数万曲が聞き放題の時代だからこそ必要に、AIが好みや状況に合わせて薦める“新たな発見”

2017.05.16
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最近、音楽の「定額制ストリーミングサービス」が盛り上がりを見せています。インターネットを通じて“いつでも、どこでも”世界中にある大量の音楽を楽しめるようになりました。そうした中で、お薦めの曲を選ぶのにAI(人工知能)を利用する動きが始まっています。ついつい“お気に入り”の曲ばかりを聴いてしまいがちですが、AIはどんな曲を薦めてくれるのでしょうか。

増える定額制の音楽ストリーミング

音楽の定額制ストリーミングサービスは、月額料金などを支払えば好きな楽曲を再生できる音楽配信サービスの一種です。スマートフォンや音楽プレーヤーなどに音源をダウンロードしての聴き方では、持ち歩ける曲はメモリー容量などの制限を受けますが、ストリーミングであれば膨大な楽曲を好きなだけ楽しむことができます。スウェーデン発のストリーミングサービス「Spotify」では、有料登録者数が既に5000万人を超えています。そのSpotifyが2016年9月、日本市場に正式参入するなど、日本でも複数の配信事業者がサービスを提供しています(表1)。

サービス名 提供楽曲数*1 月額利用料金 他のプランなど 提供会社名 開始時期*2
Spotify 4000万曲 980円 広告付の無料プランがある。全世界の有料会員数が2017年3月に5000万人を超えた スウェーデンのSpotify 2016年9月
Google Play Music 3500万曲 980円 無料プランや家族プラン(月額1480円で最大6人が視聴)がある 米Google 2015年9月
Apple Music 3000万曲 980円 ファミリープラン(月額1480円で最大6人が視聴)や学生プラン(月額480円)がある 米Apple 2015年7月
AWA 3000万曲 960円 月20時間まで広告なしで視聴できる無料プランがある AWA 2015年5月
LINE MUSIC 2400万曲 960円 学生は月額600円。月20時間まで500円(学生は300円)のプランがある LINE MUSIC 2015年6月
KKBOX 2000万曲 980円 特になし KKBOX 2013年6月
*3
レコチョクBest 400万曲 980円 特になし レコチョク 2013年3月
Prime Music 100万曲 3900円
(年額)
Amazonプライム会員の年会費に含まれ、追加料金は不要 米Amazon.com 2015年11月
*1 2017年5月時点  *2 日本国内向けサービスの開始時期  *3 「KKBOX」ブランドでの開始時期
表1:日本で利用できる主な音楽配信サービスと提供できる楽曲数

一方で、音楽の楽しみ方は大きく変化しています。従来は、新曲やアルバムなどが発売されれば、それが話題になりヒットにつながっていましたが、Webサイトの記事なども検索して読むように、音楽も好きなアーティストや好きな曲だけを聴く傾向が強まっています。ストリーミングサービスでは、曲の新旧や発表された地域を問わず、あらゆる音楽を聴く機会が得られるわけですが、なかなか知らない楽曲を発見したり昔のヒット曲を再発見したりは難しいのも事実です。いくら提供できる楽曲数を競っても、利用者からすれば聴きたい曲が聴けるかどうかのほうが重要ということになります。

こうした大量の楽曲とユーザーの“出会い”を創出するために音楽配信事業者が力を入れているサービスに「プレイリスト」があります。プレイリストとは、一定の基準に沿って複数の曲を選び出した曲目リストです。テーマやジャンルの別に作られたプレイリストもあれば、著名人が選択したプレイリストなどがあります。例えば、米Appleが提供する「Apple Music」は、専門のキュレーターが最新の流行や特定の観点で作成したプレイリストも提供していますし、LINE傘下の「LINE MUSIC」では一般ユーザーが作成したプレイリストをシェアすることが可能です。これらにより、自分では選ばないような楽曲と出会う機会を生みだそうというわけです。

AIが曲を聴いて好き嫌いを判断:Spotify

そんなプレイリストの提供において、AIの技術を活用する動きが出てきました。業界最大手Spotifyのプレイリストが、その1つです。Spotifyは、ユーザーへの“お薦め”サービスとして「Discover Weekly」と「Release Rader」の大きく2つを提供しています。前者は、ユーザーの視聴履歴に基づいてプレイリストを毎週月曜日に自動更新するもの、後者は、ユーザーがフォローあるいは頻繁に視聴しているアーティスト情報に基づいて新曲を集めたプレイリストを毎週金曜日に更新するものです。このうちDiscover WeeklyにおいてAI技術のディープラーニング(深層学習)を利用しています(動画1)。

動画1:新たな楽曲との“出会い”がウリの「Discover Weekly」の仕組みを紹介するビデオ

一般に音楽の“お薦め”は、「頻繁に聴く曲が似ている人は、音楽の趣味も似ている」という考えに基づき、ユーザーの視聴履歴と類似する他のユーザーの視聴履歴を参考にして選び出されます。この方式を「協調フィルタリング」と呼びますが、この方法では選び出されるのは試聴回数が多い人気曲中心になってしまい、視聴回数が少ない新曲や、ニッチなジャンルあるいはアーティストの楽曲は選び出されません。試聴実績に基づくため、「好みかもしれないけれど聴いたことがない」曲に似た楽曲やジャンルからも“お薦め”はできません。

そこでDiscover Weeklyでは、協調フィルタリングにディープラーニングを組み合わせた手法を産み出しました。協調フィルタリングが参照している情報が、楽曲に付与されているアーティスト名やジャンル名、ムードなどだったのに対し、ディープラーニングでは、曲そのものを参照します。音楽データを解析し、周波数パターンといった特徴を学習することで、曲そのものの類似性を判断できるようにしたのです。これにより試聴回数が少ない楽曲であっても、メロディーラインや曲調が似ていれば“お薦め”の対象にできるというわけです。Spotifyは、こうした“お薦め”を「音楽発見サービス」と表現しています。

視聴シーンを重視しパーソナライズ化:Google Play Music

プレイリストの“お薦め”にAIの技術を利用している、もう1つの例が米Googleの音楽配信サービス「Google Play Music」です。プレイリスト配信する「radio station」や、視聴履歴などに基づいて推薦する「I’m Feeling Lucky」といった機能で利用しています。Google Play Musicのプレイリストは、ユーザーの利用シーンを重視しているのが特徴です。通勤途中や飛行機に乗るといった「シーン」、仕事場やジムといった「場所」、晴れや雨などの「天気」、さらには、その時々の「気分」などに応じて、専門のキュレーターが用意するプレイリストが、いくつもあります。

動画2:利用シーンを重視する「Google Play Music」の紹介ビデオ

このシーン別の“お薦め”を、ユーザー1人ひとりに、より最適にするために機械学習を導入しました。ユーザーが今いる位置や、その地域の天気、時間帯、スマホなどに登録されている予定などの情報も学習しています。この仕組みは「Google now」というパーソナルアシスタント機能にも利用されています。Google Nowでは、現在の場所と時刻、Googleでの検索履歴やGmailの中身などから、その時々に必要な情報を「カード」という形で表示します。こうした機械学習で得られるユーザーの行動傾向を、ユーザーの視聴傾向やキュレーターが作成したシーン別プレイリストなどに加味することで、シチュエーションに合った曲をリアルタイムに“お薦め”するというわけです。

サービスのパーソナライズ化へのAI適用が広まる

いかがだったでしょうか?定額制の音楽ストリーミングサービスの増加は、音楽好きには、とても魅力的です。ですが事業者からすれば、音楽好きなユーザーが特定の曲しか聴かないのであれば、より多くの楽曲を配信できるようにする意味が薄れますし、新たなアーティストや楽曲の登場機会を失うことにもなりません。さらに、これまで音楽を積極的には楽しんでこなかった層にも訴求したいことでしょう。そうしたユーザー層をつなぎ止めたり振り向かせたりするためのシカケが、新たな楽曲との出会いであり発見です。

こうした傾向は、音楽に限ったことではありません。よりユーザー個々人に適した“お薦め”を実現するために、利用状況はもとより、コンテンツそのものをAIで分析・学習する動きは広まることでしょう。

執筆者:長澤 卓哉(Digital Innovation Lab)

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