パルコのロボット活用戦略、ショッピングセンターを“素敵な出会い”の場に変える

2019.04.09
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全国に「PARCO」「ZERO GATE/Pedi」など約25拠点にショッピングセンター(SC)を展開するパルコが出店攻勢をかけています。そこでは「Shopping Center」を「Serendipity Center」すなわち“素敵な出会いを実現する場所”への変革を目指します。そのためにパルコが活用しようとしているデジタルテクノロジーの1つがロボット。ロボットをどう活用しようというでしょうか。

ショッピングセンターの“チャネルシフト”が不可欠

パルコは2019年3月16日、東京・錦糸町駅前に「錦糸町PARCO」を開業しました(図1)。夏には沖縄県浦添市にサンエーとの協業による「サンエー浦添PARCO CITY」を、秋には現在、建て替え工事中の「渋谷PARCO」を、それぞれオープンする予定です。


図1:「錦糸町PARCO」の外観(パルコのニュースリリースより)

新店舗では、ショッピングセンターを「得がたい体験、納得がいく商品サービスとの出会い顧客に提供する場所」に位置付け、これまで以上に接客を強化するとしています。その手段の1つとして活用しているのが、ロボットです。パルコのロボット戦略について、同社の執行役 グループICT戦略室担当である林 直孝 氏が「第3回ロボデックス ロボット開発・活用展」(主催:リードエキジビション ジャパン)で話しました。

林氏は「小売業においてはチャネルシフトが重要になる」と指摘します。その代表例に挙げるのが米Amazon.comです。同社はEC(電子商取引)サイトを拡充・展開することで成長してきました。それが最近は、「オンラインのプラットフォームをオフラインにも応用する2つのチャネルシフトを実施している」(林氏)のです。1つは、ボタンを押せば注文が完了する「Amazon Dash Button」や、音声で注文できる「Amazon Echo」の提供です。

もう1つは「Amazon Go」というリアルな店舗を作ったことです。特にAmazon Goは、「ECの特性である検索性と「楽・得・即」の特徴を有し、目当ての商品を購入する「計画購買」が可能で、ECの特性をリアル店舗で体験できるようになっている」(林氏)と言います。店員との不必要な会話やレジで待つこともありません。

Amazonの動きを受け「オフラインであるショッピングセンターもチャネルシフトしていかねばならない」と林氏は強調します。ただショッピングセンターは計画型購買ではないため「宝探し的な適度な探索性とコミュニケーションが必要だが、不必要な商品の探索時間は省きたい」(同)ところです。

さらに重要な要素が「顧客が得たい体験ができること。つまり納得がいく商品やサービスと出会えるようにすること」(林氏)です。ショッピングセンター(SC)のこれからについて林氏は、「まずは『Social Center』へ替わり、さらに“素敵な出会い”が実現する『Serendipity Center』へ変わっていかねばらない」と力を込めます。それは「接客を進化させることでもある」(林氏)のです。

顧客との接点にロボットを積極的に活用

接客を進化させるためにパルコが活用しようとしているがテクノロジー。林氏は「テクノロジーで接客を拡張する」と言います。中でも、接客の拡張という課題を解決するための選択したのがロボットなのです。

従来のPARCOは、インフォメーションセンターを設けていなかったため「顧客の案内があまりできていなかった」(林氏)といいます。その問題を解決しようとパルコは、2015年からロボットの活用に取り組み始めています。

まず2015年3月、福岡PARCOにAI(人工知能)を使って対話する「Pepper」(ソフトバンク製)を設置し、お客さま対応インフォメーションを実施。翌2016年は、4月から5月にかけて池袋PARCOにもPepperを設置し、多言語での顧客対応を実施しました(図2)。


図2:池袋PARCOでは「Pepper」で多言語対応を実験した(パルコのプレスリリースより)

同年6月には仙台PARCO 2にPepperと移動型の「Navii」(米Fellow製)の2台のロボットを設置しました(動画1)。

NAVii™ at PARCO | Fellow Robots from FellowRobots on Vimeo.
動画1:仙台PARCO 2への「Navii」設置時の紹介ビデオ(2分30秒)

2017年4月には、ロボット開発で有名な大阪大学石黒研究室の協力を得て「アンドロイド『U』」にコンシェルジェ業務を任せるという実証実験を1日だけでしたが実施。同年8月には浦和PARCOで、手の平サイズのAIロボット「ZUKKU」(ハタプロ・ロボティクス製)をレストランフロアに複数台設置しメニューの提案を実験しました。

同年秋には池袋PARCOに自らも開発に携わった自走式案内ロボの「シリウスボット」を導入し、開店中は顧客の案内を、閉店後は棚卸業務を補助するという実証実験も手がけています。

Amazon Echo導入で顧客の質問がリアルタイムにデータに

ただ2017年までの導入は、いずれも実証実験のため「接客ロスは続いていた」(林氏)と言います。そこで2018年からは、Amazon Echoを、その発売当日から池袋PARCOの複数カ所に設置し、店内の接客に利用し始めました。「インフォメーションカウンターで日々集計している、お問い合わせ記録から、よくある質問を中心に600を超える種類の質問に答えられる」(同)ほか、店内のショップやレストラン、取扱商品、周辺施設なども音声で検索できます。

2018年5月には名古屋PARCOで、Amazon Echoからシリウスボットを呼び出し、シリウスボットが顧客を案内するという実験も行いました(図2)。林氏は「実験段階だが、ロボットで案内することは可能だということは確認できた」と話します。


図3:名古屋PARCOではAmazon Echoでシリウスボットを呼び出し顧客を案内する実験を実施(パルコのプレスリリースより)

Amazon Echoなどスマートスピーカーを利用するメリットはデータにあります。「どの場所で、どんな質問が投げかけられたのかをすべて記録できる」(林氏)からです。たとえば、レストランフロアに設置したAmazon Echoへの質問で最も多かったのはトイレの案内ですが、1階の入り口付近に置いたAmazon Echoの場合はATM(現金自動預払機)の場所でした。

「これまでは1カ月に1回、お客さまからの質問内容を人力で集計していた。それが、Amazon Echoなどのスマートスピーカーを使えばリアルタイムに自動集計できる。これを上手く利用すれば、サービスや商品の開発にも生かせるのではないか」と林氏は期待しています。

シリウスボットによる閉店後の棚卸し作業についても満足げです。「RFID(ICタグ)の読み取りは従来、人が数時間かけて作業していた。シリウスボットなら20分間、走行させれば完了する。池袋PARCOでは共通廊下を走行したため読み取り精度が90%だったが、名古屋PARCOではショップ内の通路を走行させたため精度は98〜99%に達した」(林氏)ためです。

出会いを創出するプラットフォーム構築を目指す

パルコでは、各種のロボットやスマートスピーカーといったテクノロジー活用し、「接客のデジタル化」「リアルな行動・行動要因のデジタル化」「体験のデジタル化」「商品・在庫・購買情報のデジタル化」に取り組み、「すべての情報を統合し、AIを使って分析することで“おもてなしの質”を高めていく」(林氏)計画です。

そのために「顧客が求めるものとテナントの商品を、オンラインとオフライン双方の顧客行動データを元にAIによって個客ごとにマッチングできる『デジタルSC』、つまりSerendipity Centerのプラットフォームの実現を目指す」(同)考えです。そこでは、「人とロボットの協業と役割分担が欠かせない。まだまだゴールは先にある」と林氏は言います。今後パルコが、どのようなテクノロジーを投入していくのか注目です。

執筆者:中村 仁美(ITジャーナリスト)

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