ニトリの連続成長を支える物流機能、ロボットやITも活用し“顧客と対話できる配送”を目指す

2017.05.01
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「お、ねだん以上。ニトリ」のキャッチコピーで知られるニトリ。「似鳥家具店」として1967年に創業して以来、ニトリグループは29期連続で増収増益を続けています。この成長を支えるのが同グループの物流機能であることは余り知られていません。ただ物流は人手不足が顕著な業界の代表例の1つ。これからの成長を支えるためにニトリは今、物流ロボットや各種ITを積極的に導入しています。その先には一体何を見据えているのでしょうか。

ニトリグループの物流機能を一手に担っているのがグループの物流会社、ホームロジスティクスです。ニトリホールディングス上席執行役員である松浦 学 氏が同社の代表取締役社長を務めています。松浦氏は、ニトリが成長し続けられた理由を「創業以来、常に改革をし続けるという文化が浸透してきたから」と話し「今後も、さらなる成長が期待できる」と力を込めます。その松浦氏が東京で2017年3月に開かれた「リテールテックJAPAN 2017」(主催:日本経済新聞社)での物流関連セミナーに登壇し、ニトリグループの物流戦略について語りました(写真1)。


写真1:ニトリホールディングス上席執行役員であり、ホームロジスティクスの代表取締役社長を務める松浦 学 氏

ニトリは“製造小売り物流業”、顧客宅への配送までを自社でカバー

ホームロジスティクスが提供する物流の範囲は、海外の自社工場やサプライヤーから家具などを輸入する国際物流から、各店舗への配送、さらにはニトリの商品を購入してくれた顧客の自宅まで商品を届ける宅配まで。すなわちニトリグループの物流機能の一切です。同社がこれだけの物流機能を抱えるのは「家具店としてスタートしたため。家具は店頭で購入しても、すぐには持ち帰れず、客先まで運ぶのがビジネス。むしろ家具店は物流業者だといっても過言ではない」(松浦氏)のです。

現在のニトリは、インテリア用品や生活雑貨、キッチン用品など、店舗から持ち帰えることができる商品の取り扱いが、売上全体の6割を占めるまでに増えています。例えば「クリスマス関連商品は日本で一番の売り上げ」(松浦氏)だそうです。とはいえニトリにおいても「ニトリネット」によるEコマース事業が年々、伸びているだけに配送機能の重要性は高まる一方です。配送件数は年間610万件に達しており「宅配事業会社に匹敵する量だ」(同)と言います。

しかし物流業を取り巻く現状は厳しさを増しています。高齢化が進むなかで就業者数が減少。そもそもトラックの運転免許の保有率が減っています。松浦氏は「運ぶ力がなくなっている」と指摘します。特に家具の配送は一般に「土・日に配達してほしい」と言われることが多く、休日の配送量は平日の3〜4倍にもなります。「土・日だけ働いてくれる人材の確保も、重労働のイメージが強くなっている」(同)のが実状です。加えてEコマースの進展は「注文に合わせて商品を箱詰めするため煩雑さが増えるほか、受注の大半が作業単価が高い夜間に発生する」(同)という課題も生みました。取扱商品点数が増えれば、倉庫の面積も大きくする必要があります。

顧客に商品を届けられなければニトリのビジネスは成り立ちません。そこで「物流こそが事業の根幹だと改めて定義し、物流改革に取り組んでいる」(松浦氏)のが今のニトリなのです。その改革で「やるべき」と位置付けているのが「顧客宅までの“ラストワンマイル”のサービス」(同)です。顧客の自宅まで家具を運び「設置のために宅内まで上がり込める点を生かし、インテリアなど『ホームファッション』による生活空間の改善を提案する」(同)のが狙いです。

並行して「やりたい」と位置付けるのが「人に優しい職場の実現」(同)。そのためにITの活用や機械化を進め、人がやるべき仕事とそれ以外とを整理し、生産性の向上を図っていきます。重労働のイメージを払拭し必要な人材を確保するためもありますが、ラストワンマイルによる提案活動を実施していくためには、「笑顔でコミュニケーションできる宅配担当者が不可欠」(同)という理由もあります。

国際物流改革で家具は組立型に、物流センターにはロボットを先行導入

ニトリは現在、物流の生産性向上に向け様々な取り組みを進めています。先行させたのは、国際物流の生産性を高めるための積載率の改善です。国際物流の取扱量は2015年に15万TEU(1TEUは20フィートコンテナ1個分相当)が2017年末には17万TEUに増加しています。松浦氏によれば、「完成した家具は空気を運んでいるようなもの。同じ1立方メートル分の商品を運んでも「例えば化粧品だと総売価が1000万円を超えるのに対し、家具では6万4000円にしかならない」(松浦氏)のが実状。そこでニトリは家具の設計から見直し、組立型にすることで積載率を向上。小容量の商品については、ベトナムの物流センターに集約して混載する方法に切り替えました。これらより「コンテナ積載率は94%にまで高まり、輸送コストが削減できた」(同)のです。

次に取り組んでいるのが国内物流センターの改善です。「倉庫での作業は人がやるべき作業ではない」(松浦氏)と位置づけ、物流ロボットによる機械化を進めています。まず、川崎市にある物流センターに自動倉庫型ピッキングシステム「AutoStore」(ノルウェーのAutoStore製)を2016年1月に導入。同物流センターは、Eコマース事業「ニトリネット」で販売した商品の発送業務を担っており、商品を保管した専用コンテナをロボットが出したりいれたりする仕組みです(動画1)。

動画1:川崎市の物流センターに導入した「AutoStore」の紹介ビデオ

AutoStoreの導入により、「担当者が1日に2万歩ほど歩き回っていたピッキング業務がなくなったほか、倉庫内のレイアウトを考えることも不要になった。結果、収納面積を従来の約半分に圧縮できた」(松浦氏)のです。出荷効率は、「導入当初は3.75倍だったが、さらにロボットが担う部分の前後作業を見直した結果、5.25倍にまで高まった」(同)と言います。さらに人の移動がなくなったことで、物流センター内の空調も「全館ではなく、人が作業しているエリアだけにすることで、CO2および電気代も削減できた」(同)のです。同センターの仕組みは2016年度グッドデザイン賞を受賞しています。

さらに大阪にある西日本通販発送センターには、無人搬送ロボット「Butler」(インドのGreyOrange製)を2017年10月にも導入する予定です。Butlerもピッキングを担うロボットですが、AutoStoreとは異なり、商品を入れたコンテナを収納する棚そのものを移動させるためのロボットです(動画2)。例えば保管効率は「Auto Storeの6割に対しButlerは8割にまで高まるほか、『こういう組み合わせで売れることが多い』など商品の関連性を考慮して棚の配置を決められる点にも期待している」と、松浦氏は採用理由を話します。

動画2:ニトリが大阪の物流センターに導入する「Butler」の紹介ビデオ

Auto StoreもButlerもニトリが日本ではファーストユーザー。「3年後、名古屋などに開設する大型センターのための研究」(松浦氏)との位置付けです。両センターで複数のロボットなどを導入し実際の運用ノウハウを得ることで「ITベンダーや機械メーカーなどに物申せるユーザーになる」(同)のが目的です。松浦氏は、「中国企業などは改革への取り組みスピードが異なる。拠点別に導入する仕組みを変えベンダーを競わせることも珍しくない。日本企業は『まだいける』と思っているようだが、その認識は甘い」とも指摘します。

配送スタッフは、ただモノを運ぶ人ではない

物流ロボットのほかにも、「ルートプランナー」と呼ぶ配送計画システムを改良したり、「2017年度には、ビッグデータやAI(人工知能)を活用し、顧客に最適なレコメンドができるコンタクトセンターの立ち上げを予定」(松浦氏)していたりする。これらの仕組みを持ってニトリは「他社の商品も混載して配送する物流シェアリングに乗り出す」(同)考えです。

そのために注力するのが人材教育です。「配送スタッフは、ただモノを運ぶ人ではない。顧客の満足度を高めるには、笑顔で接するなどのコミュニケーション力が不可欠なだけに、接客業の位置づけで研修している」(松浦氏)と言います。社内スタッフに向けては「ブートキャンプ」と呼ぶ、実技と知識の両スキルを高める研修を実施。配送を委託しているパートナー企業には、「学術的な根拠に基づいた安全推進の手法や経営に関する知識を共に学ぶ勉強会」(同)を開催しています。これらにかける教育費用は「同業他社の4〜5倍」(同)とのことです。

これらの取り組みをスピード感を持って進められる理由について松浦氏は「自身は物流の専門家ではないから」と説明します。2015年にホームロジスティクス代表取締役に就任した同氏は、新卒でコンビニエンスストア会社に就職して以来、商品開発やマーケティング、広告やCMの作成、データ分析、さらには海外現地法人の経営再建などのプロジェクトに携わってきました。「だからこそ、大胆な改革ができたのかもしれない」と振り返る松浦氏は同時に、「新しいことへのチャレンジを後押ししてくれるニトリ経営陣の姿勢がある」ともしています。

「労働集約型と言われる物流という仕事に誇りを持て、相応の給与が確保できるように業界全体を改革していきたい。物流の仕組みを変えたいと考えている方は是非、一緒にやりましょう」と呼び掛ける松浦氏。物流センターがグッドデザイン賞を受賞したこともあり、ニトリで働きたいという若手も増えていると言います。「お、ねだん以上。」のフレーズでは、その商品開発力に焦点が当たりがちですが、その商品を客先まで確実に届けようとするニトリの物流改革にも注目する必要がありそうです。

執筆者:中村 仁美(フリージャーナリスト)

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