位置情報が切り拓く未来、文脈を読み解く力で人を取り巻く課題を解決

2016.10.25
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スマホ用ゲーム「Pokémon Go」の大ヒットにより、「今、どこにいるか」を把握・活用することへの注目が高まりました。物理的空間において、個々の人々に対し新たな相互作用を生みだせるかどうかは、多くの企業の関心事であり、あらゆる業種のビジネスチャンスをもたらします。今後は、ジオロケーションやIoT、新世代センサーといったテクノロジーによって、位置に関する膨大な量のデータが取得できるようになります。

こうしたデータにより、人々がどのように行動し、空間を利用しているのかを把握できるだけでなく、物理的空間そのものが、個々人に対する新しい相互作用点として機能し始めます。こうした位置情報は、これからのビジネスにどんな価値をもたらしてくれるのでしょうか。フランスの地理位置情報ベンチャー企業、OpenFieldの事例でみてみましょう。

(以下は富士通総研『ER第3号』の掲載論文『空間と地理位置情報共有の未来~コンテクスチュアル・インテリジェンスをインシデント解決に役立てる~』を再構成したものです)

空間と地理位置情報共有の未来

人が日々暮らし、働き、あるいは訪問先でいかに過ごしながら、人が環境との間で、どのような相互作用をもたらしているのか示す複雑で膨大なデータが存在しています。具体的には、アクセス制御システムやWi-Fiソケット、インタラクティブソケット、決済端末、Webサイト、モバイルアプリケーション、あるいはビルの管理システムなどの、それぞれが相互作用点になり得ます。

そうしたデータを用いて企業がサービスを提供しようとすれば、個人データを扱うことにおけるコンプライアンスやセキュリティの遵守や、透明性の担保はもとより、人がより良い行動を取ることに、どのように貢献できるかが鍵になります。われわれOpenFieldを設立した目的の1つは、人の行動をより深く理解してサービスを提供したいと思う企業の手助けをしたいと考えたからです。

OpenField_1
図1:仏OpenFieldのホーム−ページ

今、この場所で特定の行動をしている人に働きかける

OpenFieldは“つながっている空間”に人々が足を踏み入れた瞬間から生じるいくつもの「経験」を分析し、それを利用して企業が顧客にサービスを提供できるようにしています。加えて、サービスの利用者となる顧客が自らの行動を最適化できるように、企業と顧客に「コンテクスチュアル・インテリジェンス」を構築・提供することが重要だと考えています。コンテクスチュアル・インテリジェンスについては、戦略やリーダーシップの分野で多くの学者が学術的な定義を打ち出していますので詳細は割愛しますが、「動態的で複雑な文脈や相互作用から解を導く知性」だと理解してください。

コンテクスチュアル・インテリジェンスを構築するためにOpenFieldでは、独自のデータマネジメント・プラットフォームを用い、複数の相互作用に関する総合的なデータの収集と分析を同時進行で実行できます。当社アルゴリズムの特徴は、データを行動情報や地理的位置情報に変換し、行動予測や需要予測を可能にするリアルタイムトラッキングが実現できることです。例えば、機能統合型CRM(顧客情報管理)システムに対し、似たような行動を取った人々を瞬時にグルーピングしたり、個々人に応じたサービスを提供したりしています。

あるショッピングセンターの例を挙げましょう。ファッションフロアでWi-Fiに接続している、すべての女性に同時にメッセージを送ったり、ある集合場所に17時までに到着した、すべてのファンに一斉メッセージを送ったりが可能です。相互作用点のそれぞれから地理的位置情報に紐づいた取引情報が収集されており、それらは即時性と同時性があるからこそ潜在的なキャンペーンのトリガーになり得るのです。ある場所で1カ月前に買い物をした人の行動に期待して働きかけるのではなく、今その場所で特定の行動をしている人に瞬時に働きかけるのです。

他にも、物理的位置情報を用いて、訪問者や観光客が、どんなルートで行動し、その空間を利用しているのかを再現するアルゴリズムもあれば、コンテキスト(文脈)データから訪問者の次の行動や欲求を予測するアルゴリズムもあります。これらは、サービスの消費性向を分析したり、追加的な消費あるいは訪問見込みなどを知ったりする際に役立ちます。さらに、事件や災害が起こった時にプッシュ型の情報発信にも活用できます。

スタジアムにおけるCX(顧客体験)を最適化する

こうした地理的位置情報とコンテキストデータの活用先として近年、期待が高まっているのがスタジアム(競技場)です。スタジアムという物理的空間に関連する、あらゆる情報を複合的にリアルタイムで収集することで、イベント主催者が正確かつ迅速に利用者、すなわち顧客の行動を把握でき、それにより、マーケティングや販売戦略のインパクトを詳細に評価することを手助けできるからです。

Fans on stadium game panorama view
図2:位置情報を文脈データの活用が期待されるスタジアム

スタジアムに関連するデータとしては、入場券などの発券業務情報やアクセスコントロール、併設されたレストランやバー、カフェなど種々のショップでの消費データ、スポーツ競技の種類や選手、天気情報、交通情報、テレビ番組、学校や会社の祝休日、宗教の祝日などが挙げられます。

弊社では過去に、ある企業のマーケティング部門から「どうすれば“ノーショー(予約しておきながら当日利用しなかったり現地に来なかったりする人)”を回避できるのか?」という相談を受けたことがあります。その時は次のように対応しました。

(1)消費者を理解する:過去に観戦したスポーツイベントに関する消費者行動履歴を分析する。対戦相手、利用者の居住地、試合当日の天候や交通状況、祝休日情報など、250のクライテリア(判定基準)から、次の試合の際に“ノーショー”にならない確率を計算するための予測アルゴリズムを導き出す。

(2)便益と修正行動を考える:算出されたスコアに基づき、イベント主催者が購入者をチケット交換プラットフォームに誘導したり、都合で行けなくなったりした場合には、ソーシャルメディアと連動させて第三者にチケットを譲れるようなサービスを提供する。

オープンデータが空間と空間をつなぐ

現在、あるクライアントと一緒に取り組んでいることの1つが、特定の空間において、いかに人々が行動するルートを長くし、どれだけ短いスパンで再訪してもらうかどうかです。将来的には、災害時には人々をいかに最速に避難させ、いかに人々を安全な場所に誘導するかといったことにも応用できると考えています。例えば、テロの襲撃や、地震、予期せぬ構造破損、あるいは人ごみの中に潜む様々な危険から人々をいかに守るかといったことです。

ここで、オープンデータについて触れておかねばなりません。私達が持つデータベースとオープンデータを統合すれば、ある閉鎖的な空間(自らデータを取得できた範囲)において何が起こっているのかが分かることに加え、その空間の周辺状況も把握できるようになります。このことは何を意味するのでしょうか?

1つ言えることは、その空間から退出し、隣接した別の空間へ移動する方法、すなわち、避難の際に最適な経路を導き出すことが可能になるということです。これにより、個々人が避難する際にリアルタイムに情報を入手しながら空間から空間へと行動できるようになります。負傷したり生き埋めになったり、何らかの理由で応答しない人々を特定できるため、救出時の優先リストを生成することも可能になります。

Man monitoring cctv cameras in modern control room
図3:オープンデータの活用で隣接空間への移動を誘導したり救出時の優先リストを作成したりが可能になる

「すぐに使用可能なデータ」をサービスに生かす革命期へ

今後はますます“接続された(Connectedな)”環境が整い、そこでは物理的データがデジタルデータを上回ることになります。ビッグデータ現象を超え、リアルタイムに収集された「すぐに使用可能なデータ(Fast and Actionable Data)」によって、日常生活の中で個々人の経験を理解し最適化するという革命期に突入するのです。ただ、位置情報の活用には非常に大きな可能性があるとものの、データの利用と共有を取り巻く根本的な倫理問題を避けては通れません。私達は、違法行為がないように真摯に取り組み、セキュリティや倫理問題を戦略の中心に据えています。

デジタルマスコミュニケーションは、ローカライズされ、パーソナライズされ、あるいはイベントごとのインタラクションに特化するなど、より詳細でミクロなものへと変化を遂げてきています。多くの企業にとって、空間と地理的位置情報を利用して様々な分野のビジネスに戦略的に取り組むチャンスが訪れています。

執筆者:Cyril Smet(シリル・スメ。仏OpenField共同CEO)
パリ第6大学(ピエール&マリ・キュリー大学)工学部卒。双子の兄、二コラと2人でOpenFieldを設立、現在の社員数は約30名。2007年のラグビーワールドカップや、フランスラグビー連盟が主催する大会/イベントをはじめ、フランス国内における数々のスポーツ文化イベントなどにおける技術プロジェクトを手掛けている。2013年からは、物理的データとデジタルデータ、独自データとオープンデータを融合させ、新たなサービスや付加価値を提供するイノベーティブプラットフォームの創造に従事している。

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