便性の対価としてのデータ活用を受け入れられるか?

2017.11.30
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「FinTech(FinanceとTechnologyから作られた造語)」への関心が高まると同時に、大手金融機関の取り組みも本格化しています。その背景には、日本の中央銀行である日本銀行が、FinTechへの取り組みについて一定の方針を提示し始めていることがあります。日銀はFinTechについて、どのような見解を持っているのでしょうか。

グローバルにみれば、FinTechをけん引するのは、スタートアップ企業が中心です。金融以外の業界から、決して大きな後ろ盾を持っているわけでもない企業が、金融分野への参入を目指しています。これに対し日本では、メガバンクなどが主導する新たな金融サービスの開発や市場投入が目立ちます。

メガバンクが一斉にFinTechへの取り組みを強化しているのは、監督官庁である金融庁や日本銀行、あるいはテクノロジーを管轄する経済産業省などが、それぞれの立場でFinTechへの取り組みを加速するための方針を明確にし始めたことで、FinTechによって投入できるサービスの境界が明確になってきたからです。最新の見方を、日銀の決済機構局FinTechセンターのセンター長を務める河合 祐子 氏が、「CEATEC Japan 2017」において2017年10月6日に講演しています(写真1)。同講演から日銀が考えるFinTech像を紹介します。


写真1:日本銀行 決済機構局 FinTechセンター長の河合 祐子 氏

キャッシュレス化で先行する中国では「数週間も現金を見ない」

河合氏は、FinTechと、金融機関における従来のIT活用との違いについて、「情報処理に用いる機器が大きく変わっている。そこに、金融機関以外のプレーヤーが参入してきた。これまでの金融分野におけるITと比べ、バックグラウンドが異なっている」と説明します。具体例として、各種のカード決済や、銀行口座での取引までが集約され自動的に家計簿が作成できる仕組み、余剰資金を自動で積み立てる仕組みなどを挙げます。

特にスマートフォン用のアプリケーションが決済の手段を大きく変えようとしています。割り勘アプリや、メールアドレスさえ分かれば送金できるアプリ、「おサイフケータイ」といった現金を使わない決済手段の広がりなど、「日常生活で発生する取引の多くがスマホアプリだけで決済できるようになってきた」(河合氏)ことは、誰もが実感しているのではないでしょうか。

キャッシュレス化で先行するのが中国です。河合氏は「今の中国では、数週間も現金を目にしないことが決して珍しくない」と語ります。少額の支払いは、QRコードを使ったスマホアプリで、金額が大きくなればクレジットカードで、それぞれ支払っており、「現金での支払いを受け付けない小売店舗も出てきている」(同)と言います。

決済だけでなく、映画館の座席予約やタクシーの予約、自転車のシェアリングなど、中国では、さまざまな用途にスマホアプリが活用されています(図1)。結果、銀行のビジネスモデルにも、大きな変化を迫るようになりました。


図1:中国ではQRコードを使った決済が当たり前になっている(講演資料より) 

サービスの利用履歴が“信用”の尺度に

具体的には、送金時に設定する個人の基本情報や、取引履歴、送金先履歴といったサービス利用時に発生するデータによって、サービスの利用者の行動が評価でき、その評価が金融業務における“信用”の代替尺度になってきたことで、金融機関の存在意義が問われ始めたのです。

従来の銀行は、振込など“お金の流れ”に対し課金する手数料ビジネスを手がけてきました。それが、各種サービスを利用すること自体が、利用者の信用情報になってきたことで、個人に関する行動データを把握した事業者が、お金を貸し出したり、保険など別の金融商品を提供したり、あるいは広告やEコマースによって利益を得るというビジネスモデルを持ち込んでいるわけです。

こうした例を日本で話すと、「『とても便利だ』という半面、『個人情報を渡しすぎて嫌だ』と否定的な見方も強い」(河合氏)のが現状です。こうした個人情報に敏感な日本の実状を踏まえれば、「サイバー周りのセキュリティを考慮する必要がある」と河合氏は指摘します。

FinTechを「金融のため」だけで考えない

サイバーセキュリティを前提に、FinTechの推進するためのポイントとして、「金融だけを特別扱いしないことが重要だ」と河合氏は強調します。すなわち、「金融側がFinTechによる変革を意識すると、テクノロジーの面で大きな変革を考えなければならず、特別で大変なことになる。しかし、テクノロジーを開発し活かす側から考えれば、そこに金融を業務として取り込むことは特別な発想にはならない」(同)という考え方です。

その根底には、「スマホアプリを提供するにしても、顧客にコンタクトする仕組みの基盤になるようにしっかりと構築し、データを一元化していく必要がある」との目的意識があります。基本的な情報を一元管理できなければ、複数の領域にまたがっているお金の流れを追い続けられないからです。

そのうえで河合氏は「ストレスのない金融」を実現しなければならず、そのためには「Big Brotherをどう作るかが課題だ」と指摘します。Big Brotherとは、小説家のジョージ・オーウェル氏が1949年に書いた作品『1984年』に登場する国家の独裁者のこと。データの使い方によっては、国民の動きをすべて把握する存在が誕生することにもなります。

組織から個人までに“視点の切り替え”を求める

「利便性の対価としてのデータの利用」と「手数料モデルから情報利用モデルへのビジネスモデルの切り替え」が必要ではあるものの「データの利用について行きすぎた監視社会にならないように考えつつ、人々の便利を追求していかねばならない」と河合氏は強調します。

FinTechといえば、金融機関だけが取り組むべき対象と考えがちです。ですが、お金は私たちの暮らしを支える社会インフラの1つです。FinTechは、すべての企業や組織、そして個人のそれぞれに対し、“視点の切り替え”を求めているようです。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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