オイシックス大地のデジタルマーケティング戦略、ネットの売上増のカギは既存顧客の継続率

2018.03.13
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有機野菜や無添加の加工食品などをWebサイトやカタログを通じて販売するオイシックスドット大地。2017年10月に、オイシックスと大地を守る会が経営統合したこともあり、2017年の第3四半期末までの累積売上高は300億円を超えました。これを支えるのが、同社のデジタルマーケティング(デジマ)戦略です。デジマに取り組む企業は少なくありませんが、オイシックス大地は、どのような考え方でデジマに取り組み実行しているのでしょうか。

食の定期購入で圧倒的なNo.1プレーヤーを目指す

オイシックス大地のデジタルマーケティング戦略を指揮するのは、執行役員の西井 敏恭 氏。2017年10月には『デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法』という書籍を出版しています。同書の内容の中から、売上高を上げるための方法について、西井氏自身の解説を聞く機会がありました。「イーコマースフェア2018東京」(主催UBMジャパン)の基調講演でのことです(写真1)。同氏の解説から、オイシックス大地のデジタルマーケティング戦略の一端を紹介しましょう。


写真1:オイシックス大地の執行役員である西井 敏恭 氏。『デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法』を出版している

旧オイシックスが生鮮食料品をWebサイトで売り出したのは2000年のこと。最初は20品目の取り扱いでした。一方、旧大地を守る会は、1975年から食の安全に取り組んできましたが、Webサイトの開設は2010年からです。そんな両者が統合してできたオイシックス大地は2018年2月には、有機野菜などを宅配する、らでぃっしゅぼーやを子会社にしました。

これらの事業統合・集約について西井氏は、「同様の事業を展開している企業することで『オイシックス』というプラットフォームを整備し、そこに、いろいろなブランドを置くことで“食のサブスクリプションコマース(定期購入)”において圧倒的なナンバーワンプレーヤーを目指すため」と説明します。

「マーケティングとは何か」を本当に理解しているか

その西井氏がWebマーケティングの世界に入ったのは2003年のこと。化粧品や健康食品などを開発・販売するドクターシーラボでWebマーケティングの責任者に就いたことから始まりました。

当時「デジタルマーケッター」を名乗っていた西井氏の元には、数々の質問が投げかけられたといいます。「売上高を上げるにはどうすればいいですか?」「うちのサイトを見てください。どうですか?」「いい広告媒体を教えてください」「最近売れている広告媒体は何ですか」などです。彼らが期待していた回答は、マーケティングオートメーションやオムニチャネル、DSP(Demand Side Platform)/DMP(Data Management Platform)、動画マーケティングといったデジタルマーケティング関連のキーワードだったかもしれません。

しかし西井氏は「最も大事なことは『マーケティングとは何か』を本当に理解しているかどうかだ」と指摘します。この「マーケティングとは何か」は実は、西井氏がドクターシーラボに入社する際の面接で、当時の経営トップから投げかけられた問いかけでもありあす。西井氏は「ずっとマーケッターと名乗っていたが、この問いには全く答えられなかった」と当時を振り返ります。

そのドクターシーラボの経営トップの考えは、「マーケティングとは“売れる仕組み作り”だ」(西井氏)した。そして、オイシックスドット大地の社長は「マーケティングとは“買いたい気持ち作り”である」(同)としています。両社長の教えを受けた今の西井氏は「大事なことは“売る”仕組みではない。マーケティングとは“売れる仕組み作り”であり“買いたい気持ち作り”だとシンプルにとらえている」と話します。

既存顧客の継続率が売上増につながる

では売れる仕組みは、どのように作り出せるのでしょうか。西井氏は「まず自社の正しい現状分析と仕組み作りが必要になる」とします。現状分析があって初めて、売れる仕組みを考え、接客し、集客するという「成功するためのサイクルが確立できる」(同)というわけです。

現状分析では、売上高を新規顧客と既存顧客に分けて考えます。新規顧客の売上高は「集客 × 購入率 × 単価」です。これに対し、既存顧客の売上高は「単価 × 購入回数 × 継続率」で表せます。そのうえで西井氏は、「実は売上高を上げるには既存顧客の売り上げ、すなわち継続率が大事になる」と強調します。

西井氏は「年間の継続率が50%を切ると売上高は上がらない」と断言します。「購入回数が1回の層(F1)と購入回数が2回の層(F2)の間に大きな断絶がある」(同)からです。

たとえばオイシックス大地の場合、新規購入者の60%が30日以内に、90%は60日以内に離脱しています。それだけに、「2カ月以内、特に1カ月以内に2度目の購入をうながす施策を打つことが大事になる」(同)のです。

再購入をうながす対策はデジタルだから実行できる

対策の第1は製品です。初めて購入される製品の利用日数は「長くないほうがよい」と西井氏は話します。たとえば、90日分など“お得”な製品は逆に、2カ月以内に再購入する必要がないため、F2層になりにくいのが、その理由です。そのうえで「他社との違いがわかるような製品にして“実感度”を高め、もっと続けてみたいと思う信頼関係を気付き“安心感”を与えることが大事」(同)になります。

第2の対策は、コミュニケーションです。製品を「使いたい」「使いたくない」という判断だけでなく「忘れていた」という顧客が意外に多いのだそうです。そうした顧客をフォローするためには「まめな連絡と、ちょっとしたコツや助言を与える“ティップス”が必要になる」と西井氏は指摘します。オイシックス大地の例では、「使い続けてもらうには顧客に野菜をおいしく調理してもらう必要があるため、野菜本来の味が分かるサラダでの利用を提案する」(同)といったことです。もう一度使いたくなる提案を、忘れられないうちに伝えるというわけです。

第3の対策が優良客に向けたロイヤルティプログラムです。ここで重要なことは、「初回購入者のことは考えないこと」(西井氏)です。優良顧客以前の初回購入者は「ロイヤリティプログラムを気にしない」(同)からです。逆に「3〜4回ぐらい購入している顧客が気になるプログラムにする必要がある」と西井氏は指摘します。

これら3つの対策について西井氏は「DMなど紙の施策の時代では難しかった。デジタルでなければできないことだ」と強調します。たとえば、利用回数や離脱率といった数値の把握はもとより、「Webサイトの解析や会員情報の登録などにより、顧客1人ひとりが、どのように行動しているかを理解できる」(同)からです。

ロイヤリティプログラムでも、「続ければ続けるほどレベルが上がっていくゲームのような仕組みが良い。そのためには最新のステータスを可視化する必要があるが、これもデジタルであれば容易であり、顧客がハマっていくプログラムが作れる」と西井氏は指摘します。

Webに詳しくなくても特性を考えれば対応できる

デジタルの力は、新規顧客が少ないという問題解決にも、もちろん有効です。西井氏は「まずはSEO(検索エンジン最適化)やSEM(検索エンジンマーケティング)、メールマガジンやアフィリエイト、スマホ対応、アクセス解析、など基本的な施策が、きちんとできているか見直すべきだ。そのうでメールマーケティングやソーシャルメディア広告、アプリ提供といった次のステップに進めばよい。動画やAI(人工知能)などの利用は、さらにその先」とアドバイスします。

こうなると、社内にデジタルに詳しい人がいなかったり、実店舗でのビジネスが中心だったりする企業にすれば、デジタルの力をどう利用すればよいのかが気になることでしょう。そうした企業に対して西井氏は、次のように助言します。

「Webの特性とは何か、オフライン(実店舗)との違いを考えてほしい。1つは、Webは検索ができるため“比較される”ということ。次に一方的な情報発信ではなく双方向であるということ。第3は長期的なコンテンツではなく即時のコンテンツであるということだ。これら3つの違いを頭に入れて施策を考えれば、Webに詳しくなくても十分に対応できるはずだ」

デジタルマーケティングの世界は、デジタルとマーケティングのそれぞれの専門用語も多く、取っつきにくい分野の代表格かもしれません。しかし、西井氏の助言に従い根本的な仕組みを考え理解するようにすれば、デジタルは多くの事業者の見方になってくるのではないでしょうか。

執筆者:中村 仁美(ITジャーナリスト)

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