デジタル化で注目されるオープン・サービス・イノベーション、共創でサービスを生みだす

2016.09.20
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「オープン・サービス・イノベーション」という取り組みをご存じでしょうか。これは、企業において新たなサービスを開発する際に、自社のリソースだけでなく社外のリソースを組み合わせてサービスを生み出す方法です。デジタル技術の進展により注目が高まっています。そのオープン・サービス・イノベーションには、どう取り組めば良いのかに対し、先人達の声が聞けるパネルディスカッションが2016年7月27日に開かれました。

パネリストとして登壇したのは、一般社団法人Code for Japan代表理事の関 治之 氏、NPO法人ミラツク代表理事の西村 勇哉 氏、株式会社enmono代表取締役の三木 康司 氏、QUANTUM inc.代表取締役副社長&COOの及部 智仁 氏、富士通株式会社 グローバルサービスインテグレーション部門 戦略企画統括部 統括部長の柴崎 辰彦 氏の5人。モデレーターは東京工科大学の澤谷 由里子 教授が務めました(写真1)。

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写真1:参加者との距離感が近かったパネルディスカッションの様子

本パネルディスカッションは、情報処理学会が発行する実践誌『デジタルプラクティス』のオープン・サービス・イノベーション特集号の内容を踏まえ、そのアウトラインを紹介するとともに、各領域の実践者を中心に具体的な実践のポイントについて議論しました。まずは各パネリストが、どのような取り組みを実施してきたかを簡単に紹介しましょう。

作りながら当事者とともに考える:Code for Japanの関 氏

関 治之 氏がCode for Japanを始めたのは東日本大震災がきっかけでした(写真2)。日本各地で避難生活を送る福島県浪江町の住民2万人以上に対し、分散避難によって失われた“つながり”を再生するためにタブレット端末を配布したのです。ただ配るだけでなく使ってもらえる仕組みにするために関氏は「当事者とともに考え、作りながら軌道修正する」という方針を立てました。実際に使っていく家庭では、「事前に紙で考えていたのとは印象が違った」という声も出てきました。ソフトウェア開発には、俊敏さを求めるアジャイルの手法を採り入れましたが、「計画重視の自治体にとってはハードルにもなった」と言います。

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写真2:Code for Japan 関 治之 氏

いかに色々な人を巻き込めるか:ミラツクの西村 氏

ミラツクのミッションは「既にある未来の可能性を実現する」こと。そのためのイノベーションプラットフォームとして過程を「創造ステージ」と「事業化ステージ」に分け、「創造ステージ」に注力を注いでいます。創造ステージでは、実践者を発掘し、多方面からの自発的なアクションと発想を得ていきます。背景には「普通に進めると自発性の高い人しか巻き込めない。色々な人を巻き込むための仕組みが必要」(西村氏)との考えがあります(写真3)。生活共同組合コープこうべでは、高齢者の孤立を解消するためのサービスを開発しました。2日間のワークショップと3カ月の取り組みでは、フィールドワークや調査、インタビューを通じて様々な人の意見を組み込めるよう工夫し、新規事業の種をいくつも創出しました。

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写真3:ミラツク 西村 勇哉 氏

禅の心で商品を開発:enmonoの三木 氏

「ワクワクするモノづくりで世界が元気になる」を企業理念に掲げるenmonoでは、事業開発のプロセスに“禅”の思想を採り入れています(写真4)。宗教性を排除したマインドフルネスは、心理的側面から人の集中力を高める手法として欧米でも注目されています。enmonoでは、4日間・48時間で事業化まで進める自社商品開発講座「zenschool」とクラウドファンディングサービス「zenmono」を手がけています。zenschoolでは、参加者の幸福度や創造性が受講後に向上しているというデータが得られています。zenmonoでは、日本生まれの空飛ぶ車「SkyDrive」といった成功例があります。

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写真4:enmono 三木 康司 氏

大企業とスタートアップが共創:QUANTUMの及部 氏

QUANTUMは2016年4月にTBWA HAKUHODO QUANTUMから分社。「従来は交わることがなかった業種・業態が異なる組織が共創し、ベンチャーを産み出す場所Startup Studio」(及部氏)として、インキュベーションの機能も持っています(写真5)。これまでに、清涼飲料メーカーや、オフィス家具メーカーの製品と連携するスマートフォンアプリなどを、スタートアップとの連携で開発してきました。及部氏は、成功の秘訣を「スタートアップと大企業の共創が不可欠。上下関係を作らないことがポイント」と話します。

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写真5: QUANTUM inc. 及部 智仁 氏

新しい時代のSEが共創を作る:富士通の柴崎 氏

富士通は今、新しい時代のSE(System Engineer)像を「SE4.0」として定義し、共創への取り組みを強化しています。SE4.0とは、(1)System Engineer、(2)Solution Engineer、(3)Synergy Engineer、(4)Seed Engineerの“4つのS”を持つエンジニアです。加えて、共創プラットフォームとしての「HAB-YU」や会員制DIY工房「TechShop」、コワーキングスペース「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY」を設けています。全国で様々なテーマを掲げ開催しているハッカソンでは、「2015年度に1500人以上の参加者を動員した」(柴崎氏)といいます(写真6)。

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写真6:富士通 柴崎 辰彦 氏

オープン・サービス・イノベーションの発展プロセス

各氏による活動内容の紹介に続くパネルディスカッションでは、澤谷氏のモデレートにより、会場からの質問を織り交ぜながら、オープン・サービス・イノベーションをどのように発展させていくのか、そのプロセスについて経験に基づく意見が出されました(写真7)。いくつかのポイントについて、Q&A形式で紹介します。

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写真7:モデレーターを務めた東京工科大学の澤谷 由里子 教授

問1:なぜ新サービスを立ち上げようと思ったのか

パネリストに共通していたのは、災害や苦境といった“マイナス”の体験からスタートしていること。関氏と柴崎氏は、2011年の東日本大震災がきっかけでした。一方、三木氏と及部氏は苦しい体験がベースです。三木氏の場合はリストラがきっかけ。「勝負をかけなければならない」という時に、自身が坐禅によって良いアイデアを得られたことから、「中小企業のコーチをしようと考えた」(三木氏)と言います。及部氏は、企画を通し苦労して作ったテレビCMを周りがだれでも知らないという経験から「何かが間違っている」という疑問と危機感がきっかけになりました。

問2:イノベーションを起こすには何が必要か

“人”との回答が多くを占めました。西村氏は「良い人が集まれば進むことは分かった」とすれば、及部氏は「オープンイノベーションとは、タレントマネジメントのことです。外部と内部タレントをソーシングして、仲間にすることが重要」と語りました。そのうえで西村氏は、「イノベーションに必要な資質がある人たちの“突破力”をどうやって引き上げる方のか」が、及部氏は「資質のある人を『手伝いたい』と思わせるための方法」を、それぞれ模索中だと言います。これらの課題は、三木氏が必要だとした「情熱」とも深く関係しそうです。

問3:顧客と共に“ものづくり”をするにはどうすれば良いか

柴崎氏は「協業と共創の違いを意識する必要がある。協業では“金の切れ目が縁の切れ目”になってしまう」と指摘。及部氏は「大企業にはスタートアップ企業を見下す傾向がまだある。対等なパートナーシップにするための工夫が必要」と強調しました。

問4:オープンイノベーションの事例を増やすにはどうすれば良いか

及部氏は「小さな成功体験を作り実績を見せていく。清涼飲料メーカーの自販機の例では、同社だけで進めれば5年はかかると言われたものを半年で実現することでオープンイノベーションや、スタートアップ企業との共創の意義を理解してもらえた」と回答。柴崎氏は、「メディアを手段として活用する」ことを勧めました。

パネリストと会場参加者による質疑応答は予定時刻を過ぎても終わらず、会場を退出しなければならない時間の15分前まで続きました。モデレーターの澤谷氏は「オープン・サービス・イノベーションが広がるよう、より良い方向に変えていきたいですね」と今後への期待を寄せました。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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