電球でなく“明かり”を売る蘭フィリップス、電力削減量に応じて報酬を得る

2017.01.05
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オランダを本拠とする電機メーカーのフィリップス。日本では電気カミソリや電動歯ブラシなどの家電製品が有名ですが、グローバルには音響機器や医療機器、照明器具なども展開しています。そもそも炭素フィラメント電球を1891年に製品化したのがフィリップスの歴史の始まり。同社のルーツである照明事業ですが、今ではそのビジネス形態は大きく変わり、電球そのものは販売しない事業も手がけています。

フィリップスのライティング(Lighting=照明)事業の主役の座は、かつての炭素フィラメント電球からLED電球へと変わっています。加えてIoT(モノのインターネット)やクラウドといったテクノロジーも積極的に採り入れています。例えば、個人向けのスマートLED照明「Hue」では、スマートフォンを使って外から照明を点けたり、室内の利用状況に合わせて明るさや色調をコントロールしたりが可能です(動画1)。

動画1:IoTを使ったスマートLED照明「Hue」の紹介ビデオ

照明が持つ力を示すライトアップサービスを世界で展開

Hueは一般家庭を対象とした照明器具ですが、フィリップスは法人向けライティング事業も展開しています。都市の建築物である橋やモニュメントなどを垂らし出すライトアップサービスが、その一例。英国ニューカッスル市では1950 年代から使われていない菓子工場を、照明によって地域の象徴となるスペースへと蘇らせたり、スペインのかつての首都、バリャドリッドでは歴史的な建物を垂らし出すことで観光ツアーコースを作ったりと、照明が持つ新たな力を各地で見せつけています(図1、動画2)

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図1:1950 年代から使われていない菓子工場を照明によって英国ニューカッスル市の象徴として蘇らせた例

動画2:蘭フィリップスのライティング(照明)事業の紹介ビデオ

フィリップスが2016年10月に発表した2016年第3四半期の決算資料によれば、同社のライティング事業の売上高の56%はLED電球の販売が占めています。ただLED電球はコモディティ(日用品)化が進んでいます。結果、売上高は約17億ユーロと前年同期から減少しましたが、営業利益および営業利益率は前年同期から改善しています(図2)。コモディティ化で売価や収益性が低下しているLED電球を扱いながら、なぜフィリップスはライティング事業の利益率を高められているのでしょうか。

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図2:蘭フィリップスのライティング(照明)事業の2016年第3四半期の決算数字(出所:蘭Philips Lighting)

電球販売から「Lighting as a Service」に転換

その理由の1つが“明るさ”という価値をサービスとして提供する「Lighting as a Service」への転換があります。そこでは「電球」というモノ自体は販売しません。

Lighting as a Serviceは、法人顧客に向けて照明インフラの運用を請け負うサービスです。顧客が照明に求める性能を保証しつつ、照明のために消費している電力量を削減するための仕組みをフィリップスが提供します。そして、削減できた電力料金の額に応じて報酬を得るという成功報酬型のビジネスモデルを採っています。同サービスを利用する顧客は、照明器具や制御装置といった資産を保有する必要がなくなるうえに、照明にかかる電力料金を削減できるというわけです。このモデルは「Pay Per Lux(ルクス):明るさに応じて支払う」とも呼ばれています。

Pay Per Luxの代表例が、米国ワシントンDCでの駐車場を対象にした照明サービスです。フィリップスは市内1万3000以上の照明をLEDにアップグレードするとともに、10年間にわたる保守サービスを提供します。この契約で、フィリップスのLighting as a Service事業が有名になりました。また英国の学生組合であるNUS(National Union of Students)はフィリップスと15年間のPay Per Lux契約を結んでいます。契約期間中、NUSは最新のLED技術を継続的に使用できることになっており、大規模な投資なしに、長期にわってエネルギーコストを削減できると期待しています。

Lighting as a Serviceを可能にしているのは、デジタル技術に他なりません。具体的にはIoTとビッグデータの活用です。照明と、その近くに設置したセンサーから、室内にいる人の数や室温などのデータをリアルタイムに収集し分析しています。そのビッグデータから得られた結果を基に照明の明るさが最適になるよう提案・アドバイスしたり、実際にコントロールしたりするのです。一般オフィス向けのサービスは「Connected Lighting for Offices」と呼んでいます(動画3)。

動画3:一般オフィス向けのLighting as a Serviceである「Connected Lighting for Offices」の紹介ビデオ

IoTにつながることで“明るさ”以外の価値提供のチャンスも

フィリップスは現在、Lighting as a Serviceのグローバル展開を進めています。その一環として、通信機器ベンダー大手の米シスコシステムズと戦略的アライアンスを結んでいます。シスコのネットワーク技術を使って、インターネットに接続する照明システムである「Connected Lighting System」の機能強化を図るのが目的です。加えて、オフィス内のネットワークやスマートフォンを組み合わせることで、オフィスで働く人々が、おり快適かつ効率良く働くための様々のサービス提供も視野に入れています。

IoTにつながることで、フィリップスの照明事業は“明るさ”という価値にとどまらず、オフィスの快適さや働き方に対して新たな価値を提供できる可能性が出てきました。その意味で、Lighting as a Serviceは、IoTを活用した“発展途上のビジネスモデル”、すなわち「Outcome Economy(成果型経済)」の1つだと言えます。世界有数の経営者や政治家が集まるダボス会議においても、2015年に取り上げられたインダストリーIoTに関する議論では、このOutcome Economyが今後、広がっていくと予想されました。

日本が得意とする“ものづくり”はコモディティ化や模倣が容易といった宿命から逃れられません。しかし電球の製造からスタートしたフィリップスは、デジタル技術の力を借りることでサービス企業へ転身し、成果報酬得型のビジネスモデルを作り上げました。日本には、素晴らしいモノを作れる企業が、まだまだたくさん存在しています。デジタルビジネス時代に、どんな企業として成長していくのかについて、フィリップスの取り組みは大いに参考になるはずです。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)、小林 秀雄(ITジャーナリスト)

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