日米でこれだけ違う農薬のピンポイント散布、佐賀大+オプティムと米Blue Riverの最新技術

2018.06.05
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IoT(モノのインターネット)などデジタル技術の適用先として期待される分野の1つに農業があります。高齢化や少子化で就農人口が減少するなか、農業の高度化や自動化の必要性が高まっているからです。そんな自動化の動きとして注目されているのが農薬散布。ベンチャー企業が自治体や農家と組んで開発を進めていいます。ただ同じ農薬散布でも日米では、そのアプローチが大きく違います。それぞれ、どんな仕組みで農薬を散布しようとしているのでしょうか。

作業効率と安心・安全を両立

農薬は、害虫や雑草を取り除いたり、病気を防いだりするために用いられています。一方で、消費者の側では、「できるだけ農薬を使わずに育てた作物を購入したい、食したい」という声が高まっています。有機農法や無農薬農法などへ取り組む農家も増えているようです。

ただ有機農法や無農薬農法では、人手がかかり、結果として作物の販売価格を押し上げる要因にもなります。世界的には人口増が続く中、良質で安価な作物を提供するためには、作業効率と安心・安全を両立できるような農薬そのもの開発や、その利用方法が求められているとも言えます。

そうした観点から注目され始めたのが、農薬を必要な箇所だけに“ピンポイント”で散布する技術です。農薬の散布量を抑えられるので、低農薬の作物を提供できますし、農薬を購入するコストの削減にもなります。とはいえ、人の目だけで病害虫を発見したり、個々に散布したりするのは容易ではありません。ピンポイントの農薬散布はハードルが高いのです。

それが今、AI(人工知能)やドローンといったデジタル技術が進化してきたことで、それらを活用した農薬のピンポイント散布への取り組みが具体化してきています。

佐賀大とオプティム:自律飛行のドローンで散布

まず日本で、農薬のピンポイント散布技術を開発している例としては、佐賀大学とベンチャー企業のオプティムによる取り組みがあります。大豆を対象にしたピンポイントでの散布実験では、農薬の散布量を通常の10分の1以下に減少させることに成功。残留農薬も「不検出」という結果が得られました。

この実験で収穫された大豆は「スマート枝豆」と命名され、福岡県内の百貨店では通常の枝豆の3倍の価格設定ながら完売したといいます。ピンポイントな農薬散布技術によって、生産コストを抑えると同時に、高品質で付加価値の高い作物の栽培が可能になることを示したといえるでしょう。

佐賀大とオプティムがピンポイント散布に利用している技術は、ドローンとAIです。まず、ドローンによって農地を撮影します。その画像をAIで分析し、害虫や病気の発生状況を検知し、その場所を特定します。害虫や病気が発生している個所を示したデータを散布用のドローンに投入することで、ドローンは自律的に害虫・病気の発生個所に向かい、ピンポイントで農薬を散布します(動画1)。

動画1:オプティムの農業に特化したドローンの紹介ビデオ(1分22秒)

これまで、作物の生育状況を分析するためには人工衛星が撮影した画像を用いてきました。しかし、人工衛星による画像やリモートセンシングでは、解像度や信号強度に限界があり、必要な情報をピンポイントで入手することが困難だったといいます。

そこにドローンを利用することで、作物のすぐ近くで画像を撮影し、より詳細なデータを取得できるようになりました。佐賀大とオプティムは、近赤外線カメラを使って撮影した画像から、害虫のタンパク質の反射信号を積算する技術を考案することで害虫を検知しています。

米Blue River:トラクターで牽引する“スマートマシン”で散布

一方、米国で農薬のピンポイント散布に取り組む企業の一社が、スタートアップのBlue River Technology。2011年にスタンフォード大学の2人の大学院生が立ち上げました。2017年9月には、農業機械最大手のDeere & Company(ブランド名はJohn Deere)が3億ドル(330億円)強で買収しています。

Blue Riverが開発するピンポイント散布の技術は、「See & Spray(見て噴霧する)」と呼ばれ、ロボット工学と画像認識技術と機械学習を統合したものです。See & Sprayでは、カメラで撮影した画像から農地に生えている植物を認識し、それを機械学習によって作物か雑草かを選び出し、雑草にのみ農薬を吹きかけるのです(動画2)。

動画2:Blue River Technologyの「See & Splay」の紹介ビデオ(1分9秒)

当初、画像認識と機械学習の仕組みは、レタス栽培における間引き用に開発されました。品質の高いレタスを育てるためには、育成途中での間引きが必要です。Blue Riverは、See & Spray技術を搭載した“スマートマシン”を開発し、それをトラクターで牽引することで、生育のよくない作物を認識し、高速での間引きを実現しました。

このスマートマシンに、農薬を高速に噴射できるノズルを備えたのが、農薬のピンスポット散布用のスマートマシンです。こちらもトラクターで牽引して利用します。現在、綿花の栽培に導入されています。

Blue Riverも最近は、ドローンを使ったリモートセンシングにも取り組んでいます。ただ、彼らのドローンの使い道は、スマートマシンで実施したピンポイントな農薬散布の効果を検証することです。これによりSee & Spray技術をさらに発展させたい考えです。

所変われば品変わる、目的は同じでも実現方法は多様

農薬をピンポイントで散布するための取り組みとして、日本の佐賀大+オプティムと米国のBlue Riverの例を紹介しました。いずれも、画像認識技術とAIを採用することで、農薬を散布する場所を特定している点では共通です。

ですが、日本がドローンで解決を図っているのに対し、米国はトラクターで牽引するスマートマシンを解決手段に選んでいます。それぞれの企業が持つ得意技術ということもあるのでしょうが、日本と米国の農業事情などを考えれば、こうした違いが生まれるのも当然かもしれません。

たとえば作付面積の大小。日本では一農家当たりの作付面積が小さいため、トラクターで一気にというわけには、なかなか行きません。小回りが利くドローンの機動性が、より有効だと言えるでしょう。加えて、「付加価値を高める(高く売れる)」ことを目指しているだけに、対象になる作物も限定されるのかもしれません。

一方の米国の農地は広大で、元々機械化が進んでいます。そうした大量生産の仕組みを前提にすれば、トラクターで牽引できるスマートマシンのほうが効率的になるのでしょう。逆にドローンを使った散布となれば、飛行時間の制約によりカバーできる範囲が狭まるなどで上手くいかないかもしれません。

デジタル技術によって生み出される新しいサービスには、海外展開といった期待も高まっています。しかし、今回の農薬のピンポイント散布の例をみても、大きな目標は同じでも、それを利用する環境や対象の違いによって、最終的な実現手段は大きく異なります。それは国内だけをみても、地域特性などから同じことが言えます。

今後も、デジタル技術によって農業のスマート化が進行することは間違いないでしょう。ですが、その過程では、課題のとらえ方や利用する技術の違いから、様々な解決策が生み出されると予想されます。ベンチャー企業などが活躍する場面も増えそうです。

執筆者:池浦 正明(Digital Innovation Lab)、小林 秀雄(ITジャーナリスト)

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