3Dプリンターで蘇る名車、独ポルシェが旧車の部品を“印刷”で提供

2018.09.04
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「ポルシェ」といえば、クルマ好きでなくても、その名前やスタイルは誰もが知るスポーツカーのブランドです。その独ポルシェが、3Dプリンターを使った保守部品の提供サービスを始めました。EV(電気自動車)や自動運転など未来に向けた開発が進む一方で、最新テクノロジーで“往年の名車”を最高の状態で走行可能にしようという取り組みです。

ポルシェの全生産台数の7割が今も現役

2018年に設立70周年を迎えた独ポルシェは、スポーツカーやレースカーのメーカー。「ビートル」の名称で知られるフォルクスワーゲン・タイプ1や、ドイツ軍の戦車なども設計していたフェルディナント・ポルシェ博士が設立した設計事務所が起源です。息子のフェリー・ポルシェ氏が「ポルシェ356」を設計・開発し、1948年に自動車メーカーになりました。現在は、独アウディや伊ランボルギーニとともに、フォルクスワーゲングループの一員になっています。

同社のフラッグシップモデルは、1964年に発売された「ポルシェ911」。以後改良が続けられ、現在は7代目となる「ポルシェ991」として販売されています。代替わりが進んでいるとはいえ、ポルシェの特徴は、旧世代の911が今も現役で走っていること。同社の推定によれば、ポルシェの「現役率」、すなわち、これまでに生産されたクルマが今も稼働している割合は70%に上ります。

ちなみに日本国内で新車登録された乗用車の場合、2017年度の数値ですが、前年度の2016年度登録で約93%、10年前の2006年度登録は約75%、20年前の1996年度登録では約11%にまで減少します(自動車検査登録情報協会調べ)。大衆車とスポーツカーの違いや、車検制度、EVなどの新車優遇制度などの影響もあるのでしょうが、クルマとのつきあい方が大きく違うといえそうです。

その違いは、アフターマーケットにも現れています。日本で中古車といえば「古いけれど安いクルマ」のイメージが強いですが、欧米ではポルシェの現役率70%が示すように、古いクルマを当時の姿そのままにレストア(復元)するガレージが存在したり、レストア車のオークション大会などが定期的に開かれたりしています。こうしたクラシックカーは、まさに“愛車”なのでしょう。

ポルシェ自身、70周年記念として、20年前に生産終了した4代目のポルシェ911(993型)をレストアする「クラシック プロジェクト ゴールド」を進めています(動画1)。専用のエンジンや部品なども製造し、全くの新車に作り直すというのです。2018年9月27日に一般公開し、10月27日にはオークションで販売する予定です。

動画1:20年前に生産終了した車種をレストアする「クラシック プロジェクト ゴールド」の紹介ビデオ(1分59秒)

クラシックカー専門部門が保守部品を供給

こうしたニーズに応えるために、ポルシェはクラシックモデルを専門に扱う部門「ポルシェ クラシック」を持っています。そこでは、旧車の保守部品を保有するだけでなく、最新の保安基準に適合するように、最新の生産技術を使って改良した部品も製造しています。そのためだけに専用の工具を作ることもあるようです。創業時に発売したポルシェ356の保守部品も供給されており、部品数は約5万2000点におよびます。

当然、希少車種の希少部品をすべて保有し供給し続けることは、採算面でも業務共立の面でも厳しいことは、ポルシェも例外ではありません。たとえば、1986年に生産された「ポルシェ959」は、レースに参加するために必要最低限の台数である292台しか存在しない限定車です。レース用車両のため、他の車種の部品とも互換性は高くありません。959用のクラッチのリリースレバーは、すでに枯渇し、入手不可能だといいます。

そこでポルシェが採用に踏み切ったのが、3Dプリンターによる保守部品の製造です。採用する3Dプリンターの技術は、レーザー溶融法と「SLS(レーザー焼結法)」の2種類。前者では、鉄製あるいは合金製の部品を、後者では樹脂製の部品を製造します。2018年2月に、まずは8つのパーツを対象に3Dプリンターで製造し始めました(写真1)。


写真1:ポルシェが3Dプリンターで製造する保守部品の例

その中には、上記の959用クラッチのリリースレバーも含まれます。リリースレバーは、コンピューター処理によって厚さ0.1 mm以下の粉末工具鋼の層で覆った処理プレートにレーザーを照射し、粉末を溶融させて製造します。プリントされた部品は、3トン近い負荷をかけた圧力試験や、内部欠陥の有無を調べる検査、テスト車両での走行試験などにも合格しているといいます。

3Dプリンターで製造した部品は、発売当時の品質要件よりも高い基準をクリアできているそうです。こうした結果を受けて、ポルシェ クラシックでは、さらに20の部品についても3Dプリンターで製造できるかどうかの試験に着手しています。

業務効率を高めつつ顧客との関係も強化

3Dプリンターによる保守部品の製造は、部品の3D設計データ、あるいは実際の部品を3Dスキャンしたデータがあれば容易です。メーカーであるポルシェからすれば、他の誰よりも正確なデータを持てるはずです。顧客からの注文を受けてから製造すれば良いので、部品の保管コストも節約できます。

そのうえでクラシックな“愛車”に長く乗り続けたい、いわばファンとも呼べる顧客と、より長期的な関係を維持できるのですから、ポルシェブランドの価値をさらに高められることにもなります。

大衆車においても同様のことがすぐに実現できるとは限りませんが、短期間での買い換えを良しとする現代のビジネスモデルの中にあって、3Dプリンターによる部品などの製造は、日本が失いかけているかもしれない「良いもの修理しながら長く使う」という文化の再生にもつながるのかもしれません。

執筆者:力石 恭一(Digital Innovation Lab)、志度 昌宏(DIGITAL X)

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